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フリッカー
キャラ紹介
暁美ほむら
主人公。唯一改変前の世界の記憶を持つ魔法少女。クールな雰囲気はそのままに、芯の通った強さと優しさを持つ少女へと成長した。
高校生になった現在も仲間達と共に魔法少女として戦う一方で、いなくなった姉代わりにとまどかの弟であったタツヤの面倒を見ている。しかし体に何らかの異常を抱えているらしく……
以前の世界とは異なり、弓矢を武器として使用する他、翼を展開する能力も持つ。また、活動半径を広げるためにバイクを使用している。
鹿目タツヤ
改変前の世界で鹿目まどかの弟だった少年。6歳になり、小学校に入学した。
性格はまどかと同様心優しいが、自分が喧嘩に弱い事をコンプレックスとしている。ほむらを「ほむら姉ちゃん」と呼んで慕う一方で、時折夢に出てくるという『まどか』という少女に思いを馳せて半ば夢遊病状態でさまよう事が多く、周囲を心配させている。
巴マミ
ほむらと共に戦う魔法少女。
ほむらと同じ高校に通っている。物腰の柔らかさは相変わらずで、チームのまとめ役を務める。仲間達と共に魔法少女として戦う内に成長し、現在は男女問わずに広い顔を持つようになっており、今回の敵である五月スズとも一時期共闘していた事があった。タツヤとも面識がある。
佐倉杏子
ほむらと共に戦う魔法少女。現在はほむらの部屋に居候している。
元々学生ではないため、校外での情報収集など、ほむら達が学校にいるために活動できない時間をフォローする。食へのこだわりは相変わらずで、食費を立て替えているほむらの財政状況を圧迫している。タツヤとも面識があるが、あまりいい印象は抱かれていない。
キュゥべえ
願い事を一つ叶える代わりに魔法少女としての契約を結ぶ『魔法の使者』で、またの名をインキュベーター。倒した魔獣から得たグリーフシードからエネルギーを採取するために、魔法少女達と行動を共にしている。
今回の敵である五月スズの素顔を知る数少ない存在。そしてほむらと同様に『まどか』という存在を知るタツヤに興味を持ち……
五月スズ
本編の敵。魔法少女でありながら魔獣を増殖、進化させる『悪の魔法少女』。
天上天下唯我独尊を絵に描いたような性格で、『力』を手にする事に強い執着を見せる。魔法少女となった願いも『力』に関連するものらしい。自らの力を知らしめて世界の頂点に立つという目的のために魔獣を操り、絶望をばらまいていく。イメージカラーは黒で、サムズダウンが決めポーズ。
武器は斧で、投擲武器としても使用可能。『力』の願いで魔法少女になった経緯から高い戦闘力を持ち、ほむら達を窮地に陥れる。
※衝動的に書いてしまったエア小説の予告編とキャラ紹介。
本編の後日談という設定で、成長した鹿目タツヤと敵役の五月スズの心の闇をテーマにした内容です。是非皆さんの妄想内で楽しんでください!(え
2011/04/30 Sat 12:16 [No.300]
Makoto
しばらく時間が経ってから、やっと悲しみから立ち直って涙をぬぐい直したマコトは、一先ず深呼吸をしながら花束を、かつて入口であったであろう場所に置き直し、手を合わせた。これでいくらかは、安らかに眠りに付けることだろう(といっても、既に現実世界に戻っていることを知らないのだが……)。
「ふぅ、これで大丈夫だよね?」
マコトは一息ついて、本部跡地から立ち去ろうとしたその時―― 後ろから小さく話し声が聞こえてきた。
『お前も来るなんて、物好きなポケモンもいるもんだな……』
『私たちだけじゃないって事ですわ。ここに弔いに来るのって』
『……ここでは本当の私の名を言うなよ、ファビオラ』
「……!!」
いつの間に来ていたのだろうか、エルレイドとチルタリスの2匹が花束と数珠みたいな飾り物を手にして歩いてるのが見えた。戦いが終結してDMとDCが和解したとはいえ、油断はできない。
「あなた達…… な、何しに来たんですか!?」
これ以上の悲劇は作らせてなるものか! そう心に決めていたマコトは半ばきっと表情を固くして構えていた。しかし――
「穏やかじゃないですわね…… そこのリオルさん、そんなに緊張しなくてもいいのよ? 戦いはもう終わったんだし」
「我らは弔いに来ただけなのだ…… 無闇に血を流す必要はないだろう?」
「ほら、リラックスリラックスですわ! アイビスも緊張してないの!」
「へ… えぇっ!? クールじゃないの!?」
「だから本当の名を言うなったら! あぁもう、折角なりきってたのに……」
「は、はぁ……」
チルタリス――ファビオラは緊張で顔を引きつっている彼らをなだめて悠々としているが、エルレイド――クール……否、メタモン――アイビスは唐突に話を展開されて困惑している様子。
マコトも、いきなりの急展開に、目をパチクリさせるしかなかった。
その後、彼らも同じように仲間の墓参りに来ていたことを知って赤面しながら謝り続けたマコトと、そんな彼を優しく笑いながらも昔の思い人を想っていたファビオラ、今では変身を解いて付き人を思いながらもどこか目を逸らしていたアイビスとで、それぞれの状況を話し合った上で双方の目的を果たしていった。
「早いものだな……。自分たちが、目的や信念を持って戦いに挑んだ一週間―― いろいろあったのが信じられないな」
「えぇ、前までの戦いがウソのようですわね…… 失ってしまったモノも多いけど、それによって私たちも大きく何かが変わっていった…… 私、この事は忘れないつもりです」
ちなみに後でアイビスにラプラスさんについて話を聞いたところ、彼はクールと死闘ともいえる一騎打ちにて、互いの大技をぶつけ合った末に満身創痍の状態となり、双方ともに力尽きたとのこと…… 唯一その場にいたアイビスは、全く手を出していないというのも素直にうなづける事ができた。
前まで敵味方に分かれて戦ったとはいえ、世界が平穏となると心に安心が生まれていったのだろうか。3人のそれぞれの目は、曇りが及んでいなかった。
「今後も、このような平穏な時間が続くといいなぁ……。僕もこれまでの思い出、忘れないようにするね……!」
3人はゆっくりとうなづき合い、再会を約束してその場を去って行った。いろいろと言葉にしたかった分もあったけど、それは後で帰ってから考えよう―― そうマコトは思い直したのだった。
――フリッカーさんとアッシマーさん、そしてあげはちゃん…… 戦いが終わって一安心してますよね? 今、僕もそちらに行きます……。一緒に生き残れたら、その時は…… どうか友達に……――
僕らの時間は、ここから始まったばかりなのだ!
