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空色
柔らかな陽射しが降り注ぐ雲海にポツリと顔を覗かせる、タワーオブヘブンのその頂上。
無機質なタイルの上で、一匹の白い生き物が何やら小さな機械を片手に呟いていた。
「――えっ、元人間? そ、それはどういう意味ですか?」
『申し上げた通りでございます。貴方達とは別の存在とみられる、多数の元人間の出現が、確認されました』
「……わあ」
『感嘆してないで貴方も早く本部に戻って来てくださいませ空色様。どうせ、またいつもの場所におられるのでしょう?』
あ……こっそり来てるのは、バレバレでしたか。
「そうです、すみません。了解です、私もすぐにそちらに向かいます」
通信機のスイッチを切り、映らなくなった画面を見つめながら、その白くてずんぐりとして、大きな翼を持ち、所々に赤と青の模様のあるのが特徴的なポケモン――トゲキッスは、ため息を吐く。
それにつられるかの様に、首に下げている首飾りのワンポイントの青いガラス棒も、揺れる。
この世界に私達以外の人間がやって来た……?
ここへの行き方は、私達ドリームメイカーズしか知らないはずなのに。
内通者? いや、それは無いと思いたい。だとすると……
単純に、私達以外の人がどこかであのURLを知ったって考えるのが無難なのだろうか。
それなりに人数も確認されている。まだまだ増える可能性も多いにあり。
そして彼らがどう動くかは、現状では予想出来ない。
面倒な、展開だな。
「なんとなく、いつかはこういう事になりそうな嫌な予感はしてたけどさー……なんて、うだうだ言っている場合じゃないや」
私は私のやれる事をやる。それは変わらない。
通信機をしまい、軽く息を吸ってから両翼を広げる。
そのまま軽く助走をつけ、屋上から光の海へと飛び込む。
雲を突き抜け、塔の壁に沿いながら落下し、そして流れる風を掴んで平行を保ち、空色と呼ばれたトゲキッスは塔から離れていった。
眼下に広がるは緑豊かな大地。頭上に広がるは蒼天のドーム。目先に見えるは二色の境目。
帯のような風に包まれ、一体化したかの様な感覚が心地よい。
……こうして空を飛んでいると、この世界にもこの身体にも、随分慣れたものだと実感出来る。
自力で飛ぶことや、ましてやポケモンになるだなんて、とてもじゃないが叶わない事だと思っていた。
だがいざなってみると、そしてそれらが普通になってしまうと、考え方の視点が変わったせいか新たに疑問に思う点も増えた。
くだらないと言えば、どれもくだらない事ばかりなのだが。
例えば、教科書にも載っている有名なあの歌。
他の何よりも翼を求め、大空に羽ばたきたいと願ったあの歌の歌詞の中では、空は悲しみのない自由な世界だと歌われている。
人間だった頃は、この歌詞に激しく共感していた。だけど、今は一概には賛同出来なくなっていた。
この大空には決して、悲しみが無いわけでは無い。と、思う。
そう思うようになったのは、ゲームをやっていた頃からお気に入りだったあの塔、『タワーオブヘブン』にこの世界で訪れた事がきっかけだった。
天まで高くそびえるその塔の頂上にある、鳴らすと魂をよろこばせられるといわれている鐘。その音色は、天にも地にも分け隔てなく降り注ぐ。
わざわざこんな高所に鐘を釣るしたのは、この鎮魂の音色を地上だけではなく空高くにも響かせたいと、誰かが願ったからではないのだろうか。
なんて、実際に何度も訪れてみては鐘を鳴らし、その音を肌で感じてみていたら、そう考える様になっていった。
いずれは起こるであろう次の戦いでは、あの鐘を鳴らす対象が、増えるのだろうか。
まあ、
増えたとしても、増えなかったにしても、
増やしたとしても、増やさなかったとしても、
またタワーオブヘブンにやって来たいという気持ちは、変わらないのだが。
――また来れたらいいな。あの鐘を鳴らしに。
◆◇
敵方なのでプロローグの替わりに顔出しを書かせていただきました空色です。
一旦本部に戻ってから様子をみて、追撃なり他の所に突撃なり再出撃を今のところは考えています。
時間軸としてはゆなさん単騎出撃直後あたり。
初めての自キャラ参戦、そして敵役ポジションという事で緊張していますが、遅れを取らないように、でもじっくりと展開を紡いで行きたいです。
2011/09/05 Mon 23:22 [No.644]