Net4u レンタル掲示板を作る
池田
「おわったの……全て……やっと」
ヤグルマを屠り、ポケモンの世界にも、人間の世界にも平和をもたらしたスイレンは、ホワイトフォレストのポケモンセンターにて、しばしの休息を得ていた。
「凄まじい……戦いだったの……」
強大な敵を、振り返る。ヤグルマとの死闘は凄まじいものであったが、街を焼き尽くしたゆなや、エアスラッシュの連射でタワーオブヘブンを粉末にした空色、そしてスイレンを凍りづけにしたいぬ……どれも、恐ろしい敵だった。
「私はそれを、乗り越えた……なの」
そんな、数々の危機をこえて、平和を掴むことができた。それは、彼女一人の力では、とうていかなわないことだった。戦いの日々を乗り越えられたのは、仲間たちの助けがあってこそのことだった。
「でも……みんな……」
仲間のことを思い出すと、自然に涙が一筋、流れた。乗り越えた試練の数だけ、スイレンは仲間を失ってきた。散っていった者たちの顔が、浮かんでくる。元人間たちは、たとえこの世界で死んでも、元の世界へ帰ることができる。しかし、元からこの世界で生きていた者たちは、甦ることはない。レナが率いていたレジスタンスなど、壊滅的な被害をうけた。彼女の心中を思うと、胸がいたんで、苦しくなる。
「ううん!だめなの!」
泣きそうになったスイレンは、目を瞑り、頭を振った。そんな悲しい気分に浸っている場合ではない。壊された街を復興する手助けをしなければならないのだ。過去に涙する暇があれば、すこしでも誰かの力になりたい。
「いくの……ライモンシティへ!!」
当面の目標は、焼け野原になったライモンシティである。最も人員を必要としている場所は、そこだった。今は、あんびしゃんがライブを行い、音楽の力で人々のこころを救おうなどという下らないことをやっているはずだ。とりあえず、彼に連絡しておこう。
スイレンがそう思い、電話を使うために一階へ降りようとした時だ。
「「「うわぁーーー!!」」」
「「「助けてくれ!!」」」
外で、悲鳴があがった。
続いて、凄まじい爆発音。
「何がおこったの!?」
スイレンと、ポケモンセンターの中にいたポケモンたちが、慌てて外に飛び出す。
外には、もはや彼らの知る光景は無かった。
生い茂る豊かな緑の木々も、流れる小川も、そしてそこに暮らすポケモンたちも、跡形もなく消えていた。
そして、代わりに、巨大な穴が開いていた。
「なんだ、これ……」
「デケェ……何メートルくらいあるんだ……」
ポケモンたちは、穴をのぞき込みながら、各々で呟く。
穴は、巨大だった。直径は何キロほどあるのか分からない。向こうの端がよく見えないほどだ。そして、穴をのぞけば、その下には驚くことに、建物があった。廃材を積んだような粗末な作りではあるが、かなり巨大で、少なくとも地下の洞窟に自然に出来上がるようなものではないのは確かだ。
即ち、穴の下には、何者かが居るということであり、そしてその何者かが、この爆発を起こした可能性が高い。
「……いくの」
スイレンに、迷いは無かった。放っておけば、また同じことが起こるかもしれない。だれかが傷つくかも知れないのだ。それだけは、絶対に止めなければならない。
「ス、スイレンさん……危険です!!」
「そうだよ、はやくここから離れないと……!」
他のポケモンたちは、スイレンを止めた。当然である。森を消滅させるほどの爆発が起きたのだから、不安にならない方がどうかしている。
スイレンも、それをわかっていた。
「……みんな、ありがとう。でも、ごめんなの……」
スイレンは、彼らの方を振り返った。不安な顔が並んでいる。彼らは、スイレンを心配していた。
そんな彼らに、スイレンは笑顔で応えた。決意を秘めた、笑顔である。
「みんなが心配してくれて、とてもうれしいの。だけど、きっとこの穴の中には、爆発を起こした誰かがいるの。その誰かを止めないと……また、同じことが起こるかも。ボクはそんなの、ゆるせない。だからボクは……」
飛ぶの!!