――――――――――――――――――――――――
◇あとがき
はい、どうも書かせて頂きましたー! 5日目からの参加で身の周りが大きく変わったと感じてるマコリルです。稚拙な部分も多かったですけど、最後まで参加できて嬉しい限りです! 本当にありがとうございました!
毎度の事ですが、修正すべき問題点が見つかりましたら、ご指摘をお願い致します。
2011/04/30 Sat 01:34 [No.299]
フリッカー
「どうして……どうして誰も私を認めてくれないの……!? みんな私をバカにして……!
力が、もっと力が欲しい……! 今度こそ、誰が本当に一番なのかを……!!」
私の名前は、暁美ほむら。
まどかが全ての魔女を打ち滅ぼす概念となって消滅してから、3年が経った。
高校生になった私は、小学生になったまどかの弟、タツヤの面を見る毎日を送っていた。
「ねえ、ほむら姉ちゃん」
「何、タツヤ」
「僕、最近変な夢を見るんだ」
「変な夢?」
「タツヤ、最近何だか変なのよ。夢遊病みたいに『マドカ』ってつぶやきながら、あちこちうろうろする事があって……」
「マドカ……」
そして、私は今も魔獣と戦い続けている。もちろん、魔法少女として。
「ふう、間一髪だったわね」
「もう大丈夫よ、タツヤ」
「ほむら姉ちゃん……!? 何なの、その格好……!?」
「彼女達は『魔法少女』。魔獣を狩る存在さ」
だけど、そんな私達の前に立ちはだかったのは――
「私の名前は、五月スズ。あんた達にも見せてあげるわ、私の力をね!!」
「そんな!! 魔法少女が魔獣を操るなんて、訳がわからないよ!!」
最凶最悪の魔法少女だった――!
「あいつ、本当に魔法少女なのか!?」
「彼女はまさに『魔女』だわ……前の世界にいた魔女が魔法少女の姿を保っていたら、あんな風になっていたかもしれない」
「私はこの力で、世界の頂点に立つの!! 誰にも邪魔はさせない!! その心、私が全部吸い取ってやるわ!!」
「う、うあああああああっ!!」
「暁美さん!!」
人はなぜ、闇へ落ちていくのか。
闇は物凄く強大で、人の心を容赦なく蝕んでいく。
「ほむら、これ以上戦うのは危険だ! そんな事をしたら、君は――」
「できる訳、ないでしょう……! 私が、あの子を巻き込んでしまったんだから――!」
「僕は、喧嘩にだって勝てないんだ……ほむら姉ちゃんみたいに強くなんかないよ……!」
「いい、タツヤ。私だって強くなんかないわ。わたしもずっと、友達に助けられてばかりだったから」
「友達……?」
「その友達はね、今はもういないの。でもね――」
「力よ……大事なのは力よ! 力がなきゃ、一番になんてなれない! 誰も認めてくれない! なら――!!」
「それが、彼女の心の闇……」
でも心の闇は振り払える。
一人では無理でも、支えてくれる誰かが側にいれば――
「その子がそんなに大事みたいね……ならなおさら、その子を狙いたくなるのよね……!」
「ほむら姉ちゃんっ!!」
「……大丈夫。私達魔法少女は負けないわ」
だから、私は戦う。
この世界を作った、あの人のためにも――
「だって魔法少女は、夢と希望を叶える存在なんだから――!!」
エア小説『魔法少女まどか★マギカRETURNS 魔法少女ほむら★マギカ』
妄想の中で近日公開予定!
