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フリッカー
※このスレに気付いていなかったので、修正を加えた後移動させました。
私の名前は、シキミ。イッシュポケモンリーグを守る四天王の一人であり、小説家としても活動している。
私は、世間でもあまり類を見ない、ゴーストポケモンを好んで使うトレーナーだ。それだからか、周囲からはあまりよくない目で見られたり、さまざまな憶測が飛び交ったりしている事多いが、ゴーストポケモンの使い手となったのには、もちろん理由がある。
それは、オカルトものが好みな訳でも、変な宗教に惹かれた訳でもない。単に、純粋な興味からだ。
ゴーストポケモン。
未だ起源が不明なポケモンの中でも、特に謎が多い存在。他のポケモンとは明らかに異なる特徴を多く持ち、そもそも『生物』なのかすらもわからない種族。だから幽霊(ゴースト)。世間に存在する物事が科学の力で解明されつつある中で、ゴーストポケモンだけは未だ科学の力では説明不能な部分が多くある。だからこそ、ポケモンの中でも特に人々に畏怖されるのだろう。
そういう所に、私は惹かれた。
当時の私は、好奇心が強くて怖いもの知らずだったらしい。科学では解明できない未知の存在と行動を共にし、共に勝負をする事ができる。それが、まだ幼い私にとっては想像してみただけで胸が躍る事だった。きっと、今までの生活では体験できもしない出来事を体験できるだろうと思って。ドラゴン使いも鳥使いも、幼い私にとってはありきたりな存在でしかなく、誰もが未知故に敬遠するゴーストポケモンの使い手になる事の方が、ずっと魅力的だと思っていた。
だから私は、親の反対を振り切ってゴーストポケモンのヒトモシを手に入れ、ポケモントレーナーとして旅立った。周りに何と言われようとも、私は自分の決めた道を信じて進み続けた。結果、私は四天王の一角となるまでに実力を伸ばす事ができた。
それだけ言えば、ありふれたサクセスストーリーのように見えるのだが――
――思えば、今でも後悔する。
どうしてその時の私は、ゴースト使いになる事を少しでもためらおうとしなかったのだろうか、と――
*
フィールドが、青白い炎の爆発に飲み込まれた。
爆発により起きた熱風はこちらにも伝わってきて、思わず顔を腕で遮る。まるで自分が噴火している火山の真っただ中にいるような錯覚がする。
桁外れの熱量だ。私が使うシャンデラもほのおタイプを有しているが、ここまで激しい熱量は出せない。いや、世界中のほのおポケモンを探しても、ここまでの熱量を出せるポケモンはいないだろう。それは既に、ポケモンが放つ炎の領域を超えている。では、この炎を放った主は果たして何者なのだろうか。
熱風が収まった所を見計らって、遮っていた顔を上げる。
フィールド上に燃え上がる青白い炎の中に、蜃気楼のようにそびえ立つ巨大な白い影。それは全てを焼き尽くす灼熱の炎の中でも、神々しい輝きを失っていない。まるで、この世の存在ではないかのように。
「これが、伝説のポケモンの力……」
はくようポケモン・レシラム。
曰く、争いが絶えなかったイッシュ地方をその炎で焼き尽くしたと言われる、伝説のポケモン。
曰く、大気を動かして世界中の天気を変えられるほどの熱量を放てるという、伝説のポケモン。
その、伝説の中での存在でしかないはずのポケモンが、今の私の敵だった。