そう言い残し、スイレンは穴へと飛び込んだ。
上から、自分の名を呼ぶ叫び声が聞こえる。そんな、仲間たちの優しさに感謝しつつ、地獄かもしれないその場所へと、スイレンは突入したのだ。
「なんなの……これ」
スイレンは、建物に着地し、そして降りていった。
そこは、天然の洞窟を改造し、ポケモンが住めるようにした空間だった。だが、住人と思しきものは、誰もいない。
「いったい……誰が……何のために」
廃材で作られた壁や、むき出しの電線。異様な佇まいのその建物を眺めているときだ。
2011/09/16 Fri 21:13 [No.692]
池田
再び、爆発音が響き、白い閃光が瞬いた。
「何!?」
スイレンは、光のほうへと走った。
幸い、洞窟の中の至る所に照明が置かれているので、目指す方向を見失うことはない。
そして、建物からかなり離れたところまで来た時、スイレンの目に飛び込んできたのは、驚くべき光景であった。
そこでは、なんと、戦闘が行われていたのだ。
「うおおお!!よくも!よくもオレの友を!!」
「これ以上の侵入を許すな!基地を守れ!!」
「撃て!!撃てー!!」
様々なポケモンたちが、必死に、わざを放っている。彼らは皆味方同士のようだ。そして、そんなポケモンたちと相対するのは、驚くことに、たった一匹のポケモンであった。
「ぐはぁあああああ!!」
灰色の龍のような姿をしたそのポケモンが、白い霧を吐き出した。
すると、今まで攻撃していたポケモンたちが血相を変えて逃げ出す。
「ま、まずい!アレにふれるな!!」
「総員、退避!!」
「だめだ!!逃げ切れない!!」
しかし、ポケモンたちの逃げ足よりも、霧の広がるスピードが上だった。霧はたちまちポケモンたちを覆い隠す。
やがて霧が晴れると、ポケモンたちは真っ白な氷と化していた。その氷を、龍のようなポケモンが、踏み潰す。
「あっ!!」
今まで立ち尽くしていたスイレンは我に帰り、思わず声をあげた。10ほどのポケモンが、一瞬の内に、殺されたのだ。
「くっ……行かないと……!」
何故こんな事態になっているのかは分からない。龍の正体も、それと戦うポケモンたちが何者なのかも分からない。ただ、先程上で起きた爆発の原因は、間違いなくこの龍にある。根拠はないが、スイレンの勘がそう告げていた。これを、放っておく訳にはいかない。
「うっ……おおおおお!!」
異様な怪物に恐れを感じながらも、スイレンは飛び出した。
そして、とりあえず、一匹のポケモンを霧から救い出した。
背後では、またも一瞬の内に、何匹ものポケモンたちが凍りづけになり、そして砕かれて死んだだろう。しかし、そこに構っている場合ではない。まずは、今助けたこの命を、救わなければならないのだ。
「下ろせ!!私の仲間が……仲間が!!」
背中に乗せたポケモンが、暴れた。仲間が殺されているのだから、当然だろう。
「ダメ……ダメなの!!あなただけでも、逃げて!お願いなの!」
龍から離れながら、スイレンは必死に言い聞かせる。とにかく、ひとりでも救いたかった。
そんな、心の叫びに返ったのは、意外な言葉だった。
「なのって……あなた、スイレン!?」
「え!?」
突然自分の名を呼ばれ、スイレンは驚いた。
そして、先ほどの建物とは逆側、洞窟のさらに奥へと進み、龍から十分に離れたところで、スイレンは背中のポケモンをおろした。
そのポケモンは、青い蜥蜴のような姿をした、美しいポケモンであった。スイレンには、そのポケモンに見覚えがあった。
「レナ……さん、なの」
そう、それは、かつてドリームメーカーに抵抗していたレジスタンス組織のリーダー、レナであった。
「やっぱり……やっぱり、スイレン!!」
思いがけぬ再開に、しかしふたりは喜んでいられない。スイレンがすべきことは、状況の確認である。
「あの……ここ、一体何なの?どうしてレナさんが、ここに……」
「……ここは、レジスタンスの基地。フキヨセの拠点が使い物にならなくなったから、当面はここを使うことにしたの」
「基地……だったの」
ここは、空色の襲撃により一夜にして破壊された拠点の代わりに使われる、基地であった。あれ以後もレジスタンスは元人間と協力していたため、どこを拠点にして活動しているのか謎であったが、こうして仮の住まいを作り出していたのだ。ホワイトフォレストの下にこんな洞窟があることなど、ほとんどのポケモンには知られていなかっただろうから、正に絶好の隠れ家だろう。