「う……っ」
「ほむら姉ちゃん――!?」
2011/04/30 Sat 01:06 [No.297]
フィッターR
目の前に巨大な影が躍り出る。
いや、巨大な影、ではない。
小さな影が巨大な鉄塊を携え、フリッカーの前に躍り出たのだ。
「これ以上、やらせるかよおッ!!」
小さな影は、パライバ目掛けて鉄塊を振り下ろした。
至近距離。最早パライバに、振り下ろされる巨大な鉄塊を避ける術は無い。
大きな音がした。
鉄塊がパライバに当たった音か。パライバが地に叩きつけられた音か。それはフリッカーには分からなかった。
只、一つ言える事。
それは、目の前でパライバが地に伏しているという状況が、現実の物であるという事だった。
「へへ……上手くいった……ウェポン・アタック!」
フリッカーの右手から、得意げな声がする。
サジタリウスさん?
フリッカーは、声のした方を見る。
そこには、巨大な鉄塊を大顎に携え、微笑むクチートの姿があった。
「き……貴様……!」
いつの間にそんな技を、とふと考えた瞬間、フリッカーは現実に引き戻される。
パライバの声。あいつ、まだ動けるってのか。
「人間ごときが……小賢しい真似を……ッ!」
振り返る。
そこには、大地を踏みしめ、再び立ち上がろうとするパライバの姿。
そうだ。奴は回復技を持っている。
あの鉄塊で奴が受けたダメージは、如何見繕ってもかなりの物だ。
しかし、その『かなりの物』でさえ、奴を沈黙させるには僅かに力が及ばなかった。完全に沈黙させない限り、奴は羽休めを使い、いくらでも傷を癒す事が出来る。
傷を舐めてじわじわと体力を削ぐ事も出来ない。火傷させたり麻痺させたりする絡め手も使えない。
やはり、奴を倒す方法はただ1つしかない。
一撃で行動不能に出来る程のダメージを与え、一撃の下に沈黙させる他には……
フリッカーは振り返る。
「あげはさんッ!!」
そして叫ぶ。
突っ込んでくるパライバに臆してしまったのか、あげはは構えを解いてしまっていた。
「早くッ!!」
今、パライバを一撃で倒せる技を有しているのはあげはのみ。
年齢的には大人の男が、年端もいかない女の子に頼らなければならないと言うのも、情けない話だ。
しかし、今はそんな事を考えている場合では無い。
玉砕しても使命は果たせる。とは言え、やっぱり自分が死ぬのは嫌だ。それに、仲間が死ぬのも。
だから……!
「あげはさんを……やらせるかッ!!」
念の力を、最大限に引き出す。
乾坤一擲のサイコキネシスを、フリッカーはパライバに浴びせた。
「ぐっ……!」
念動力の壁に阻まれ、歩みを止めるパライバ。
パライバの脚に、翼に、身体に、込められる限りの力を込める。
しかし、やはりボーマンダを抑え込むには特攻が足りないのか。精一杯の力を込めても、パライバはじりじりと歩みを進めている。
諦めの悪い奴め。心の中で悪態を吐く。
しかし、それを実際に口にする余裕は無い。力尽くで無理矢理押さえつけても、パライバは抵抗をやめない。それどころか、抑えきれずに振りほどかれてしまいそうだ。
動くな、動くなったら!
みしり。
何かがきしむ音。
それと共に、パライバの力が途端に弱まった。
「あげはさんに気ィ取られてたのか? だからって俺の事忘れんな、兄貴!」
アッシマーの声。
あいつ、何をしたんだ?
もう一度、パライバを見据える。
「貴様……ッ!!」
歯ぎしりをするパライバ。
躍起になって首を振りまわすパライバ。
しかし、彼の体は全く前進しない。
自分のサイコキネシスとは、別の何かに拘束されている……?
フリッカーは、パライバの足下に目をやった。
パライバの脚に、地面から突き出た鋭利な岩がいくつも刺さっている。
岩はパライバの脚をしっかりと咥えこんで離さない。まるで、彼を捕えるために地中から姿を現したかのように。
「岩石封じ……か?」
「ご明答」
フリッカーの呟きに、アッシマーは誇らしげに答えた。
完全に動きを封じられたパライバ。
これで、あげはの射撃を邪魔する者は何人たりと存在しない。
「さあ、あげはさん!」
アッシマーが叫ぶ。
「あげはさん!」
続けて、サジタリウスも。
フリッカーももう一度、振り返った。
「今だ! あげはさん!!」
絞れる力を全て搾り取って、フリッカーは声を張り上げた。
再び、あげはが両腕を突き出す。
帯電した腕の間で、リュガの実が輝きだす。
木の実が宿す力が、エネルギーへと変換されていく。
光り輝き始めるリュガの実。そしてリュガの実は、木の実の形を失い、1発の光弾へと姿を変える。
「いけええええええええええええええええええええええッ!!」
3人の声に答えるかのように、あげはは叫んだ。
撃ち出される自然の力。それに、あげはが作りだした電流の渦がもたらす電磁誘導が生み出した、運動エネルギーが加算される。
木の実が生み出した熱エネルギーと、電磁誘導が生み出した運動エネルギーの集合体。
