Net4u レンタル掲示板を作る
ゆな
・上の直接の続き
・短いよ!
・とりあえず男か女か一瞬自分でも分からなくなった。
■
その時を見計らい、スズネはハルカとレオードを見上げながら心配そうな声で訪ねる。
「婿様、レオード様、これから一体どうするおつもりなのですか……?」
「スズネ?」
「今は休むと仰られておりましたが、この逃亡は長続きしないのが目に見えています。日ノ国に何かしらの陰謀があるとしても、これ以上深入りしてしまえば婿様達は傷を負い、最悪命を奪われてしまうでしょう……。そうなってしまったらわたくし、どうすれば……」
小さな声を震わせ、潤んだ瞳から涙をこぼし、想像してしまった最悪の光景にスズネは耐え切れずに両手で顔を抑える。ひっくひっくと声を洩らし、今にも泣き崩れそうな姿は痛々しい。
彼の立場を考えれば、こうなってしまうのも無理は無いだろう。ハルカに誘われるまま、未知の存在だった城下に足を踏み入れただけだというのに、その一つの過ちによって恩人達を危険にさらした挙句、帝国の英雄にまで追われる事になってしまったのだ。マヨやセイナの件もあり、無事な内にどうにかしたいと願いたくもなる。
延々とこぼれる涙を必死に手で拭き、長い漆黒の髪を揺らしながら落ち込んでいくスズネ。そんな彼を見て、ハルカは逆に大きく笑みを浮かべると軽く頭を叩き、元気強い声と態度で己に振り向かせた。
「なーに言ってんのよ! このあたしがそう簡単に負けるわけないじゃないの。あたしの嫁になりたいんなら、その弱気をどうにかしなさいっての!」
「婿様……」
「あたしがいるから大丈夫よ! でもねスズネ、あんたには色々きつい事になるかもしれないわ。あたしが一緒にいるとはいえど、そこまでは保障できない。だからあんたはちゃんと前を見て、その上で良い判断をすればいい。怯えて逃げた判断は禁止よ! いいわね!」
両手を腰に当て、何処から来てるのか分からん自信を盛大に出しながら言い切ってみせるハルカ。だがその内容は決して彼女本意のものではなく、スズネを見た上で前向きにさせてくれるものだった。
何の根拠も無い前向きな言葉であるものの、ハルカが持つ尊大な態度とブレる事の無い炎のような豪気さ。そして最悪の追っ手が存在していると知っても尚、決して諦めない魂。それを間近で垣間見たスズネは心音が耳に響くぐらい激しく鳴ったのを感じた。
そうだ、この人はこういうお方だ。
己がいくら水底へ沈みそうになろうとも、決して消えることの無い炎を持って引き上げてくれる。
死体のように冷たくならないよう、太陽のような温もりを与えてくれる。
何も知らないまま保身に走りそうになった自分を引きとめ、知るべき真実に向き合わせようとしてくれる。
己とは真逆の炎の化身。故にスズネはあの瞬間己の下に落ちてきたハルカに心を奪われ、婿と慕っているのだ。今、彼女はそれを証明してくれた。
スズネは胸に溢れんばかりの喜びを感じながら、涙を拭き取ると花のような笑顔を浮かべてハルカに頷いた。
「はい、婿様……!」
お前ら、自分の性別分かってやってんのか。
傍から見ていると典型的な御伽噺に出てきそうな、勇気ある若者と悲劇的な運命に囚われたお姫様のワンシーンそのものにレオードは細目になりながら内心ツッコミを入れた。口に出さないのは言っても無駄だし、面倒だから。
2011/03/21 Mon 22:37 [No.201]