最近になってイッシュ地方においてさまざまな事件を起こしている謎の組織、プラズマ団。
その王だという青年・Nが自らの力を証明するべくチャンピオンに挑もうとしている、という話を聞いたのはつい最近の話だ。旅をしていてリーグを長く留守にしていたチャンピオン・アデクさんが戻ってきて、すぐにこの話を聞かされた時は私も驚いた。
プラズマ団の中心人物だというのなら、有無を言わさずすぐに警察を呼び出して捕まえさせればいいと思ったが、Nの実力はもはや警察では手も足も出ないレベルにまであるらしく、そして彼は正々堂々とチャンピオンに挑もうとしているというアデクさんの話もあり、結果として通常と同じようにポケモンリーグで普通の挑戦者として迎え入れる事になったのである。
そして数日後、果たしてNはやってきた。
チャンピオンに挑むためには、まず四天王に勝利しなくてはならない。そのルールに従い、彼は私にも正々堂々と試合を挑んだ。全てのポケモンを解放する、という理念を掲げて。
犯罪組織の中心人物に公式試合を挑まれるという事に、私は苛立ちを覚えた。犯罪組織の人間ならそれらしく、強行突破してチャンピオンの元に向かおうとしない所が、相当な自信を誇示しようとしているように見えたのだ。
いつもの公式試合でもそうだが、今回は特に手を抜かずにはいられないと思った。Nが何を目論んでいようと、犯罪組織の人間を黙って先に通す訳にはいかない。そう意気込んで、試合に臨んだ訳なのだが――
Nが繰り出したポケモンは、私の予想を大きく超えたものだったのだ。
「……」
中性的な顔立ちが特徴的な青年であるNは、レシラムの戦いを黙って見守るだけで、ポケモンバトルの基本である指示を行おうとすらしない。絶対的な信頼をレシラムに向けているその瞳が、『指示をするまでもない』と自惚れているように見えて、私は歯噛みした。
私は、未だレシラムに一矢報いていない。ブルンゲルも、デスカーンも、そしてゴルーグさえも、レシラムには全く力が及ばなかった。最後の手持ちは私の手持ちの中でシャンデラだが、それでもレシラムの強大な力に圧倒されている。先程の“あおいほのお”の直撃を免れたのは、奇跡としか言いようがない。しかし、直撃を免れ、しかも特性の効果により無効化できるはずのほのおわざにも関わらず、シャンデラはかなりのダメージを被ってしまっている。辛うじて浮いているが姿勢は安定せず、今にも墜落してしまいそうな状態だ。
一方で、こちらの攻撃は一切レシラムに通じている様子がない。シャンデラとて攻撃力はほのおポケモン・ゴーストポケモンどちらにおいてもトップクラスだ。にも関わらず、攻撃を一撃受けてもレシラムは動じないのだ。
まさに力の差は天と地ほどの開きがある。これでは、勝負にすらならない――!
「はあ、はあ、はあ、はあ――!」
私の息が荒くなっている。
その場から動いた訳でもないのに、まるでマラソンを走った後のように心臓は激しく高鳴り、肺は貪欲に酸素を欲しがっている。だがそのお陰で、自分が追い込まれているという事を実感できる。
レシラムが、次の攻撃を放とうとしている。口から放とうとしているそれは、恐らく“りゅうのはどう”。標準的な技だが、レシラムのパワーを持ってすればどんな破壊力になるのかはわからない。
このままでは、自分の力が及ばないままNを通す事になる。それだけは避けなければ。
たとえ、諸刃の剣を使う事になろうとも――!