完全に動きを封じられたパライバに、そのエネルギー集合体を避ける術は既に無かった。
戦場だった道路が、一瞬にして静寂に包まれた。
サジタリウスの一撃で地に落とされ、フリッカーの念動力で歩みを阻まれ、アッシマーの繰り出した岩石によって拘束されたパライバは、完全に無防備な姿を変わらず晒し続けていた。
自然の力が着弾した胸部には、びっしりと霜が張り付いている。
最後まで動かし続けていた首でさえ、すでにだらりと垂れ下がり、ほんの少しも動かない。
青ざめた顔の上では、焦点の定まっていない瞳孔が、明後日の方向を向いていた。
あげはの放った一撃が、遂にパライバを完全に沈黙させたのだ。
「やった……」
喜びは沸いてこなかった。
フリッカーの中にあったのは、これだけの強敵を倒せたという現実を、受け入れる事が出来ない自分。
非力な人間として生きてきた自分が、世界の在り方を描き変えようとしていた存在を、討ち倒せた。
ただ、その事実に対する驚愕と不信が、彼の心の中を支配していた。
「さて……まだぼーっとなんてしてられないよ、皆!」
フリッカーの隣に居た、アッシマーが声を張り上げる。
「パライバを倒して終わりじゃないぞ。逃げて本部に戻ろうとしている連中だってまだいるかもしれない。
僕らの役目は、まだ終わって無いですよ!」
そう言ってアッシマーは、動かないパライバを尻目に駆け出す。
そうだ。
まだ戦いは終わっていない。
マルク達が本部を叩くまでは、この戦いは終わらないのだ。
だから自分達も、今出来る事を続けなければ。
先に進んだアッシマーの後に続いて、フリッカーもまた、力強く駆け出した。
アッシマーに見せ場を作ってあげて、と言われたので、加筆。
僕には自分を過小評価しすぎる悪い癖があるようです;
2011/04/04 Mon 21:50 [No.222]
フィッターR
人間だった頃、フリッカーは『竜の舞』を愛用していた。
素早さと攻撃を上げ、その火力と速度を活かし、相手を畳みかける技。使い手であるが故に、その欠点も彼は熟知していた。
上がった攻撃を無力化してしまえば、竜の舞使いは無駄に素早い低火力ポケモンに変わってしまう。それを一番手っ取り早く、且つ有効に行う事の出来る状態異常、火傷は、まさにこの状況にうってつけの技。
これで、僕達の勝ちだ。彼はそう思っていた。
「甘いな、刃ポケモン!!」
渾身の力を込めた刃がパライバに届く寸前。
今まで彼が受けたどんな衝撃よりも強い衝撃が、フリッカーの体に襲いかかった。
ふわり。
宙を舞う身体。
そして、再び強い衝撃。
背骨がきしむ。
い、今のは一体。
上体を起こして、再びパライバを見つめる。
「火傷を浴びせて攻撃力を下げる。成程、セオリー通りの素晴らしい判断だ。だが……」
嘘だろ。
フリッカーは目を見開く。
「世間には、セオリーの通じないイレギュラーも存在する事を忘れていたようだな」
パライバの体から、火傷は一つ残らず消えていた。
一部の選ばれしボーマンダのみが会得する事の出来る技――あらゆる状態異常を完治させる技『リフレッシュ』。
その存在を、フリッカーは完全に失念していたのだ。
「それを知らずに挑んだ己の愚かさを、あの世で後悔しろ!!」
パライバが舞い上がる。
月を背に浮かび上がる黒い陰は、全てを飲み込む闇のようで。
フリッカーは絶望した。嵌めたつもりが、逆に嵌められていたなんて。
これでもう一度羽休めでも使われようものなら、相手の状態は完全に振り出しに戻される。既に1人を失い、まともに戦えるのは自分と弟、そして―――否、地面に叩き付けられ、この後すぐにパライバの爪の餌食にされるであろう自分を除けば、もはや戦えるのはアッシマーとサジタリウスの2人だけになってしまう。
4人がかりでも倒せなかった相手を、たった2人で倒せるだろうか。否。そんな事が出来るはずがない。
―――だけど。
この戦いは、元々勝つ必要など無い戦いなのだ。囮としての役目は充分に果たせただろう。これでマルク達が本丸を落としてくれれば、作戦は大成功だ。
僕は、人間の世界を救った英雄として死ねるんだ。歴史の教科書に載ったり、後世に名前が語り継がれる事は多分無いだろうけど、世界を救った事実は変わらないんだから、それで充分だよね。
随分とあっさり出来た覚悟を胸に、フリッカーは振り下ろされるパライバの爪を、ただぼんやりと見つめていた。
「でえああああああああああああああああッ!!」
凄まじい声量の怒号が響く。それと共に、フリッカーの眼前に大きな陰が立ち塞がった。
フリッカーに重なるように倒れ込む陰。そして自分の頭のすぐ脇に突き刺さる爪。その爪が引き抜かれたその時、折り重なっていた陰が言った。
「ったく……相変わらず諦めが良すぎるんだよ……最後の足掻きくらいしろってんだよ。あんたの命掛かってんだぞ?」
自分の性格を熟知しているかのような言葉。こんな言葉を言えるヤツは、このチームの中でもただ1人しかいない。
「……アッシマーなのか?」
