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ゆな
・衝動のままに描く嘘予告ピックアップシーン
・第一弾はハルカとゼンの邂逅。
・状況は日ノ国の追っ手(帝国に所属してる二人含めて)をどうにか回避し、深い森林の中にある洞穴に避難中。
・でも文章が長すぎて、区切る羽目になりました。
 ■
 先ほどとは打って変わり、不気味な静けさが支配する暗闇の森林。風に揺られて、木々がさえずる以外の音は何も無い。
 森林の奥の奥の更に奥、一目では分かりづらかろう死角にある崖下の洞穴。その中でレオードは猫の耳を立て、右腕を上げたまま目を閉じていた。彼の右腕には渦を描くような紋章が浮かび上がっており、水色に発光している。それに呼応しているのか、右腕には終わる事無くそよ風が幾度と巡り、その影響で彼の髪と服が揺れる。
 心配そうに見ているスズネ、スタミナ切れ状態のマヨ、スズネの膝に頭を乗せて横になってるセイナを庇うようにハルカは前に出て、小声でレオードに状況を訪ねる。
「どう、レオード」
「……まだこちらには気づいていないようだ、探せ探せって騒いでいるわりには間抜けだがな」
「つまり?」
「この付近にいるのはモンスターと動物程度、ここなら暫くは誤魔化せるって事だ」
 そう言いながらレオードは右腕を下げる。同時に腕の紋章は消滅し、耳もぺたんと下がる。
 彼がさっきまで行っていたのは風魔法の一種で、そよ風を広範囲に巡らせる事で辺りの敵がどうなっているのかを探る代物だ。これにより追っ手に見つかっていない事が分かり、ハルカは一安心しながらもきつい口調で問う。
「魔力はちゃんと節約したんでしょうね」
「安心しろ、追跡される量は出してない。それより蓋をしろ」
「分かったわ。……セイナ、出来る?」
 レオードに頷いた後、ハルカは振り返って横になったままのセイナに訪ねる。セイナは返事する代わりに、腕を上げて入り口を指差す。すると地面から大きな岩が音も無く生えてきて、すっぽりと入り口を覆い隠した。
 それに続けてハルカが片手を挙げ、己の手の上に小さな炎を出現させる。炎はふわりと浮かび上がっていき、洞穴の天井近くで止まると全体を照らす灯へと変貌した。
 ぺたりと腕を下ろし、セイナは息を切らしながらハルカに訪ねる。
「これで、いいですか?」
「良くやったわ、ありがと。後はゆっくり寝なさい」
「はい、ハルカ……」
 スズネの横に座り込み、ハルカは彼の膝枕で眠るセイナの頭を優しく撫でる。その心地よさを感じながらにこりと笑った後、セイナはそのまま目を閉じた。
 スズネは事切れたような様子に思わず声を出してしまうが、ハルカが彼の肩に手を置いてフォローする。
「セイナちゃん!」
「大丈夫、気を失ってるだけ。寝てれば回復するわ」
「帝国の烏相手にやりあった後だ、無理も無い。……蓋をする助力があっただけマシだ」
「あんた達が遭遇した烏ってどんな奴だったの?」
 壁に背をもたれかかせ、腕を組むレオードの言葉を聞いてハルカは顔を上げる。
 スズネとレオードはセイナと共に逃げていた際、遭遇してしまった帝国の追っ手の特徴を話す。
「漆黒の翼を生やした黒衣の男です。銀色の髪と赤い目が珍しくて恐ろしく感じましたが、思ったより優しいお方で……」
「戦闘に徹してたのがセイナだったのが理由の一つだろ。明らかに子供って理由でしり込みしていた」
「それ、鳥の獣人?」
「いや、恐らく天使の亜種だ。魔力を武器に変換して戦うなんざ、生まれつき魔力の高い天使にしか出来ん」
「げっ、セイナ相性悪いじゃないの!? 大丈夫だったの?」
「奴さんから見逃してくれた。子供を苛めるのは趣味じゃないって理由でな」
「ヒーローじゃなくて良かったわ、ホント。……で、そっちの亡霊もどきは何が理由で死んでるの?」
 セイナが戦った帝国の追っ手が子供に甘い性格の男で、良かったと安心するハルカ。これがヒーローと呼ばれているネイリ・グレンベルグだった場合、目も当てられない事になってただろう。
 心底運が良かったと思いながらも、別行動をしていた筈のマヨがセイナ以上にくたばってるのを横目で見てハルカはため息をつく。
 いまだに息を切らし、くたばったままのマヨにスズネは心配そうに声をかける。
