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あんびしゃん(氷河期の賢者
「おばあちゃん……」
「ニホンノミナサン、ワタシノハハオヤハニホンジンデス。シンジテクダサーイ! ハヤクデテキテクダサイ! ソウシナイトバクハシマス! ハヤクデテキテクダサイ! ワタシニホンジンコロシタクアリマセン!」
再び鳴り響くアメリカ兵の説得。老夫婦は富子を急かした。
「早く行きなさい。いい、富子。外に出たら、もっと南に向かいなさい。そこにたくさんのアメリカ兵がいるだろうけど、怖がらないでね。富子、さようなら……」
「おばあちゃん、さようなら」
「白旗を持っている限り、大丈夫だ。富子、さようなら」
「おじいちゃん、さようなら」
富子は名残惜しくガマを後にした。二週間ぶりに外に出ると、そこは一面に広がるサトウキビ畑。珍しく爆撃を受けておらず、風になびいている。沖縄らしい、サトウキビを富子は踏みしめ、白旗を掲げつつ南へと歩いて行った。
「コッチニキテクダサイ!」
アメリカ兵が、日本人を誘導している。富子は、とうとう住民が投降する場所までたどりついた。
「富子は、大丈夫。殺されない。白旗があるから、大丈夫」
富子は自分に言い聞かせ、アメリカ兵の前をゆっくり歩いた。
しかし、富子は恐ろしいことに気がついた。アメリカ兵が、自分に何かを向けている。
「あれは、銃! だめ、殺される! 富子、死んじゃう……」
動揺する富子だが、過去のことを思い出した。父、兄、老夫婦の言葉を。
「死ぬ時は……笑って死にたい……泣きたいときは笑う……命どぅ宝! そうだ、白旗があれば大丈夫! 怖いけど笑おう! 泣きたいときは笑うんだ!」
富子はとびきりの笑顔を見せた。そして手を振った。
――パシャリ。
こうして、白旗の少女は生まれた。
富子は、何もなかったことに喜び安堵の息をついた。
「よかった。おじいちゃん、おばあちゃん、ありがとう」
富子が見上げた人ごみの中に、暗い表情をしているヨシ子と初子がいることに気がつき、富子は駆け寄った。
「ヨシ子ネエネエ! 富子だよ!」
「富子ぉおおおお!」
姉妹は再会を果たした。そして泣いた。なぜか。お互い一人ずつ欠けている。直影と直裕がいない。それでも生き残ったことにないた。泣いて、抱き合った。そして、白旗の少女は、今も生きている。
彼女はあの時笑った。それは、彼女の周りの人々がそうさせた。
白旗も平和の象徴だが、笑顔も平和の象徴ではないか。
全ての人が笑顔でいられることが、平和なのではないか。
少女は、笑う。
完
2011/08/16 Tue 19:07 [No.568]