「他に誰がいるってんだ?」
彼以外に誰もいない訳でも無いくせに、そういう事をさらりと言ってしまうあたり、やっぱりツーカーな仲なんだな、と思って笑ってしまう。
戦いに赴く前は、あんなに険悪な顔を自分に向けていたのに。当たり前か。一番身近な場所にいる、家族なんだから。
「おのれ!!」
再びパライバの声。
上体を起こす。そこには、身構えるパライバに真っ向から向かっていく、弟の姿が。
「やああああああああああああッ!!」
ばちり、と言う音と共に、パライバとアッシマーの姿が、一瞬照らし出された。
パライバ目掛け、がむしゃらに連続でジャブを浴びせるアッシマー。その拳が振るわれる度に、パライバとアッシマーの間に、形容で無く本物の火花が散る。
あれは、雷パンチか。
ドラゴンタイプのせいで効果抜群にこそならないが、確実にダメージは通る。現にアッシマーは、フリッカーからじりじりとパライバを遠ざけている。
「でやあああああああああああッ!!」
パライバが一瞬、隙を見せる。
その隙を見逃さずに、アッシマーはパライバの顔に蹴りを放つ。
技らしい技とは言えない、只の蹴り。だがそれでも、パライバを怯ませるには十分だった。
「ボヤッとしてないで立てよ、また来るぞ!」
振り向き、叫ぶアッシマー。
言われた通りに立ち上がる。右腕に付いている葉に、深い切り傷が出来ているのが見えた。
「……くっ、何度立ち上がろうと同じ事!」
再び舞い上がったパライバが吠える。
そうだ。立ち上がった所までは良い。だが、パライバという障害はまだ消えていない。
状態異常、体力共に回復可能な相手に、一体どう立ち向かえば良いのか。
考えあぐねる。だが猶予は無い。どうすればいい?
その時。
「―――フリッカーさん!」
背後から響く女性の声。
まさか。
振り返る。
そこにいたのは、こちらを見据える、棒っ切れを大顎にくわえたクチート。そして。
彼と同じように、決意に満ちた眼差しをこちらに向ける、パチリスの姿だった。
「あげはさん!?」
フリッカーの心に、驚きと共に希望が沸き上がった。
彼女が戦えるのならば。
勝機は、こちらにある!
「あげはさんッ!!」
声の限りに叫ぶ。
「あれを使うんだ!!」
あげはは頷いた。
大地の力を宿す木の実、リュガの実。
フリッカーが渡したそれを手にして、あげはは両腕を前に突き出す。
突き出した小さな腕が、電気を帯びる。
いいぞ、そのまま。
「やらせん!!」
パライバの声。
振り返るフリッカー。
急降下するパライバが視界に入った。
狙いは自分では無い。
あげはだ。
速い。
あげはが木の実レールガンを撃つ前に、懐に潜り込むつもりか。
あげはさんをやらせる訳にはいかない。牽制の攻撃をパライバに叩きこもうとした、その時。
2011/04/04 Mon 21:49 [No.221]
フィッターR
「き……貴様……!」
いつの間にそんな技を、とふと考えた瞬間、フリッカーは現実に引き戻される。
パライバの声。あいつ、まだ動けるってのか。
「人間ごときが……小賢しい真似を……ッ!」
振り返る。
そこには、大地を踏みしめ、再び立ち上がろうとするパライバの姿。
そうだ。奴は回復技を持っている。
あの鉄塊で奴が受けたダメージは、如何見繕ってもかなりの物だ。
しかし、その『かなりの物』でさえ、奴を沈黙させるには僅かに力が及ばなかった。完全に沈黙させない限り、奴は羽休めを使い、いくらでも傷を癒す事が出来る。
傷を舐めてじわじわと体力を削ぐ事も出来ない。火傷させたり麻痺させたりする絡め手も使えない。
やはり、奴を倒す方法はただ1つしかない。
一撃で行動不能に出来る程のダメージを与え、一撃の下に沈黙させる他には……
フリッカーは振り返る。
「あげはさんッ!!」
そして叫ぶ。
突っ込んでくるパライバに臆してしまったのか、あげはは構えを解いてしまっていた。
「早くッ!!」
今、パライバを一撃で倒せる技を有しているのはあげはのみ。
年齢的には大人の男が、年端もいかない女の子に頼らなければならないと言うのも、情けない話だ。
しかし、今はそんな事を考えている場合では無い。
玉砕しても使命は果たせる。とは言え、やっぱり自分が死ぬのは嫌だ。それに、仲間が死ぬのも。
だから……!
「あげはさんを……やらせるかッ!!」
念の力を、最大限に引き出す。
乾坤一擲のサイコキネシスを、フリッカーはパライバに浴びせた。
「ぐっ……!」
念動力の壁に阻まれ、歩みを止めるパライバ。
パライバの脚に、翼に、身体に、込められる限りの力を込める。
しかし、やはりボーマンダを抑え込むには特攻が足りないのか。精一杯の力を込めても、パライバはじりじりと歩みを進めている。
諦めの悪い奴め。心の中で悪態を吐く。
しかし、それを実際に口にする余裕は無い。力尽くで無理矢理押さえつけても、パライバは抵抗をやめない。それどころか、抑えきれずに振りほどかれてしまいそうだ。
動くな、動くなったら!
