Net4u レンタル掲示板を作る
kaku
世界観としては、フリッカーさんのやつを継承しますが、あくまでパラレルワールドの話とお考えください。ツジモトとの戦いのあと、エルナ王女らの尽力により、平和の戻った世界です。
雰囲気としては、DTBジェミニみたいな感じですかね。
募集するのは、主に敵になると思います。
名前、容姿設定、性格設定、その他備考。
あと、所属する組織です。組織のリーダーは、こちらで決めます。ごめんね。
ブルジュオン持っていたり、ソーサラーである場合は、その能力。
他、そのキャラを使う上でのリクエストがあれば、描いていただければと思います。
受験終わったら、多分書くと思うので、よろしく!!
2011/02/01 Tue 23:30 [No.96]
フリッカー
・
ゴルーグの巨体がフィールドに倒れ込む。同時に起きたまるで地震のような揺れが、ゴルーグが戦闘不能になった事を知らせていた。
「う……くっ」
途端に、胸が苦しくなり、思わず胸に手を当てる。
息が切れた時に酸素を欲しがるように、倒れたゴルーグは私の生命力を吸い出したのだ。つまり私の負担は、手持ちポケモンが倒れるほど大きくなる。だから損害は最小限にしたかったのだが――
「どうしたんですか?」
「……いいえ、何でもありません」
このトレーナーの実力を、私は少し侮っていたらしい。
トウヤは間違いなく、相当な実力を持つトレーナーだ。力を出し惜しみしていては、この相手は倒せない――!
そうして、試合は熾烈を極めた。
Nの時のような一方的な展開ではなかったが、トウヤは私の手持ちに対して臨機応変にポケモンを入れ替えて対応していた。私が倒せたポケモンこそいたものの、気が付けば私の残りの手持ちはシャンデラのみとなっていた。
単純に試合の流れだけ見れば、とてもいい試合だった。トウヤのポケモンが繰り広げる戦術は、目を見張るものがあった。私が劣勢になったとはいえ、そんな相手との対戦は純粋に楽しめるものであっただろう。
だが私には、そんな試合を楽しむ余裕すら与えられていない。
「おおおおおおっ!!」
トウヤが共に突撃するかのように叫びながら、エンブオーが“もろはのずつき”で突撃してくる。いわタイプの最高レベルの攻撃わざを受けてしまっては、シャンデラはただでは済まない。
「はあ、はあ……“シャドーボール”で……!!」
迎撃すれば間に合う。
だが、その指示は遅かった。指示が届いてシャンデラが応戦しようとした時にはもう、エンブオーはシャンデラの懐に飛び込んでいた。
シャンデラは“シャドーボール”を放つ事なく、エンブオーの一撃を受けてしまった。力なく宙に放り投げられたシャンデラは、そのまま私のすぐ前に落ちる。大ダメージを被ったのは明白だ。そういう意味では、既に勝敗は決したも同然と言える。
「あ……はあ、はあ、はあ、はあ――!」
既に心臓は悲鳴を上げている。整えようとしても全く治まる気配がない。指示の遅れにまで響いてくるとは、もはや致命的だ。自力で立っている事が不思議に思える。
「あ、あの……大丈夫ですか? 息荒いですよ?」
さすがに様子がおかしいと思ったのか、トウヤも気になり始めている。この状態で気付かない方がおかしいだろう。常識的に考えて、これ以上の試合続行は不可能だ。普通ならここは、誰もが試合を中止すると決めるだろうが――
ふと、地面に落ちたシャンデラに目を向ける。
なぜか、こちらに向けていたシャンデラと目が合う。その目はなぜか、私を気遣っているようにも見えた。
「……?」
いや、そんなはずはない。シャンデラが私を気遣うなどあり得ない。
きっと、私の指示を待っているだけなのだ。この後私がどんな指示をするのか、気にしているだけなのだ。つまりシャンデラは、まだ試合続行を望んでいるのだろう。そう、私はトレーナーの役割をポケモンに無理やりやらされている奴隷のような存在だ。だから、ポケモンに指示する立場というのは名ばかりのもの。シャンデラが戦うと望むのなら、私も同意するしかない。
そう。たとえそれが、私の破滅に繋がるのだとしても――
「う、く……」
とうとう足に力を入れられなくなる。私の体がばたりと崩れ落ち、視界が暗転する。
「ああっ!? どうしたんですかシキミさん!?」
トウヤの声も、もはやはっきりと聞こえない。
そのまま私の意識は、闇へと落ちていった。
*
「う……」
どれくらい時が立ったのか。
私の視界が、ゆっくりと開かれた。視界に最初に入ったものは――
「……え?」
目の、錯覚なのだろうか。
私の顔を覗き込んでいるシャンデラがいる、ように見える。
焦点が定まってくる。
すると目の前には、間違いなく私のシャンデラがいた。なぜかひどく心配しているような顔で、私を見つめている。
「シャン、デラ……?」
わからない。
どうしてシャンデラが私を心配しているのか。私を利用しているだけのシャンデラに、私を心配する理由なんて何も――
「よかった。目を覚ましたんですね!」
横から聞こえてくる声。
見るとそこには、トウヤがいた。彼はシャンデラのちょうど側にいる。状況からして、私は彼によってここに寝かされていたのだろう。
「どうなるかと思いましたよ。シキミさんのポケモン達も、みんな心配していましたし」
「え……?」
私のポケモン達が、みんな心配していた――?
