Net4u レンタル掲示板を作る
Makoto
そよ風が優しくなびき、川も穏やかに流れている青空の下… 森の手前に立っている立て看板には人間が書いたと思われるような字で『〜6ばんどうろ〜』と書かれている。
一匹の“ラッコポケモン”がパタパタと川沿いに走りながら、周りをしきりに見渡していた。その小さな右手には青く丸いきのみを抱えている。
「おーい、こっちだよー! この先に進めばホドモエシティへ出られるはず!」
白と青、水色の服のような体毛を持つ、その“ラッコポケモン”――ミジュマルは、一旦立ち止まると後ろに向かって手を振りながら大きく呼びかけた。
「今行くよー! ちょっと待っててー!」
ここで、後ろからもう一匹の青の体毛に覆われた風船のような“みずねずみポケモン”――マリルが返事を返しながら手を振って合図しているミジュマルの下へ駆けつける。
右肩に収穫したきのみを入れるためのバッグを掛け、両手に黄色い梨みたいなきのみとサクランボのように葉っぱが付いたきのみ、それぞれを抱えながら。
彼らは、奇跡的に出会った交錯するはずのないポケモンたちだった。一方はこの世界に元々住んでいるポケモン、もう一方は別次元からやってきたイレギュラー――“元人間”なのである。
事の発端は…… 今から少し前の時間に遡る。
――――――――――――――――――――
「今日も更新されてない、か……」
いつものように、PC画面の中の《ポケボード》の部屋を見回して、メガネの少年はゆっくりとため息をついた。
「まぁ別にいっか。人にもそれぞれ予定があるんだろうし」
左腕にピカチュウとピチューが描かれている黄色のリストバンドをつけた少年は、マウスを持って、カチカチと別々の掲示板を切り替えていく。
この少年――マコトもまた、ポケモン二次創作サイト《ポケ書》に通っているユーザーなのだ。ちなみに、本来のハンドルネームはMakotoである。
元々、可愛いポケモンが好きな彼は、その多彩に描かれているイラストやアイコン、小説等に感銘を受けて以来、暇な時間を見つけては、よくここに通っているのだ。
「また変なスレッドが立ってるなぁ……。これで6つ目だぞ?」
しばらく切り替えをしていた所で、マコトは、ふと一つのスレッドに目を止めた。
『助けてください』
タイトルにはそれだけしか書かれていない。何となく怪しい。
実はポケボードを見て回っている際に、何とこのタイトルのスレッドが一部屋ごとに立てられていたのだ。これでは住人たちが迷惑するばかりだというのに。
しかし……普通はこういった荒らしまがいの物に立ち入ることは好ましくないとは分かっていながらも、生まれつきの好奇心の前には、理性は何かと簡単に打ち負かされてしまうものだ。
マコトは、確かめてみたいという心の声に身を任せ、そのスレッドをクリックして中を調べてみることにした。
「本文も“助けてください”か…… それにしても、短絡的にも程があるでしょ」
訝しげにそのスレッドの表示されている画面とにらめっこしているマコト。
わからない、一体何をどう助ければいいのだろうか。言いたい事があるのなら、本文をそのまま書けばいいのに。
考えていても埒が明かないので、とりあえず左上に目を向けて細かく見てみた。
「あれ? アドレスだけ小さく書かれてる……。dreammakers……『ドリームメーカーズ』……。夢の作り手?」
試しに、幾つか呟く形で読み返してみた。しかし、特に何も起こらない。
「ふぅむ… ちょっと見てみよっかな?」
ゆっくりと深呼吸を重ね、マウスのカーソルをURLの上にそろそろと持ってくる。
一回リンクをクリックしてみて、もし変なサイトに行きついたらそのブラウザを閉じればいい……マコトはそう思うようにしていた。
しかし、この決断が危険な道しるべを辿る事になろうとは。そして――
「1、2の… 3! それっ!」
カチッ! 問題のURLを―― 押してしまった。
「あ、あれ? 何か、体中の…力が……抜け…て……?」
マコトは、目の前が寸断されたかのように暗くなるのを感じた。
そして、少しずつ意識が遠ざかって行き…… やがて完全なる闇へと落ちて行った――
2011/08/27 Sat 22:13 [No.594]