池田
「本当に分からないのよ……いきなり基地に出てきたと思ったら、皆を殺し始めた。全員で対処しても、全くかなわない……とにかく、デタラメに強い。いまはもう、あの場で戦っていた者しか、残ってはいないの」
「そんな……!!」
スイレンは、言葉を失った。
ドリームメーカーと戦っていたとき、レジスタンスは、かなりの規模を持った組織であった。そして、各々のメンバーは、強かった。ドリームメーカーの兵士などかるく蹴散らすほどに、強かったのだ。
先程見た様子では、もはやあの場に、レジスタンスのポケモンは殆ど残っていなかった。つまり、それほどまでの強さをもつポケモンたちが尽く殺され、レジスタンスはいまや壊滅しようとしているのだ。
「信じられない……」
「私だって、信じられない。信じたくない!でも……でも、現に今、ああやってレジスタンスは壊滅しようとしている。多くの仲間が、殺されたの。だから……私だけが逃げるわけには、いかない」
レナの言葉は、余りにも絶望的であった。
彼女は、嘘などつかない。つまり、その言葉にでてきた信じ難い状況は、全て事実なのだ。それはつまり、ドリームメーカーなどはるかに超えるほどの、強大な敵が居ることを意味している。
二人の間に、しばしの沈黙が訪れた。どちらも、なんというべきか分からなかったのだ。
しかし、再び聞こえた爆発音に、レナは振り向き、そして言った。
「……きっと、また仲間が殺された。私はリーダーとして、行かなければならない……ごめんなさい、スイレン。あなたまで死ぬことは無い。この道を真っ直ぐ行けば、外に繋がる。あなただけでも逃げて……」
「そんな……」
スイレンは、素直に従うことなどできなかった。死にに行こうとしている友を見捨てることなど、彼女に出来るはずがない。
「だめなの……レナさん、だめなの!!ボクも一緒に、戦うの!!」
「スイレン、お願い……お願いだから、あなたは生きて!!」
二人の意見が衝突しようとしていた、その時だった。
二人が逃げてきた方で、白い光が瞬いた。
「スイレン、危ない!!」
直後、レナがスイレンを突き飛ばす。
同時に、白い光線が伸び、レナに直撃した。
「レ、レナさん!」
光線が消えると、そこには、氷漬けになったレナが居た。光線の正体は、れいとうビーム。これは同時に、入り口でスイレンが見た光の正体でもあった。
「レナ……さん……レナさん……!!レナさーん!!!」
スイレンは、涙を流しながら、叫んだ。先ほどまで生きていた、長い戦いを共に乗り越えた仲間が、一瞬にして、死ぬ。そんな理不尽を、受け入れることができなかった。
ひょっとしたら、まだ助けられるかもしれない。もはや、現実逃避の妄想に近い希望にすがり、凍ったレナを運ぼうとした、その時だ。
ドン、と重い音をたて、灰色の龍……キュレムが着地した。
同時に、レナの氷が、砕け散る。
フシュゥ、と白い息を吐き、こちらをみつめるキュレムと、目が合う。その瞬間から、スイレンの胸にあった哀しみは消え、代わりに果てなき怒りがこみ上げてきた。
「お前……お前ぇええええ!!!」
スイレンの声は、ドリームメイカーズとの戦いの中では発せられたことがないほどの、恨みと憎しみに満ちた、恐ろしいものだった。彼女は、今、生まれて初めてと言えるほどの激しい怒りを感じていた。
それほどまでに、「甦ることのない死」は、許せないものだった。
しかし、そんなスイレンに、キュレムは軽い口調で返す。
「はは、すげー。なんでこんなとこに居ンの?」
それは、鈍重な外見に似合わぬ、軽快な少女の声であった。突然のことに、呆気にとられるスイレンに向けて、キュレムは続けた。
「あんた、『スイレン』って名前でここ来てンだよね?いや、こいつらアンタの仲間だから襲いに来たんだけど、正直アンタに会えるとは思ってなかったわ。びっくり。こんなとこで何してんの?あ、やっぱり助けに来たの?コイツらを。はは、うけるー!こっちじゃ、そういうキャラでやってんだ。正義の味方……的な?ま、でもいいや。ここで会ったが百年目……」
「ちょ、ちょっと待って!」
マシンガンのように話すキュレムを、スイレンが制止した。
余りにも突飛なことで、かなり意味不明な事態であるが、其れ以上に、キュレムの言葉には無視できないものがあった。
「あの、ちょっと、質問いい?」
「うん、いいーよ」
2011/09/16 Fri 21:15 [No.694]