体を起こすと、すぐシャンデラも含む私のポケモン達の姿がある。みんな、私の顔を見るなり嬉しそうな顔をして、一斉に集まってきている。
「どうして……? なぜアタシの事を……? アタシは、ポケモン達に心配される理由なんてないはずですが……」
「な、何言ってるんですか? ポケモンがトレーナーの事を心配しない訳ないでしょう?」
それが当たり前だと思っているかのように、トウヤが尋ねる。私はすぐに首を横に振る、
「いいえ、そんなはずはありません……アタシに寄生しているような存在のアタシのポケモン達が、そんな事をする訳――」
「き、寄生!? どういう事ですか、それ!?」
激しく狼狽するトウヤ。
そんな彼に、私は事情を説明する。私は、ポケモン達に生命力を常に奪われているのだと。だから私はポケモン達に利用され、ポケモン達は私を利用しているだけにすぎないのだと。これが、私にかけられた『呪い』なのだと。
その話を聞いたトウヤは、激しく動揺していた。当然だろう。こんなに残酷なポケモンとの関係なんて、私以外にいないだろうから――
「変な事言わないで下さいよ!!」
だが、トウヤはなぜか違う、と言わんばかりに声を上げた。
「そんな、シキミさんのポケモン達がそんな事している訳ない!! それだったらどうして、シャンデラ達はこうやって心配してるんですか!!」
「え――」
その言葉は、まるでバケツ一杯の水をかけたかのように、私の思考から余計なものを取り去った。
「シキミさんの生命力を吸っているって話は本当だと思いますけど、それでもシャンデラ達はシキミさんが倒れている間、ずっとシキミさんの事を心配していたんです!! なら、シキミさんの事を粗末に思っている訳ないでしょう!!」
「……」
シャンデラ達に目を向ける。
一斉に私に向けているその瞳は、先程とは一転して落ち込んでいる。まるで、自らの罪を謝罪しようとしている子供のように。
「本当、なんですか……?」
シャンデラに尋ねる。
するとシャンデラは私の前で、いかにもごめんなさいと言うように、サッと頭を下げた。そして他の三匹も続けて頭を下げる。どう見ても、嘘をついているようには見えない。シャンデラ達は本当に、私に謝っていた。
あなたの力を吸いすぎてごめんなさい、と。
謝る事と言えばこれしかないのだから、言葉を交わせずともすぐに理解できた。
「シキミさん。その、あまり偉い事は言えませんけど、シャンデラ達がしていたのは、『寄生』じゃなくて『共生』だと思います。その、生命力を少しもらう代わりに、自分達が力になるって感じの。だってシキミさんとシャンデラ達、勝負中も凄く一体感がありましたから。シキミさんが力送ってるって感じで。だからそういうのは、『寄生』とは言わないと思いますよ」
……ああ、そうか。
考えてみれば、伝承通りにシャンデラ達が見境なしに人の生命力を吸うのなら、私は出会った瞬間に死んでいるはずだ。そんな事をせずに私が生きられた理由。それはトウヤの言う通り、私という人間と『共生』するという意志があったからなのではないか。
シャンデラ達は私の生命力を殺さない程度に吸う代わりに、私の期待に応えてくれた。ポケモン勝負をしている時の疲労も、私に共に戦っているという実感を沸かせ、それで得た勝利には喜びもあった。だからこの喜びを得たいと、強くなりたいという願いを抱き、四天王という立場を手に入れる事ができた。
そう。私が勘違いしていただけだった。シャンデラ達にとっては、私は共に道を歩んできた存在。だから今回はやりすぎてしまって私の体に負担をかけすぎた事を謝っているのだ――
「シャンデラ……」
自然と、シャンデラに手が伸びる。その手がシャンデラの頬に触れた瞬間、僅かに顔を上げるシャンデラ。
ゴーストポケモンは実体を持たない。だから人の手で触れる事はできない。だけど私の手は、シャンデラの頬に触れた感触を、確かに感じていた。
「謝らなければいけないのは、アタシの方です……アタシが、勝手にアタシを利用したと思い込んで……シャンデラ達の信頼に、気付かないまま……」
罪悪感で、自然と顔がうつむけられる。頬を、何か熱いものが流れていくのを感じる。