「あのマヨ様、大丈夫ですか……?」
「無理、死んでる……。何でよりにもよって、あの帝国の英雄さんが出てくるんやっちゅーねん……」
「うっそ、ネイリ・グレンベルグとやりあったのあんた!?」
「ドァホォ! 死ぬ気で逃げまくったに決まっとろぉがあああ!! わいがあいつとやりあうなんて、自殺志願通り越して破滅しかあらへんわ! 誰が好き好んでドラゴン以上の化け物とまともにやりあうかっちゅーんじゃ!!」
「やかましい! セイナが起きるだろうが!!」
「ぐへぇぇぇっ!?」
 勢い良く体を起き上がらせ、ほぼヤケクソ状態の逆ギレモードで怒鳴り込むマヨ。あまりの大声にハルカは素早くマヨの前に移動し、その腹目掛けて蹴りをぶちこんだ。
 ハルカ、お前の声も十分でかい。
 レオードが内心ツッコミを入れていたが、当のセイナは少々顔を歪ませたぐらいでスズネに軽く撫でられるとすぐに夢の世界へと戻っていっていた。
「……さすがハルカの妹分、神経の図太さは姉以上だ」
「あははは……」
 レオードのぼやきにスズネは苦笑するしかなかった。
 そんな耳の痛い話は聞こえていないのか、腹を抑えて悶え苦しむマヨに合わせてハルカはしゃがみこみ、逃亡の詳しい経緯を尋ねた。
「ってかさ、あんたどうやって逃げたのよ?」
「メデューサに化けて石化させて、動けなくなってる隙にダッシュで逃げた。一瞬でもタイミング遅かったら……か、考えただけで、鳥肌が……!!」
「ブラックドラゴン、スカルドラゴンといった大物を一人で倒せる化け物相手に良くやれたわね!? あんた、一生分の運を使いきったんじゃないの?」
「自分でもそう思うわ……」
 セイナ以上の運のよさを発揮しただろうマヨの逃亡方法を聞き、ハルカは目を大きく丸くした。マヨ自身逃げ切れた事を奇跡と思っているようで、疲れきったため息を出しながらその場に横たわった。
 ネイリ・グレンベルグは知らない者はいないと言われる帝国のヒーロー。ドラゴンという高位モンスターが相手でも、一人で難なく倒せるという裏づけのある伝説を持っており、人類の中では最強に分類される存在だ。
 ただ冒険者からすれば、それ以上に恐ろしい存在でもある。帝国の為に尽くし、帝国の為ならば相手が人間でも魔物でも一切容赦せず、迷い無く倒す。純粋な少女のような明るさを帯びている一方、氷以上の冷酷さを持った決断力と忠義心は彼女が敵と判断した存在に決して情を抱かせない。ただの邪魔者として排除するのみ。
 ヒーローと祭り上げられている筈の存在の実体は、魔物以上に戦いに躊躇しないブレる事の無い戦士。その実力と精神面ゆえに、冒険者にとってはある種ドラゴン以上の恐怖の象徴ともいえるのだ。
 そんなとんでもない相手から逃げる羽目になったマヨに軽く合掌すると、立ち上がってレオードに声をかける。先ほどの呆れたものから打って変わり、慎重で冷静な顔色でだ。
「でも帝国が絡んできたって事はやっぱり何かあるわね。それもネイリを出してくるって事は……」
「不老不死をもたらす人魚の肉。これしか無いだろうな」
 ハルカの言葉を察し、レオードが続ける。ハルカはそれに頷いた。
 今の今まで散々追い掛け回されていたが、それはスズネ姫を軽く連れまわしたからという単純な理由でないのは二人とも分かっている。ならばその答えに関わっているのは、自ずと一つしかない。大した理由でないのならば、あの帝国が切り札ともいえるヒーローを出してこない筈だ。それらも含めた上での答えである。
 分かっている限りの社会情勢も含め、ハルカとレオードは考察を続けていく。
「鎖国解放された今、不老不死の話が変なことにならない内に帝国が先手を打った。そう考えた方が良いかしら?」
「だな。日ノ国とかつて唯一の貿易国だった帝国だからこそ、ここまで早く動けたんだろう。ったくこれじゃ俺の集めた情報がパーッになりかねん」
「あんた、どんな情報を売りつける気だったのよ……」
「聞きたいか?」
「金とられそうだからやめとくわ」
 下手すれば国を揺らがしかねない金への執念に呆れながらも、ハルカは断れるところはキッチリ断っておいた。レオードもそれほど売りつける気は無いのか、そうかと頷いて引き下がった。
2011/03/21 Mon 21:18 [No.199]