みしり。
何かがきしむ音。
それと共に、パライバの力が途端に弱まった。
「あげはさんに気ィ取られてたのか? だからって俺の事忘れんな、兄貴!」
アッシマーの声。
あいつ、何をしたんだ?
もう一度、パライバを見据える。
「貴様……ッ!!」
歯ぎしりをするパライバ。
躍起になって首を振りまわすパライバ。
しかし、彼の体は全く前進しない。
自分のサイコキネシスとは、別の何かに拘束されている……?
フリッカーは、パライバの足下に目をやった。
パライバの脚に、地面から突き出た鋭利な岩がいくつも刺さっている。
岩はパライバの脚をしっかりと咥えこんで離さない。まるで、彼を捕えるために地中から姿を現したかのように。
「岩石封じ……か?」
「ご明答」
フリッカーの呟きに、アッシマーは誇らしげに答えた。
完全に動きを封じられたパライバ。
これで、あげはの射撃を邪魔する者は何人たりと存在しない。
「さあ、あげはさん!」
アッシマーが叫ぶ。
「あげはさん!」
続けて、サジタリウスも。
フリッカーももう一度、振り返った。
「今だ! あげはさん!!」
絞れる力を全て搾り取って、フリッカーは声を張り上げた。
再び、あげはが両腕を突き出す。
帯電した腕の間で、リュガの実が輝きだす。
木の実が宿す力が、エネルギーへと変換されていく。
光り輝き始めるリュガの実。そしてリュガの実は、木の実の形を失い、1発の光弾へと姿を変える。
「いけええええええええええええええええええええええッ!!」
3人の声に答えるかのように、あげはは叫んだ。
撃ち出される自然の力。それに、あげはが作りだした電流の渦がもたらす電磁誘導が生み出した、運動エネルギーが加算される。
木の実が生み出した熱エネルギーと、電磁誘導が生み出した運動エネルギーの集合体。
完全に動きを封じられたパライバに、そのエネルギー集合体を避ける術は既に無かった。
戦場だった道路が、一瞬にして静寂に包まれた。
サジタリウスの一撃で地に落とされ、フリッカーの念動力で歩みを阻まれ、アッシマーの繰り出した岩石によって拘束されたパライバは、完全に無防備な姿を変わらず晒し続けていた。
自然の力着弾した胸部には、びっしりと霜が張り付いている。
最後まで動かし続けていた首でさえ、すでにだらりと垂れ下がり、ほんの少しも動かない。
青ざめた顔の上では、焦点の定まっていない瞳孔が、明後日の方向を向いていた。
あげはの放った一撃が、遂にパライバを完全に沈黙させたのだ。
「やった……」
喜びは沸いてこなかった。
フリッカーの中にあったのは、これだけの強敵を倒せたという現実を、受け入れる事が出来ない自分。
非力な人間として生きてきた自分が、世界の在り方を描き変えようとしていた存在を、討ち倒せた。
ただ、その事実に対する驚愕と不信が、彼の心の中を支配していた。
「さて……まだぼーっとなんてしてられないよ、皆!」
フリッカーの隣に居た、アッシマーが声を張り上げる。
「パライバを倒して終わりじゃないぞ。逃げて本部に戻ろうとしている連中だってまだいるかもしれない。
僕らの役目は、まだ終わって無いですよ!」
そう言ってアッシマーは、動かないパライバを尻目に駆け出す。
そうだ。
まだ戦いは終わっていない。
マルク達が本部を叩くまでは、この戦いは終わらないのだ。
だから自分達も、今出来る事を続けなければ。
先に進んだアッシマーの後に続いて、フリッカーもまた、力強く駆け出した。
キェェェェェェアァァァァァァカケタァァァァァァァ!!!
最近絵ばっかり描いてたせいで文章が全然書けなくなったり、大震災で被害も無かったくせに精神やられたりで遅れに遅れましたが、遂に完成です!