立ち上がって、シャンデラから離れる。今度は、残りの三匹だ。デスカーン、ブルンゲル、ゴルーグの順に、そっと撫でていく。
ごめんなさい、と謝りながら。
「この疲労感は、アタシ達が繋がっている証だった……それを間違った方向に解釈して、自分のポケモンを疑うようなアタシは、トレーナーとして失格ですね……こんなアタシを、許してくれますか……?」
全員に対して、そんな事を質問する。そうしないと、本当に呪いを受けても文句は言えないと思ったから。
すると、シャンデラ達は微笑みで答えてくれた。それは、私を許してくれるという意思表示だった。それは、久しぶりに見た手持ちポケモンの笑顔だった。
「……アタシのポケモンでいてくれて、いいという事ですね?」
シャンデラ達は、はっきりとうなずいた。
それが私には、とても嬉しかった。私達の間には、確かな『絆』があったんだと確かめられたから。
「――ありがとう、みんな」
*
私が抱いていた間違いに気付かせてくれたトウヤは、他の四天王三人にも勝利してNに挑み、伝説のポケモンであるゼクロムに選ばれ、プラズマ団の野望を打ち砕いたという。
彼とはそれ以来、顔を合わせていない。きっとより高みを目指して、旅をしている事だろう。だが、ただ一度だけの出会いでも、わかった事がある。トウヤは私の間違いに気付くほど、ポケモンに対し純粋な気持ちで接し、大切にしていたトレーナーなのだ。だからこそ、ポケモンの解放を謳うプラズマ団にも勝てたのだろう。
そんな彼に倣って、私もポケモンリーグを後にして、旅を始めた。
初心に返って自分のポケモンを疑うような自分の考えを鍛え直したい、というのが一つ。そして、私の目を覚ましてくれたトウヤに会えたらいいな、というのがもう一つ。彼に会えたら、改めてお礼を言いたいのだ。いつ、どこで会えるのかは、私にもわからない。ただ、そうなって恥ずかしくないように、私は私自身を、ポケモン達の力を磨いている。
私達はポケモン勝負という形で、ポケモンと日々を過ごしている。
考えてみればそれは利用し、利用されているような歪な関係だが、それは少し変わった共生であるだけで、決して間違いではない。
――だって。
自らの生命力を差し出す私と、それを吸うシャンデラ達の間にも、確かな絆というものがあるのだから。
終
2011/01/04 Tue 10:29 [No.32]
フリッカー
・
意識が戻った時は、体力は何とか体を動かせるほどにまで回復していた。
それでも重い体を引きずって、バトルフィールドから自分の書庫へと戻る。
「……あぁ」
力なく木の椅子に座り込み、背もたれに体を預ける。
今回はまずかった。ここまで体力を使った――いや、“使わされた”のはいつ以来か。下手をすれば戦闘中に気を失ってもおかしくなかった。それだけ、あのレシラムは強すぎたのだ。
「『その男、瞳に暗き炎をたたえ、ただ一つの正義を成すため、自分以外の全てを拒む』……はあ、こんな時に何を考えているのでしょうかアタシ……」
ふと思いついた一節を口にして、自分の癖に呆れる。
小説家が本業故か、印象に残った事はどんな事でも小説の一節のような言葉でまとめてしまう事はよくある。こういうどうでもいい時に思い浮かんでしまうのは、問題ではないかといつも思う。
私はゴースト使いとなった代償として、一つの『呪い』を受け取ってしまった。
始めは些細な事だった。ポケモンバトルをしている中で、動いてもいないのに運動したような疲れが襲ってくるような事があったと思うと、次第にそれが日常茶飯事になり、手持ちを増やしていくと急に疲れやすくもなってきた。
そして、私は気付いたのだ。
自分の体力が、自分のポケモンに“持っていかれている”という事実に。
ゴーストポケモンは、出会った人間の生命力を吸って生きている。シャンデラの炎に包まれると魂を吸い取られて燃やされ、抜け殻と骨だけが残ってしまうという話もあるし、ブルンゲルは住処に迷い込んだ船の乗組員の命を吸い取るという話もある。
つまり私は、手持ちにしたポケモン達に“寄生されて”しまったのだ。私の手持ちになる代償として、私の生命力を差し出すという形で。