しかし、本当に知りたい謎は、これではない。
「じゃあ、あの龍は……何!?」
スイレンは、思わず、語調を強めた。
そんな、誰にも知られぬ基地を襲撃しているあのポケモンは、何者なのか。ドリームメイカーズの残党という可能性もある。放っては置けない。
だが、レナは舌を向き、肩を震わせながら、小さな声で言った。
「……分からない」
「そんな、分からないって……」
「本当に……分からないの!!」
レナは、叫ぶように、言った。彼女らしからぬ、感情的な態度だ。
2011/09/16 Fri 21:14 [No.693]
池田
「本当に分からないのよ……いきなり基地に出てきたと思ったら、皆を殺し始めた。全員で対処しても、全くかなわない……とにかく、デタラメに強い。いまはもう、あの場で戦っていた者しか、残ってはいないの」
「そんな……!!」
スイレンは、言葉を失った。
ドリームメーカーと戦っていたとき、レジスタンスは、かなりの規模を持った組織であった。そして、各々のメンバーは、強かった。ドリームメーカーの兵士などかるく蹴散らすほどに、強かったのだ。
先程見た様子では、もはやあの場に、レジスタンスのポケモンは殆ど残っていなかった。つまり、それほどまでの強さをもつポケモンたちが尽く殺され、レジスタンスはいまや壊滅しようとしているのだ。
「信じられない……」
「私だって、信じられない。信じたくない!でも……でも、現に今、ああやってレジスタンスは壊滅しようとしている。多くの仲間が、殺されたの。だから……私だけが逃げるわけには、いかない」
レナの言葉は、余りにも絶望的であった。
彼女は、嘘などつかない。つまり、その言葉にでてきた信じ難い状況は、全て事実なのだ。それはつまり、ドリームメーカーなどはるかに超えるほどの、強大な敵が居ることを意味している。
二人の間に、しばしの沈黙が訪れた。どちらも、なんというべきか分からなかったのだ。
しかし、再び聞こえた爆発音に、レナは振り向き、そして言った。
「……きっと、また仲間が殺された。私はリーダーとして、行かなければならない……ごめんなさい、スイレン。あなたまで死ぬことは無い。この道を真っ直ぐ行けば、外に繋がる。あなただけでも逃げて……」
「そんな……」
スイレンは、素直に従うことなどできなかった。死にに行こうとしている友を見捨てることなど、彼女に出来るはずがない。
「だめなの……レナさん、だめなの!!ボクも一緒に、戦うの!!」
「スイレン、お願い……お願いだから、あなたは生きて!!」
二人の意見が衝突しようとしていた、その時だった。
二人が逃げてきた方で、白い光が瞬いた。
「スイレン、危ない!!」
直後、レナがスイレンを突き飛ばす。
同時に、白い光線が伸び、レナに直撃した。
「レ、レナさん!」
光線が消えると、そこには、氷漬けになったレナが居た。光線の正体は、れいとうビーム。これは同時に、入り口でスイレンが見た光の正体でもあった。
「レナ……さん……レナさん……!!レナさーん!!!」
スイレンは、涙を流しながら、叫んだ。先ほどまで生きていた、長い戦いを共に乗り越えた仲間が、一瞬にして、死ぬ。そんな理不尽を、受け入れることができなかった。
ひょっとしたら、まだ助けられるかもしれない。もはや、現実逃避の妄想に近い希望にすがり、凍ったレナを運ぼうとした、その時だ。
ドン、と重い音をたて、灰色の龍……キュレムが着地した。
同時に、レナの氷が、砕け散る。
フシュゥ、と白い息を吐き、こちらをみつめるキュレムと、目が合う。その瞬間から、スイレンの胸にあった哀しみは消え、代わりに果てなき怒りがこみ上げてきた。
「お前……お前ぇええええ!!!」
スイレンの声は、ドリームメイカーズとの戦いの中では発せられたことがないほどの、恨みと憎しみに満ちた、恐ろしいものだった。彼女は、今、生まれて初めてと言えるほどの激しい怒りを感じていた。
それほどまでに、「甦ることのない死」は、許せないものだった。
しかし、そんなスイレンに、キュレムは軽い口調で返す。
「はは、すげー。なんでこんなとこに居ンの?」
それは、鈍重な外見に似合わぬ、軽快な少女の声であった。突然のことに、呆気にとられるスイレンに向けて、キュレムは続けた。
