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ゆな
連れられる形でミュージカルの外に出た後、すぐ傍の路地裏に入ったシャンデラをスイレンは追う。あの華やかな舞台から打って変わり、人が見向きもしない暗い場所だ。
こんなところで話す理由が分からず、スイレンが己に背を向けるシャンデラを見つめる。するとシャンデラは立ち止まり、そのままの状態で名乗った。
「そういえば自己紹介が遅れたね、うちの名前はゆな。あんたの探しているドリームメイカーズだよ」
「え?」
シャンデラ――ゆなが唐突にした自己紹介の内容に、スイレンは己の耳を疑った。
今、彼女はドリームメイカーズと名乗った? それはつまり、自分達の敵だということ? このシャンデラが自分の敵!?
予想外の出来事に困惑しながらも、相性的に不利だから咄嗟に逃げようと思ったが足が動かない。まるで影に張り付いたかのように、引かせてくれない。彼女から逃げられない。どうして!?
困惑するスイレンを他所に、ゆなはゆっくりと振り返ると先ほどの様子から一転して不機嫌さをあらわにしながら嘲笑う。
「不思議な声に導かれたから? 頼まれたからやるしかない? ……ハッ、何も知らないでそんな事を言うだなんてお笑い種だね。折角うちがこのまま出てきても、なーんにも気づかない。それどころかドリームメイカーズについて訪ねるだなんてね。まっさかここまで無知だったとは思わなかったよ。……生憎とそういう流れ任せは嫌いでね。少なくとも誰かに頼まれたからやるっていう馬鹿に止められるのは、心底ごめんだ」
「え、あ、あの……えと、じゃあ、あなたは……敵?」
「ここで味方って判断する方が馬鹿だとうちは思うよ」
その場から逃げれず、嘲笑う炎の亡霊に声を引きつらせながらスイレンが訪ねるとゆなは心底馬鹿にするような声色で言い切った。
先ほどの様子とは決定的に違う目線。それは敵対者を人と見ず、排除する存在だと見ている目。そして、彼女にとって潰しがいのある獲物が現れたと笑う目。モノクル越しに嘲笑いながらも、獲物をじっとりと観察する目は狩人そのものだった。
怖い。恐い。この人、こわい。
こんな、怖い人と、あたしは、話していたの?
こんな、人を「獲物」とあっさりとらえるような、人と?
ゆなに見つめられていく程に、スイレンの全身に酷い悪寒が走る。
彼女の虫けらを見るような冷酷な眼差し、喉下に刃を突きつけられたような殺意、ゆらりゆらりと不気味に燃える五つの炎。日陰の中、不気味に存在する亡霊という姿。
シャンデラという種族も相まってか、本来好感を持てるはずのポケモンの姿が――何よりも恐ろしい存在のように見えた。
震えるスイレンに対し、ゆなは不気味に体を揺らしながら問いかける。
「さて、一応聞いておきますか。うちに殺されたくなかったら、ドリームメイカーズに入れ。……くっだらないまやかしの声なんかより、生きる方が重要だよねぇ?」
五つの燃え盛る炎を見せつけながら、ゆなはスイレンに向かって酷く嘲笑うように『勧誘』する。
でもそれは『勧誘』という生易しいものなんかじゃない。有無も言わさぬ迫力と威圧感、これは『脅迫』でしかない。これを断れば最後、紫色の業火で燃やされるのは目に見えていた。生き延びたいと願うなら、答えは一つしかない。
2011/09/15 Thu 00:45 [No.686]