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架空マン
鬼伝説
今は昔。具体的には2006年頃の京都での話である。
当時、京の都に鬼がいた。
鬼の名は坂本祐二と言い、亀岡にある己の巣に篭もり、気が向けば外に出、女を金で買っていた。
ある日、そのようにして買った女と脳内で情事に耽っている時のことだ。鬼と同じ巣に住む鬼婆が、耳障りな声で叫んだ。
「ゆうちゃん、ごはんやで。早う降りといで」
鬼はちょうど、昨日買ってきた女と情事に耽っているところであった。鬼婆の声に邪魔され、不意に脳内の空間から現実へと引き戻された鬼は、怒った。
「じゃかぁしいわアホンダラ!今忙しいんじゃボケぇ!!」
鬼は、怒声を挙げた。巣の中一面に響く、凄まじい声であった。
その時だ。鬼婆とは別の声が、鬼の耳に入った。
「祐二!お前お母ちゃんになんちゅう口きいとんや!」
それは、鬼爺の声であった。
「おい祐二!今日はええかげん部屋から出て来いや!」
鬼爺は、鬼の巣の前まで来て、扉の前で怒鳴っている。
鬼は、鬼爺が居る時は、絶対に巣の外には出ない。人の世に混じり、人の下で働く鬼爺は穢れているので、触れようとはしないのだ。また、鬼爺と同じく人の世で大学に通う弟が鬼にはいるが、その弟が家に居る時も、鬼は巣の中で静かに息を殺している。
今日は、鬼爺が居るとは思っていなかった。いつもこの時間は、鬼爺は働きに出ているはずだからだ。しかし、今日から盆休みに昼まで寝ていた鬼が、そのことに気付くはずもなかった。
突如として鬼爺の声が迫ってきたので、鬼はいつものごとく黙っていると、鬼爺は扉の外で話し始めた。
「ええか、祐二。お前、今年で幾つになんねん。言うてみ?」
鬼は応えないが、父親は話を続ける。
「お前、今年で30や。30。えらいこっちゃで、ホンマ。武はもう内定もろうてんねんで?お前もそろそろ就職せんと……」
祐二の心中には、凄まじいフラストレーションが、破壊衝動が溜まっていた。弟の話を持ち出し、自分が劣っているように言われるのが気に入らなかった。俺は世の中を捨ててやったんや!あんなヤツと一緒にするな!心のなかでは、そう思っていた。今すぐ父親を抹殺したい気分であった。しかし、そのようなことをする度胸が無いのも事実であった。
『うっさいんじゃボケ!!俺はちゃんとやっとんじゃ!!』
せめて心のなかでそう叫んだときだ。
父親が、決定的なことを言った。
「ええか、祐二。田村のおっちゃん覚えとるか?爺ちゃんの法事で会うてからそれっきりやし、お前は覚えてへんかも知れんけどな。あのおっちゃん、工場やってはるんや。昨日な、そのおっちゃんに、お前の面倒見てくれるように頼んだねん。お盆終わったら面接やから、ちゃんと行くんやで。ええな」
2011/06/30 Thu 23:51 [No.411]