「あんた、『スイレン』って名前でここ来てンだよね?いや、こいつらアンタの仲間だから襲いに来たんだけど、正直アンタに会えるとは思ってなかったわ。びっくり。こんなとこで何してんの?あ、やっぱり助けに来たの?コイツらを。はは、うけるー!こっちじゃ、そういうキャラでやってんだ。正義の味方……的な?ま、でもいいや。ここで会ったが百年目……」
「ちょ、ちょっと待って!」
マシンガンのように話すキュレムを、スイレンが制止した。
余りにも突飛なことで、かなり意味不明な事態であるが、其れ以上に、キュレムの言葉には無視できないものがあった。
「あの、ちょっと、質問いい?」
「うん、いいーよ」
2011/09/16 Fri 21:15 [No.694]
池田
快諾したキュレムに、スイレンは、疑問を1つずつ追求していく。
「えっと、あんた、何しにここに来たの?」
「あんたを誘うため。あんたの仲間の残りを襲って回ってるんだけど、なかなか出てこないからさ。ま、こいつら皆殺しにしたから、もう仲間は残ってないんだけど……いやあ、調度良かったよ、あんたが出てきてくれて!これで来なかったら、正直どうしようか考えてなくてさ!!」
今、恐ろしいことを口走ったが、それに関してスイレンは流した。
もうご覧の方々はお気づきだろう。スイレンは、語尾も忘れ、ネット上で作っているキャラから素に戻っているのだ。
今やリアルの人格に戻ったスイレンにとって、仲間が全員殺されようが、知ったことではなかった。
二人は、さらに問答を続ける。
「なんで、私のことを待ち伏せしてたの?」
「そんなもん……恨みを晴らす為じゃん。ぜってーぶっ殺すし!」
相変わらず、明るい調子で恐ろしいことを喋るキュレムに、スイレンは半ば呆れながらも、質問を続ける。まだ、キュレムの行動の核心を掴むことは、できないでいた。
「分かった。じゃあ聞くけど、あなたなんで私のこと知ってるの?ていうか、あんた、誰?」
「は?分かんねーの?うけるー!!あたしだよ、あたし!霧島真白!!同じクラスの!あ、こっちでは『アルビノ』ってなまえでやってるけど……これで、恨みが何かわかったよね」
「え……」
分かったよね?と言われても、何も分からなかった。ただ、キュレムの正体は分かった。霧島真白。同じクラスの、女子。言われて見れば、話し方も、声も、完全に同じだった。しかし、そうなると、益々分からない。スイレンは、霧島真白に恨みを買うようなことをした覚えがないのだ。
「ごめん、わかんない。霧島さんが、何の恨みで、こんな異世界まで追ってくんの?なんかキモいんだけど……」
「え!?」
アルビノという名のキュレムは、心底驚いたような表情をした。
「エ……エ!?わかんないの!?あ、私にしたことで恨まれる筋合いはないってこと?」
「いや……そういうことじゃなくて、マジでわかんないんだけど。私、なんかしたっけ?」
「ウッソ……何こいつ。キモ!!ひくわ……じゃあアンタ、今まで私が何モンかも分からずに、クラスメートのお友達してたってこと?すげー!!馬鹿じゃねーの!!」
いきなり笑い始めた真白に、スイレンはいらついてきた。
「はいはい!!バカで悪かったわね!で、アンタは一体、私にどんな恨みを持ってるってのよ!?」
「あー……あたしさ、アンタの妹なんだよ」
「は……え!?はいぃ!?」
アルビノの口からでた言葉は、余りにも意外、予想の斜め上を行くものだった。にわかには信じられないどころか、何を言っているのか一瞬理解できなかった。
驚いて目を見開き、口をパクパクさせているスイレンを差し置いて、アルビノは続ける。
「あんたとあたしは、腹違いの姉妹なんだよ。アンタのおとーさんってさ、たぶん、アンタの前では誠実なパパを演じてるんでしょ?でも、裏では愛人作って、ヘーキで危険日に生ハメするような奴なんだよ。で、そうやって出来たのがアタシ。ま、愛人にガキが出来たとなったら、めんどくせーから当然……捨てるよね。捨てられたアタシの母親は、自殺しちゃってさ。アタシは親戚たらい回しにされながら大きくなったんだけど、どこでも煙たがられて、今はエンコーしながら一人暮らししてます、と。でまあ、探偵にいろいろ調べてもらって、今のアンタが居る学校とか家を見つけたわけ。それで、アタシの復讐計画が始まったんだね、これが」
ふう、と一息ついて、真白はさらに話す。