まだ暫定なので、突っ込みどころ等ありましたらなんなりと。
2011/03/27 Sun 23:17 [No.210]
フィッターR
人間だった頃、フリッカーは『竜の舞』を愛用していた。
素早さと攻撃を上げ、その火力と速度を活かし、相手を畳みかける技。使い手であるが故に、その欠点も彼は熟知していた。
上がった攻撃を無力化してしまえば、竜の舞使いは無駄に素早い低火力ポケモンに変わってしまう。それを一番手っ取り早く、且つ有効に行う事の出来る状態異常、火傷は、まさにこの状況にうってつけの技。
これで、僕達の勝ちだ。彼はそう思っていた。
「甘いな、刃ポケモン!!」
渾身の力を込めた刃がパライバに届く寸前。
今まで彼が受けたどんな衝撃よりも強い衝撃が、フリッカーの体に襲いかかった。
ふわり。
宙を舞う身体。
そして、再び強い衝撃。
背骨がきしむ。
い、今のは一体。
上体を起こして、再びパライバを見つめる。
「火傷を浴びせて攻撃力を下げる。成程、セオリー通りの素晴らしい判断だ。だが……」
嘘だろ。
フリッカーは目を見開く。
「世間には、セオリーの通じないイレギュラーも存在する事を忘れていたようだな」
パライバの体から、火傷は一つ残らず消えていた。
一部の選ばれしボーマンダのみが会得する事の出来る技――あらゆる状態異常を完治させる技『リフレッシュ』。
その存在を、フリッカーは完全に失念していたのだ。
「それを知らずに挑んだ己の愚かさを、あの世で後悔しろ!!」
パライバが舞い上がる。
月を背に浮かび上がる黒い陰は、全てを飲み込む闇のようで。
フリッカーは絶望した。嵌めたつもりが、逆に嵌められていたなんて。
これでもう一度羽休めでも使われようものなら、相手の状態は完全に振り出しに戻される。既に1人を失い、まともに戦えるのは自分と弟、そして―――否、地面に叩き付けられ、この後すぐにパライバの爪の餌食にされるであろう自分を除けば、もはや戦えるのはアッシマーとサジタリウスの2人だけになってしまう。
4人がかりでも倒せなかった相手を、たった2人で倒せるだろうか。否。そんな事が出来るはずがない。
―――だけど。
この戦いは、元々勝つ必要など無い戦いなのだ。囮としての役目は充分に果たせただろう。これでマルク達が本丸を落としてくれれば、作戦は大成功だ。
僕は、人間の世界を救った英雄として死ねるんだ。歴史の教科書に載ったり、後世に名前が語り継がれる事は多分無いだろうけど、世界を救った事実は変わらないんだから、それで充分だよね。
随分とあっさり出来た覚悟を胸に、フリッカーは振り下ろされるパライバの爪を、ただぼんやりと見つめていた。
「でえああああああああああああああああッ!!」
凄まじい声量の怒号が響く。それと共に、フリッカーの眼前に大きな陰が立ち塞がった。
フリッカーに重なるように倒れ込む陰。そして自分の頭のすぐ脇に突き刺さる爪。その爪が引き抜かれたその時、折り重なっていた陰が言った。
「ったく……相変わらず諦めが良すぎるんだよ……最後の足掻きくらいしろってんだよ。あんたの命掛かってんだぞ?」
自分の性格を熟知しているかのような言葉。こんな言葉を言えるヤツは、このチームの中でもただ1人しかいない。
「……アッシマーなのか?」
「他に誰がいるってんだ?」
彼以外に誰もいない訳でも無いくせに、そういう事をさらりと言ってしまうあたり、やっぱりツーカーな仲なんだな、と思って笑ってしまう。
戦いに赴く前は、あんなに険悪な顔を自分に向けていたのに。当たり前か。一番身近な場所にいる、家族なんだから。
「ボヤッとしてないで立てよ、また来るぞ!」
先に立ち上がったアッシマーが差し出した右手を握って、フリッカーも立ち上がる。右腕に付いている葉に、深い切り傷が出来ているのが見えた。
「……ふん、何度立ち上がろうと同じ事!」
再び舞い上がったパライバが吠える。
そうだ。立ち上がった所までは良い。だが、パライバという障害はまだ消えていない。
状態異常、体力共に回復可能な相手に、一体どう立ち向かえば良いのか。
考えあぐねる。だが猶予は無い。どうすればいい?
その時。
「―――フリッカーさん!」
背後から響く女性の声。
まさか。
振り返る。
そこにいたのは、こちらを見据える、棒っ切れを大顎にくわえたクチート。そして。
彼と同じように、決意に満ちた眼差しをこちらに向ける、パチリスの姿だった。
「あげはさん!?」
フリッカーの心に、驚きと共に希望が沸き上がった。
彼女が戦えるのならば。
勝機は、こちらにある!
「あげはさんッ!!」
声の限りに叫ぶ。
「あれを使うんだ!!」
あげはは頷いた。
大地の力を宿す木の実、リュガの実。
フリッカーが渡したそれを手にして、あげはは両腕を前に突き出す。
突き出した小さな腕が、電気を帯びる。
いいぞ、そのまま。
「やらせん!!」
パライバの声。
振り返るフリッカー。
急降下するパライバが視界に入った。
狙いは自分では無い。
あげはだ。
速い。
あげはが木の実レールガンを撃つ前に、懐に潜り込むつもりか。
あげはさんをやらせる訳にはいかない。牽制の攻撃をパライバに叩きこもうとした、その時。
目の前に巨大な影が躍り出る。
いや、巨大な影、ではない。
小さな影が巨大な鉄塊を携え、フリッカーの前に躍り出たのだ。
「これ以上、やらせるかよおッ!!」
小さな影は、パライバ目掛けて鉄塊を振り下ろした。
至近距離。最早パライバに、振り下ろされる巨大な鉄塊を避ける術は無い。
大きな音がした。
鉄塊がパライバに当たった音か。パライバが地に叩きつけられた音か。それはフリッカーには分からなかった。
只、一つ言える事。
それは、目の前でパライバが地に伏しているという状況が、現実の物であるという事だった。
「へへ……上手くいった……ウェポン・アタック!」
フリッカーの右手から、得意げな声がする。
サジタリウスさん?