「シャン、デラ……!」
左手で握るダークボールを、更に強く握りしめて、命令する。
「周りの炎を吸収して“だいもんじ”!!」
すると、フィールドの大半を包んでいる炎が、シャンデラの体に引き寄せられ、吸収していく。
シャンデラは、炎を吸収して自らの力に変換する『もらいび』の特性がある。直接的なほのおわざはレシラムの特性『ターボブレイズ』によって打ち消されてしまったが、フィールドで燃えている炎なら吸収てきるはず、と私は判断したのだ。
だが、間に合うか。
いや、そもそも問題は――
レシラムが“りゅうのはどう”を放つ。
同時にシャンデラも、吸収した炎を一転に集めて放つ。
単純なわざそのものの威力は“りゅうのはどう”より上回る“だいもんじ”だが、これに『もらいび』の効果を上乗せしても、レシラムの“りゅうのはどう”を受け止め、相殺させる事しかできなかった。
だがそれでも、相殺できさえすれば、起点とするには十分だった。
「顔に“ニトロチャージ”です……っ!!」
ダークボールを握る左手を突き出し、指示を出す。
すると、シャンデラは全身を炎で包み、爆発の煙を隠れ蓑にしてレシラムに突撃する。レシラムには煙の中から急にシャンデラが飛び出したように見えただろう。レシラムは炎の弾丸となったシャンデラの突撃を顔面に受けた。
「はあ、はあ……“シャドーボール”で連続攻撃を……っ!!」
指示通りに、シャンデラはレシラムの背後から反転し、“シャドーボール”の連続攻撃をレシラムに浴びせる。
“ニトロチャージ”による顔への攻撃で怯んだ隙に、“ニトロチャージ”で得た加速力を活かして不規則に周囲を回りながら連続攻撃。レシラムはシャンデラを捉える余裕もなく、反撃の余裕を与えられない。
しめた。この調子なら、レシラムを畳み掛ける事ができる。いくら一発だけではダメージにならない攻撃でも、何度も浴びせられれば響いてくる。そして何より、このままうまく行けば私も――
「後ろだ、レシラム!!」
そこで、何を思ったかNが口を開いた。
その直後、ちょうどシャンデラはレシラムの背後に回り込んでいて、“シャドーボール”を放とうとしていた――
レシラムは顔を向ける事なく、そのロケットのバーニアのような尾から炎を吹き出す。シャンデラはその炎に突っ込む形となってしまい、そのまま炎をもろに受けて落ちてしまった。
「そんな!?」
どうしてNは、シャンデラの位置を特定できたのか。
加速して目まぐるしく動き回るシャンデラを、肉眼で捉えて行動を読んだのか。いや、あの不規則な動きを読むなど、常人にできるはずがない。まるで、未来予知でもしたかのような――
その思考を強制終了する。
なぜなら、落ちたシャンデラに、再びレシラムは“あおいほのお”を放とうとしていたからだ。
あの桁違いの炎が、再びシャンデラに放たれようとしている。受けてしまえば、それで勝負が決まってしまう。だが、完全にかわす事も不可能だ。なら、同レベルの攻撃をぶつけて、相殺するしかない。
もう、選択肢は一つしかない。
「……っ、“オーバーヒート”です!!」
使えるのは、シャンデラが持つわざの中で一番強力な“オーバーヒート”だけ。余計な事を考える余裕もなく、指示を出した。
そして、レシラムの“あおいほのお”と、シャンデラの“オーバーヒート”が放たれたのは、ほぼ同時だった。
赤と青の炎が、二匹の間でぶつかり合う。
二つの炎の力は互角。一歩も譲らぬまま、周囲に熱風を巻き散らしていく。
こうなれば、後は純粋な持久戦だ。どちらか一方が力を緩めた瞬間、敗北が決定する。
それはつまり――
「は……ああ――っ!!」
先に耐えられなくなったのは、私の方だった。
一瞬視界がぼやけたと思うと、足の力が抜けて、力なく崩れ落ちる私の体。
そして、二匹の炎のぶつけ合いも連動し、周囲が青い炎に飲み込まれて終わりを告げた。
「はあ、はあ、はあ、はあ――」
周囲で何が起きたのか、もう把握できない。
もう意識が薄くなり始めていて、周囲の状況を把握する事に気が回せない。
ただ、この状況になっているという時点で、私は敗れたという事には気付いていた。
かつんかつん、と誰かが歩いてくる音。
それが誰なのか把握しようと残った意識を向けた時。
「どうして君は、無理をしてまでポケモンを手放さないんだ? それを続ければ、君は破滅するというのに」
私の目の前で、そんな声が耳に入った。
2011/01/04 Tue 10:25 [No.30]