だから私は、常に4匹ものゴーストポケモンに生命力を吸われているのだ。平時でも激しい運動をするとすぐに息が切れてしまう。そして戦闘時に、この影響は顕著に表れる。
ポケモンは戦闘時に、多くのエネルギーを消費する。そのために、私のポケモン達は消耗するエネルギーを私の生命力で補っている。つまり私のポケモンの戦闘は、私自身の戦闘とほぼ同義。私のポケモンが戦うほど、私は体力を消耗していくのだ。逆に言えば、この手段で力を得ているからこそ、私は四天王にまで上り詰められたのかもしれないが。
これが、私にかけられた『呪い』。つまり私は、普通にポケモンを手にしたつもりで、悪魔と契約を交わしてしまったのだ。
物語に出てくる悪魔は、契約した人間の願いを叶える代償として、その人間を最終的に殺してしまう。ならば私が辿り着くのも、同じ結末。いずれこの体を食い尽くされる私は、人並みに長く生きる事はできないだろう。私を待ち構える最終章は、どう足掻いてもバッドエンドだという事が決められてしまっているのだ。
「ポケモンの解放、か……」
プラズマ団、そしてNが謳っていた事を思い出す。そして、シャンデラを納めているダークボールを手に取って見つめる。
私は多くの人と同じようにポケモントレーナーになる事を願い、ポケモンを手にした結果、ポケモン達の苗床にされるという結末に至ってしまった。ポケモンを利用する人間が、逆にポケモンに利用されるという矛盾。これを知っているからこそ、私はプラズマ団の思想に共感できる所があった。やり方こそ間違っていると思うが。
考えてみれば、私はポケモンを愛していたつもりになっていて、本当に愛していた訳ではなかった。気が付けば、ポケモンの事をステータスだけで評価していた私がいた。つまり私は、ポケモンを自分の目的を果たすための道具にしか見ていなかったのだ。私のポケモン達も、私を自分達が利用するための存在としか見ていないのかもしれない。それはきっと、他の人も同じなのだろう。
なんて、なんて歪な、ポケモンと人との絆。
彼は言っていた。
このままでは、私は破滅すると。
なら、このポケモン達をすぐに手放せば、私は楽になれるかもしれない。ポケモンに生命力を吸われる苦しみから解放されて、自由になれるかもしれない。
だが、手放したら主ではなくなった私に、何をするかわからない。それこそ、私の生命力を吸い尽くして殺すかもしれない。そう、寄生されている以上、私がポケモン達に逆らう権利はないのだから――
「……はぁ」
考えていても答えがまとまらない。
私は考えるのをやめて、疲労を回復させる事を優先する事にした。Nに正々堂々と戦って敗れた以上、もう敗者である私がNの行動に干渉する権利はないのだ。だからどの道、今日やる事はもう何もない。ならば疲労を回復させるのが一番だ。
背もたれに背を預けたまま、目を閉じる。
すると睡魔が急に襲ってきて、私はすぐに眠りに落ちていった。
*
――だが。
その後、何ともう一人の挑戦者が現れた。
まるでNの後を追うように現れたその挑戦者は、一般のポケモントレーナーだった。
トウヤと名乗ったまだ10代前半に見える少年は、何と本当にNを追ってやってきたトレーナーだった。
「すみません、早く始めてくれませんか! 俺、時間がないんです!」
トウヤは余程焦っているのか、私に勝負を急かしてくる。
私としては、二人目の挑戦者である彼は迷惑な存在だった。Nとの試合の疲れが、まだ私は十分に取れていない。ポケモンは問題ないのだが、体力を消耗する関係上、一日の間に連戦はきつい。だから普段は、試合を極力一日一試合とするようにしている。だがトウヤは頑なに今ここで試合をする事にこだわり続けた。
何でもトウヤは、Nを自らの力で何としてでも止めようとしているらしい。だが、あんなポケモンの範疇を超えたレシラムに一般のトレーナーが挑むのは無謀すぎる。実際に対戦したからこそわかる。
だから私は、尋ねた。
「どうして急いでまで、Nを止めようとするんですか? 彼は、並のポケモントレーナーでは歯が立たない相手なんですよ?」