フリッカーは、声のした方を見る。
そこには、巨大な鉄塊を大顎に携え、微笑むクチートの姿があった。
2011/03/27 Sun 23:15 [No.209]
kaku
先日、ドリームメイカーズ専用チャットへのアクセスを禁じられる運びとなりました、veinこと架空であります。
その件につきまして、管理者であるラプラス殿とお話させていただきたく、伝言をお願いした次第でございます。
つきましては、明日12日水曜の夜、若しくは14日金曜の夜あたりの、貴殿の都合の良い方において、お話をさせていただきたく思います。
お話をさせて頂く場に関しては、そちらで決めていただくと有り難く思います。一対一で話す方がよろしければskypeのIDを取得いたしますし、他の方の目に触れてもよろしければ、DreamMakersチャットが完成する以前によく使っておられました、フリッカー殿のサイトのチャットを使わせていただくのも宜しいかと思います。
本来であれば、もう少しばかり時間を置くべきところとは存じます。その上に、私の都合で日時まで指定させていただくことを大変申し訳なく思いますが、どうか私に機会をいただければと思います。
誠に勝手ではありますが、どうぞよろしくお願いします。
2011/03/24 Thu 22:59 [No.205]
氷河期の賢者
どなんエピローグポケモン世界編がとりあえず書き終わりましたので投下します。まだ推敲してませんのでご了承を。
気がついたのは全てが終わってからずいぶん後だったらしい。おそらく二日ほどの間、僕は死んだように寝ていたそうだ。ただ、そろそろ元の世界に戻らなきゃいけない時が来て、椎名さんが起こしてくれたそうだ。『めざましビンタ』で。それならもっと早く起こしてくれてもいいのにな、と思い少し憂鬱になったが、朱鷺さんに負けてから外の空気というものを吸っていないので、まだヒリヒリする頬にそっと手を添えながら、起き上がり歩き出した。
外に出ると、数人の戦士がいた。フィッターさん、フリッカーさんの兄弟の姿を見つけた。僕はフィッターさんに『リーフストーム』を教えてもらっている。礼くらい言わなければ。
「フィッターさん、あの、ありがとうございました!その、技を教えていただいて」
「いやいや。結果役に立ったのならそれでいいと思うし、嬉しいよ。どなんさんはどうするのかい?ここに残るの?」
「いえ、僕は帰ります。帰って、なすべきことがあるんです。この世界は楽しいし、これからの復興も見たい。しかも、自分を強く持てる。でも、僕は帰らなきゃ。帰って、僕自身の人生をもう一度歩みなおすんです」
「そうか、頑張って!行き来は自由になるはずだから、またいつでも戻ってられる!」
「はい!ありがとうございます!」
僕はフリッカー兄弟に別れを告げ、この世界での最後の目的地へと向かう。GTSだ。わが師、レッドバーンさんの死没地であり、最後に僕が弔うべき場所。行かなければ。行って報告しなければ。心を揺さぶるものを僕は到底理解できなかった。まだ僕の心は成長していない。その証なのかもしれない。
大都市であるコガネシティ。しかし僕がこの世界に来る前、ここでもものすごく大きな戦いがあったらしい。その爪痕は未だに残っている。大きなビルは悲痛な倒れ方で崩れ、ごちゃごちゃになって眠るように崩壊していた。
「酷いなあ……確かここでPQRさんが死んだ、いや元の世界に戻ったんだっけか。僕は戦いを知らないんだよな」
ついつい呟くが、恥ずかしさも何もない。人間は元の世界に帰っただけだが、ポケモンは違う。ここで幾匹が亡くなったか、僕は想像するだけで恐ろしかった。僕は持ってきていた花を少し出し、ジムの前に手向けた。今僕たちができること。それは故人を弔うことではないか。
僕はGTSにたどり着いた。その殺風景な雰囲気は依然と変わらず、僕がアッシマーさんと練習した時の壁の損傷もそのまま残っていた。まだ修繕が追いついていないのか、そこにいて不安になってしまうような場所だった。僕はよくこんなところで寝ていたな、と思い過去の自分を称賛する。
そしてレッドバーンさんの墓にたどり着く。墓石に刻まれた文字、『情熱の戦士ここに眠る』に染み込んだ汚れを僕は水できれいにして、呼吸を整え、手を合わせる。そして感謝の意を伝える。否、今までさんざん伝えてきたが。同じことを言うわけにもいかず、今日は感謝よりも決意を伝える。
「レッドバーンさん。僕は人間です。ポケモンではないんです。だから僕は戻らなければならない。そして、行き来自由でも僕は多分戻らない。現実から逃げたくないんです。
僕は確かにひきこもりで、今まで逃げてきた。でも、この世界で出会った皆さんは逃げなかった。そして、僕もこの世界では逃げなかった。僕はこの世界では強い――
けど、僕はジュプトルじゃない。何があっても結局人間なんです。また逃げたら、この世界で学んだことを全て捨てることになる。レッドバーンさんの命も。
世界は違うかもしれない。けれどレッドバーンさんには応援してほしいんです。大丈夫。僕強いですから」
僕はそれっきり、言葉を発せなかった。
――泣いてしまった。
瞳から零れる雫をぬぐうこともなく、僕は泣きやむことはなかった。そして、泣きながらその場を去る。何か分からない、こみあげてくるこの気持ち。結局僕は割りきれていなかったのかもしれないけれど、いつかこのことを冷静に見ることができる日が来る、そんな気がしたんです。
2011/03/08 Tue 23:19 [No.169]