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[ 編集 ][ 返信 ]囮チーム最終章・修正版

フィッターR

人間だった頃、フリッカーは『竜の舞』を愛用していた。
 素早さと攻撃を上げ、その火力と速度を活かし、相手を畳みかける技。使い手であるが故に、その欠点も彼は熟知していた。
 上がった攻撃を無力化してしまえば、竜の舞使いは無駄に素早い低火力ポケモンに変わってしまう。それを一番手っ取り早く、且つ有効に行う事の出来る状態異常、火傷は、まさにこの状況にうってつけの技。
 これで、僕達の勝ちだ。彼はそう思っていた。

「甘いな、刃ポケモン!!」

 渾身の力を込めた刃がパライバに届く寸前。
 今まで彼が受けたどんな衝撃よりも強い衝撃が、フリッカーの体に襲いかかった。
 ふわり。
 宙を舞う身体。
 そして、再び強い衝撃。
 背骨がきしむ。
 い、今のは一体。
 上体を起こして、再びパライバを見つめる。
「火傷を浴びせて攻撃力を下げる。成程、セオリー通りの素晴らしい判断だ。だが……」
 嘘だろ。
 フリッカーは目を見開く。
「世間には、セオリーの通じないイレギュラーも存在する事を忘れていたようだな」
 パライバの体から、火傷は一つ残らず消えていた。
 一部の選ばれしボーマンダのみが会得する事の出来る技――あらゆる状態異常を完治させる技『リフレッシュ』。
 その存在を、フリッカーは完全に失念していたのだ。

「それを知らずに挑んだ己の愚かさを、あの世で後悔しろ!!」
 パライバが舞い上がる。
 月を背に浮かび上がる黒い陰は、全てを飲み込む闇のようで。
 フリッカーは絶望した。嵌めたつもりが、逆に嵌められていたなんて。
 これでもう一度羽休めでも使われようものなら、相手の状態は完全に振り出しに戻される。既に1人を失い、まともに戦えるのは自分と弟、そして―――否、地面に叩き付けられ、この後すぐにパライバの爪の餌食にされるであろう自分を除けば、もはや戦えるのはアッシマーとサジタリウスの2人だけになってしまう。
 4人がかりでも倒せなかった相手を、たった2人で倒せるだろうか。否。そんな事が出来るはずがない。
 ―――だけど。
 この戦いは、元々勝つ必要など無い戦いなのだ。囮としての役目は充分に果たせただろう。これでマルク達が本丸を落としてくれれば、作戦は大成功だ。
 僕は、人間の世界を救った英雄として死ねるんだ。歴史の教科書に載ったり、後世に名前が語り継がれる事は多分無いだろうけど、世界を救った事実は変わらないんだから、それで充分だよね。
 随分とあっさり出来た覚悟を胸に、フリッカーは振り下ろされるパライバの爪を、ただぼんやりと見つめていた。

「でえああああああああああああああああッ!!」
 凄まじい声量の怒号が響く。それと共に、フリッカーの眼前に大きな陰が立ち塞がった。
 フリッカーに重なるように倒れ込む陰。そして自分の頭のすぐ脇に突き刺さる爪。その爪が引き抜かれたその時、折り重なっていた陰が言った。
「ったく……相変わらず諦めが良すぎるんだよ……最後の足掻きくらいしろってんだよ。あんたの命掛かってんだぞ?」
 自分の性格を熟知しているかのような言葉。こんな言葉を言えるヤツは、このチームの中でもただ1人しかいない。
「……アッシマーなのか?」
「他に誰がいるってんだ?」
 彼以外に誰もいない訳でも無いくせに、そういう事をさらりと言ってしまうあたり、やっぱりツーカーな仲なんだな、と思って笑ってしまう。
 戦いに赴く前は、あんなに険悪な顔を自分に向けていたのに。当たり前か。一番身近な場所にいる、家族なんだから。