「そんな事はわかってます。俺は何度も対戦したんです。だからあいつの実力がどれくらいなのかも把握しているつもりです。それに――」
「それに?」
「俺は、あいつの目を覚ましてやりたいんです! ポケモンが人間と切り離されて暮らすなんて、間違いだって! そんなのは、差別と同じ事なんだって! だから俺はあいつに追いついて、あいつに勝たないといけないんです! 俺と、ポケモン達の力で!」
「……それは、自分の力でできると本当に思っているんですか?」
「できないってわかってたら、ここになんて来ませんよ」
トウヤの瞳には、明確な意志が宿っている。Nに追いつくために、四天王に勝利しなければならないという強い意志が。
こうなってしまってはもう、言葉で追い返す事は不可能だ。ここは試合を受け入れてトウヤの心意気と実力を見るしかないらしい。体への負担を減らすためにも、できるだけ早く試合を終わらせなければ。
「わかりました。ゴーストポケモン使いの四天王シキミ、お相手いたします!」
かくして、試合の火蓋は切って落とされた。
トウヤが最初に繰り出したポケモンはおおひぶたポケモン・エンブオー。対して私が繰り出したのは手持ちの中で一番の巨体を持つゴルーグ。二匹の体格差はあまりにも大きい。鍛えられていないポケモンなら、その体格差を思い知っただけで戦意を喪失する事もあるが、エンブオーは倍もある体格差に臆せずに見構えている。そういう所はちゃんと鍛えられていると言える。
「行くぜヒート! お前の力、俺と一緒に見せてやろうぜ!」
エンブオーには『ヒート』というニックネームを付いているようだ。それは、それほど自らのポケモンに愛着を持っている事を意味する。だが、引っかかったのは『俺と一緒に』という言葉。そしてトウヤ自身も、まるでこれから自分も戦おうとしているかのように身構える。
「何を言っているんですか? ポケモン勝負というのは、ポケモンだけが行うものですよ? トレーナーはあくまで指示をするだけです、ポケモンと共に戦う存在ではないでしょう?」
「そんな事はありませんよ! ポケモン勝負っていうのは、ポケモンとトレーナーが一心同体になって、初めてできるものですよ! それを見せてやります! ヒート、行くぞ!!」
トウヤの言葉を合図に、エンブオーがゴルーグに向けて飛び出した。その体つきに似合わない速度だが、シンプルすぎる、愚直なまでの正面突撃。
ポケモンとトレーナーが一心同体になって、初めてできるもの――トウヤはそんな事を言っているが、果たしてエンブオーは同じ事を思っているのだろうか。私のポケモン達と同じように、都合のいいようにトウヤを利用しているだけではないだろうか――
「“シャドーパンチ”です!」
ゴルーグの拳がエンブオーを迎え撃つ。さすがにまずいと気付いたのか、エンブオーは腕を組んで防御体勢になる。
ゴルーグの拳は、エンブオーを吹き飛ばすのに十分だった。しかしエンブオーは、“シャドーパンチ”の衝撃を吸収しきり、フィールドの隅まで吹き飛ばされながらも踏み止まって倒れる事はなかった。
「……さすが四天王だ、一筋縄じゃ行かないか……ならもう一度だ!」
トウヤの瞳に怯みはない。その勇敢さこそ評価できるが、それでもう一度先程と同じ戦法を取るのはあまりにも迂闊すぎる行為だ。それとも何か、策があるというのか――
「“アームハンマー”です!」
ともかく近づいてくるのならば、間合いに持ち込まれる前に応戦するまで。左手に握るダークボールを突き出し、指示を出す。
ゴルーグが両手を組んだ腕を振り上げる。向こうから近づいてくるので、自分から近づく必要はない。正面突撃するエンブオーは、ゴルーグの間合いに自ら飛び込む形になってしまう。これでアームハンマーを当てられれば、エンブオーを確実に倒せるだろう。
「右だ!!」
しかしそこで、エンブオーは急に方向を転換し、ゴルーグの側面へと飛んだ。ゴルーグの腕は空を切り、誰もいない空間を叩くだけ。
そこで懐に飛び込むのか、ととっさに思ったが。
「よし、“ねっとう”!!」
「な――!?」
その指示に、私は不意を突かれた。
ほのおタイプなのに、みずタイプのわざを――!?