「まず、アメリカで『異世界に行けるプログラム』てのが開発されたって訊いてさ。知り合いのエンジニアに頼んで、それを『ポケモンの世界へ行ける』ように改造してもらったわけ。ほら、あんたポケモン好きっていってたでしょ?ぜってー食いつくとおもったからさ。で、アンタと一緒に何人かにメールを送ったんだけどさ、あろうことか、アンタだけがそのメールを迷惑メール扱いで、よみもせずに削除しやがった!!でまあ、作戦変更。メールに食いついた、ヤグルマってバカをそそのかして、世界征服みたいなことをさせることにしたんだよ。で、『助けてください』って掲示板に書いたら、今度はアンタが食いついたってわけ!まあ、他にも余計なのがぞろぞろくっついてきたのは計算外だったけど……最終的に、こうやってアンタだけが残ったんだから、まあ結果オーライだね」
なんと、この瞬間に、全ての真相が語られてしまった。しかし、まだ話は終わらない。
2011/09/16 Fri 21:16 [No.695]
池田
「さて……こうやって、アンタをこっち側に連れてきてる間に、アタシの手下の男がアンタのパパを犯してるよ。アンタのママの目の前でね。ついでに、不倫してる時のいろんな写真とかも、プレゼントしてるはず。これで……アタシの復讐は終わり。後は、アンタを現実に戻してやるからさ。この世界で死んだら、向こうに戻るんでしょ?だったら、後はアンタを殺したら……全部終わり」
「ちょ……ちょっと、待って」
全てを話しきった真白に対し、スイレンは言った。
「アンタ……エンディングで何言ってンの!?」
「あ?」
それは、余りにもごもっともなツッコミであった。
ヤグルマは倒れた。その機を狙い、組織を乗っ取った秋葉と空色も倒した。残党を率いてラスボスとなったゆなをも、ついに打ち倒した。そう、今は、ラスボスも裏ボスも真のラスボスも倒した後の、トゥルーエンドともいうべきエンディング。最後の最後に語られるエピローグなのだ。
どう考えても、全ての真相が明かされたり、真の黒幕が出てきたり、主人公との不快因縁が明らかになったりするタイミングではない。もしそういうのがあったとしても、空気を読んで、『なかったことになった伏線』として闇の中へと去るべきなのである。
そんなところに、このキュレムは、しゃしゃり出てきたのだ。
「アンタ、マジで意味分かんないんだけど。もうこれ、あと数行で終わるよ!?どうやってまとめる気!?」
焦るスイレンに、真白は躊躇わず、言い放つ。
「そんなもん、アンタに決まってんじゃん!主人公なんだから!」
「は……はいぃ!?」
もはや、ムチャぶりどころの話ではない。ここまでの物語と同じだけの分量を割いてもまだ語り切れないかも知れない程の風呂敷を勝手に広げ、それをおしつけられたのではたまったものではない。
しかし、スイレンが主人公であるのは確かだ。その、動かしがたい事実がある異常、この理不尽とも言える要求に答えるしかない。
「仕方ない……」
ため息を付いてから、スイレンは、凛々しい表情に変わった。キャラに入ったのだ。
「アルビノ……私には、あなたの哀しみを理解出来ない。だから、私がそれを受け止めてあげることはできない……けれど、その哀しみを終わらせることはできるの!!」
語尾までばっちり決めながら、スイレンは姿勢を低くした。跳びかかる準備……戦闘態勢に入ったのだ。
「いいね……終わらせてみせてよ、この呪いを!!でも、あなたを待つのは、どの道絶望よ!」
アルビノもまた、先ほどまでとは違う口調で、スイレンに応える。どうやら、普段はこういうキャラで行ってるようだ。
姿勢を低くした二人は、叫ぶ。
「「はっ!!」」
気合の一声と共に、跳び上がった二人は、ツノと頭を衝突させた。
その刹那、同時に叫ぶ。
「「全てを終わらせる!!」」
今……決着の時!!
「「ラストバトルを……踊ろうぜ!!」」
ラストバトルは始まった。この戦いの決着は、神のみぞ知る。そして、この戦いをもって、ドリームメーカーの数奇なる物語は幕を閉じる。
だが、人々は忘れない。己自身を、戦いの中に投じた者たちは、その戦いを見ていた者たちは、決して忘れない。
夢の作り手達の、物語を!
ご愛読ありがとうございました!
先生方の次回作にご期待ください!
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音声ファイルは、イヤホンを片方だけ入れて訊いてね!
2011/09/16 Fri 21:16 [No.696]