「おのれ!!」
 再びパライバの声。
 上体を起こす。そこには、身構えるパライバに真っ向から向かっていく、弟の姿が。
「やああああああああああああッ!!」
 ばちり、と言う音と共に、パライバとアッシマーの姿が、一瞬照らし出された。
 パライバ目掛け、がむしゃらに連続でジャブを浴びせるアッシマー。その拳が振るわれる度に、パライバとアッシマーの間に、形容で無く本物の火花が散る。
 あれは、雷パンチか。
 ドラゴンタイプのせいで効果抜群にこそならないが、確実にダメージは通る。現にアッシマーは、フリッカーからじりじりとパライバを遠ざけている。
「でやあああああああああああッ!!」
 パライバが一瞬、隙を見せる。
 その隙を見逃さずに、アッシマーはパライバの顔に蹴りを放つ。
 技らしい技とは言えない、只の蹴り。だがそれでも、パライバを怯ませるには十分だった。

「ボヤッとしてないで立てよ、また来るぞ!」
 振り向き、叫ぶアッシマー。
 言われた通りに立ち上がる。右腕に付いている葉に、深い切り傷が出来ているのが見えた。
「……くっ、何度立ち上がろうと同じ事!」
 再び舞い上がったパライバが吠える。
 そうだ。立ち上がった所までは良い。だが、パライバという障害はまだ消えていない。
 状態異常、体力共に回復可能な相手に、一体どう立ち向かえば良いのか。
 考えあぐねる。だが猶予は無い。どうすればいい?
 その時。

「―――フリッカーさん!」
 背後から響く女性の声。
 まさか。
 振り返る。
 そこにいたのは、こちらを見据える、棒っ切れを大顎にくわえたクチート。そして。
 彼と同じように、決意に満ちた眼差しをこちらに向ける、パチリスの姿だった。

「あげはさん!?」
 フリッカーの心に、驚きと共に希望が沸き上がった。
 彼女が戦えるのならば。
 勝機は、こちらにある!

「あげはさんッ!!」
 声の限りに叫ぶ。
「あれを使うんだ!!」

 あげはは頷いた。
 大地の力を宿す木の実、リュガの実。
 フリッカーが渡したそれを手にして、あげはは両腕を前に突き出す。
 突き出した小さな腕が、電気を帯びる。
 いいぞ、そのまま。

「やらせん!!」

 パライバの声。
 振り返るフリッカー。
 急降下するパライバが視界に入った。
 狙いは自分では無い。
 あげはだ。
 速い。
 あげはが木の実レールガンを撃つ前に、懐に潜り込むつもりか。
 あげはさんをやらせる訳にはいかない。牽制の攻撃をパライバに叩きこもうとした、その時。

2011/04/04 Mon 21:49 [No.221]


残り1件

  1. [221] 人間だった頃、フリッカーは『竜の舞』を愛用していた。
     素早さと攻撃を上げ、その火力と速度を活かし、相手を畳みかける技。使い手であるが故に、その欠点も彼は熟知していた。
     上がった攻撃を無力化してしまえば、竜の舞使いは無駄に素早い低火力ポケモンに変わってしまう。それを一番手っ取り早く、且つ有効に行う事の出来る状態異常、火傷は、まさにこの状況にうってつけの技。
     これで  ・・・・ >> 続き
    囮チーム最終章・修正版
    フィッターR 2011/04/04 21:49
    1. [222] 目の前に巨大な影が躍り出る。
       いや、巨大な影、ではない。
       小さな影が巨大な鉄塊を携え、フリッカーの前に躍り出たのだ。
      「これ以上、やらせるかよおッ!!」
       小さな影は、パライバ目掛けて鉄塊を振り下ろした。
       至近距離。最早パライバに、振り下ろされる巨大な鉄塊を避ける術は無い。

       大きな音がした。
       鉄塊がパライバ  ・・・・ >> 続き
      Re: 囮チーム最終章・修正版
      フィッターR 2011/04/04 21:50