「いけええええっ!!」
トウヤの素振りストレートと共に出された掛け声に合わせるように、エンブオーは口から熱水を放つ。
とっさにエンブオーを視線で追おうとした顔に、“ねっとう”が直撃する。“アームハンマー”を放った直後のゴルーグに、これをかわせる手段はなかった。これが近接攻撃だったのなら、まだ対処する手段はあったのだか。
効果は抜群。ゴルーグが初めて体勢を崩す。膝を付く程度で済んだものの、ダメージは相当なものだ。
「今だ!! “フレアドライブ”行くぞ!!」
エンブオーの体が炎に包まれたと思うと、動きが鈍ったゴルーグに隙ありと飛び込む。
まずい。今あの一撃を受ければ、ゴルーグは倒されてしまう。受け止めて、そこから反撃の糸口を――!
「ゴルーグ!!」
私が呼ぶと、ゴルーグはすぐに反応して、両手を盾にして飛び込んできたエンブオーを両腕で受け止める。まるで、ボールを受け止めるゴールキーパーのように。
ゴルーグのパワーは、エンブオーに全く遅れを取らない。遅れを取るはずがないのだが――ゴルーグの腕は明らかに押されている。パワーを和らげる事が精一杯だというように。
そこで、私はようやく気付いた。
ゴルーグの体が、“ねっとう”による『やけど』を負っている事に――
「いっけええええっ!!」
トウヤも自分も力を出しているような声に圧倒されたのか。
ゴルーグはとうとうエンブオーのパワーを相殺しきれなくなり、エンブオーの“フレアドライブ”をもろに受けてしまった。
2011/01/04 Tue 10:27 [No.31]
フリッカー
※このスレに気付いていなかったので、修正を加えた後移動させました。
私の名前は、シキミ。イッシュポケモンリーグを守る四天王の一人であり、小説家としても活動している。
私は、世間でもあまり類を見ない、ゴーストポケモンを好んで使うトレーナーだ。それだからか、周囲からはあまりよくない目で見られたり、さまざまな憶測が飛び交ったりしている事多いが、ゴーストポケモンの使い手となったのには、もちろん理由がある。
それは、オカルトものが好みな訳でも、変な宗教に惹かれた訳でもない。単に、純粋な興味からだ。
ゴーストポケモン。
未だ起源が不明なポケモンの中でも、特に謎が多い存在。他のポケモンとは明らかに異なる特徴を多く持ち、そもそも『生物』なのかすらもわからない種族。だから幽霊(ゴースト)。世間に存在する物事が科学の力で解明されつつある中で、ゴーストポケモンだけは未だ科学の力では説明不能な部分が多くある。だからこそ、ポケモンの中でも特に人々に畏怖されるのだろう。
そういう所に、私は惹かれた。
当時の私は、好奇心が強くて怖いもの知らずだったらしい。科学では解明できない未知の存在と行動を共にし、共に勝負をする事ができる。それが、まだ幼い私にとっては想像してみただけで胸が躍る事だった。きっと、今までの生活では体験できもしない出来事を体験できるだろうと思って。ドラゴン使いも鳥使いも、幼い私にとってはありきたりな存在でしかなく、誰もが未知故に敬遠するゴーストポケモンの使い手になる事の方が、ずっと魅力的だと思っていた。
だから私は、親の反対を振り切ってゴーストポケモンのヒトモシを手に入れ、ポケモントレーナーとして旅立った。周りに何と言われようとも、私は自分の決めた道を信じて進み続けた。結果、私は四天王の一角となるまでに実力を伸ばす事ができた。
それだけ言えば、ありふれたサクセスストーリーのように見えるのだが――
――思えば、今でも後悔する。
どうしてその時の私は、ゴースト使いになる事を少しでもためらおうとしなかったのだろうか、と――
*
フィールドが、青白い炎の爆発に飲み込まれた。
爆発により起きた熱風はこちらにも伝わってきて、思わず顔を腕で遮る。まるで自分が噴火している火山の真っただ中にいるような錯覚がする。
桁外れの熱量だ。私が使うシャンデラもほのおタイプを有しているが、ここまで激しい熱量は出せない。いや、世界中のほのおポケモンを探しても、ここまでの熱量を出せるポケモンはいないだろう。それは既に、ポケモンが放つ炎の領域を超えている。では、この炎を放った主は果たして何者なのだろうか。
熱風が収まった所を見計らって、遮っていた顔を上げる。
フィールド上に燃え上がる青白い炎の中に、蜃気楼のようにそびえ立つ巨大な白い影。それは全てを焼き尽くす灼熱の炎の中でも、神々しい輝きを失っていない。まるで、この世の存在ではないかのように。
「これが、伝説のポケモンの力……」
はくようポケモン・レシラム。
曰く、争いが絶えなかったイッシュ地方をその炎で焼き尽くしたと言われる、伝説のポケモン。
曰く、大気を動かして世界中の天気を変えられるほどの熱量を放てるという、伝説のポケモン。
その、伝説の中での存在でしかないはずのポケモンが、今の私の敵だった。
最近になってイッシュ地方においてさまざまな事件を起こしている謎の組織、プラズマ団。
その王だという青年・Nが自らの力を証明するべくチャンピオンに挑もうとしている、という話を聞いたのはつい最近の話だ。旅をしていてリーグを長く留守にしていたチャンピオン・アデクさんが戻ってきて、すぐにこの話を聞かされた時は私も驚いた。
プラズマ団の中心人物だというのなら、有無を言わさずすぐに警察を呼び出して捕まえさせればいいと思ったが、Nの実力はもはや警察では手も足も出ないレベルにまであるらしく、そして彼は正々堂々とチャンピオンに挑もうとしているというアデクさんの話もあり、結果として通常と同じようにポケモンリーグで普通の挑戦者として迎え入れる事になったのである。
そして数日後、果たしてNはやってきた。
チャンピオンに挑むためには、まず四天王に勝利しなくてはならない。そのルールに従い、彼は私にも正々堂々と試合を挑んだ。全てのポケモンを解放する、という理念を掲げて。
犯罪組織の中心人物に公式試合を挑まれるという事に、私は苛立ちを覚えた。犯罪組織の人間ならそれらしく、強行突破してチャンピオンの元に向かおうとしない所が、相当な自信を誇示しようとしているように見えたのだ。
いつもの公式試合でもそうだが、今回は特に手を抜かずにはいられないと思った。Nが何を目論んでいようと、犯罪組織の人間を黙って先に通す訳にはいかない。そう意気込んで、試合に臨んだ訳なのだが――
Nが繰り出したポケモンは、私の予想を大きく超えたものだったのだ。
「……」
中性的な顔立ちが特徴的な青年であるNは、レシラムの戦いを黙って見守るだけで、ポケモンバトルの基本である指示を行おうとすらしない。絶対的な信頼をレシラムに向けているその瞳が、『指示をするまでもない』と自惚れているように見えて、私は歯噛みした。
私は、未だレシラムに一矢報いていない。ブルンゲルも、デスカーンも、そしてゴルーグさえも、レシラムには全く力が及ばなかった。最後の手持ちは私の手持ちの中でシャンデラだが、それでもレシラムの強大な力に圧倒されている。先程の“あおいほのお”の直撃を免れたのは、奇跡としか言いようがない。しかし、直撃を免れ、しかも特性の効果により無効化できるはずのほのおわざにも関わらず、シャンデラはかなりのダメージを被ってしまっている。辛うじて浮いているが姿勢は安定せず、今にも墜落してしまいそうな状態だ。
一方で、こちらの攻撃は一切レシラムに通じている様子がない。シャンデラとて攻撃力はほのおポケモン・ゴーストポケモンどちらにおいてもトップクラスだ。にも関わらず、攻撃を一撃受けてもレシラムは動じないのだ。
まさに力の差は天と地ほどの開きがある。これでは、勝負にすらならない――!
「はあ、はあ、はあ、はあ――!」
私の息が荒くなっている。
その場から動いた訳でもないのに、まるでマラソンを走った後のように心臓は激しく高鳴り、肺は貪欲に酸素を欲しがっている。だがそのお陰で、自分が追い込まれているという事を実感できる。
レシラムが、次の攻撃を放とうとしている。口から放とうとしているそれは、恐らく“りゅうのはどう”。標準的な技だが、レシラムのパワーを持ってすればどんな破壊力になるのかはわからない。
このままでは、自分の力が及ばないままNを通す事になる。それだけは避けなければ。
たとえ、諸刃の剣を使う事になろうとも――!
「シャン、デラ……!」
左手で握るダークボールを、更に強く握りしめて、命令する。
「周りの炎を吸収して“だいもんじ”!!」
すると、フィールドの大半を包んでいる炎が、シャンデラの体に引き寄せられ、吸収していく。
シャンデラは、炎を吸収して自らの力に変換する『もらいび』の特性がある。直接的なほのおわざはレシラムの特性『ターボブレイズ』によって打ち消されてしまったが、フィールドで燃えている炎なら吸収てきるはず、と私は判断したのだ。
だが、間に合うか。
いや、そもそも問題は――
レシラムが“りゅうのはどう”を放つ。
同時にシャンデラも、吸収した炎を一転に集めて放つ。
単純なわざそのものの威力は“りゅうのはどう”より上回る“だいもんじ”だが、これに『もらいび』の効果を上乗せしても、レシラムの“りゅうのはどう”を受け止め、相殺させる事しかできなかった。
だがそれでも、相殺できさえすれば、起点とするには十分だった。
「顔に“ニトロチャージ”です……っ!!」
ダークボールを握る左手を突き出し、指示を出す。
すると、シャンデラは全身を炎で包み、爆発の煙を隠れ蓑にしてレシラムに突撃する。レシラムには煙の中から急にシャンデラが飛び出したように見えただろう。レシラムは炎の弾丸となったシャンデラの突撃を顔面に受けた。
「はあ、はあ……“シャドーボール”で連続攻撃を……っ!!」
指示通りに、シャンデラはレシラムの背後から反転し、“シャドーボール”の連続攻撃をレシラムに浴びせる。
“ニトロチャージ”による顔への攻撃で怯んだ隙に、“ニトロチャージ”で得た加速力を活かして不規則に周囲を回りながら連続攻撃。レシラムはシャンデラを捉える余裕もなく、反撃の余裕を与えられない。
しめた。この調子なら、レシラムを畳み掛ける事ができる。いくら一発だけではダメージにならない攻撃でも、何度も浴びせられれば響いてくる。そして何より、このままうまく行けば私も――
「後ろだ、レシラム!!」
そこで、何を思ったかNが口を開いた。
その直後、ちょうどシャンデラはレシラムの背後に回り込んでいて、“シャドーボール”を放とうとしていた――
レシラムは顔を向ける事なく、そのロケットのバーニアのような尾から炎を吹き出す。シャンデラはその炎に突っ込む形となってしまい、そのまま炎をもろに受けて落ちてしまった。
「そんな!?」
どうしてNは、シャンデラの位置を特定できたのか。
加速して目まぐるしく動き回るシャンデラを、肉眼で捉えて行動を読んだのか。いや、あの不規則な動きを読むなど、常人にできるはずがない。まるで、未来予知でもしたかのような――
その思考を強制終了する。
なぜなら、落ちたシャンデラに、再びレシラムは“あおいほのお”を放とうとしていたからだ。
あの桁違いの炎が、再びシャンデラに放たれようとしている。受けてしまえば、それで勝負が決まってしまう。だが、完全にかわす事も不可能だ。なら、同レベルの攻撃をぶつけて、相殺するしかない。
もう、選択肢は一つしかない。
「……っ、“オーバーヒート”です!!」
使えるのは、シャンデラが持つわざの中で一番強力な“オーバーヒート”だけ。余計な事を考える余裕もなく、指示を出した。
そして、レシラムの“あおいほのお”と、シャンデラの“オーバーヒート”が放たれたのは、ほぼ同時だった。
赤と青の炎が、二匹の間でぶつかり合う。
二つの炎の力は互角。一歩も譲らぬまま、周囲に熱風を巻き散らしていく。
こうなれば、後は純粋な持久戦だ。どちらか一方が力を緩めた瞬間、敗北が決定する。
それはつまり――
「は……ああ――っ!!」
先に耐えられなくなったのは、私の方だった。
一瞬視界がぼやけたと思うと、足の力が抜けて、力なく崩れ落ちる私の体。
そして、二匹の炎のぶつけ合いも連動し、周囲が青い炎に飲み込まれて終わりを告げた。
「はあ、はあ、はあ、はあ――」
周囲で何が起きたのか、もう把握できない。
もう意識が薄くなり始めていて、周囲の状況を把握する事に気が回せない。
ただ、この状況になっているという時点で、私は敗れたという事には気付いていた。
かつんかつん、と誰かが歩いてくる音。
それが誰なのか把握しようと残った意識を向けた時。
「どうして君は、無理をしてまでポケモンを手放さないんだ? それを続ければ、君は破滅するというのに」
私の目の前で、そんな声が耳に入った。
2011/01/04 Tue 10:25 [No.30]