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  1. [209] 人間だった頃、フリッカーは『竜の舞』を愛用していた。
     素早さと攻撃を上げ、その火力と速度を活かし、相手を畳みかける技。使い手であるが故に、その欠点も彼は熟知していた。
     上がった攻撃を無力化してしまえば、竜の舞使いは無駄に素早い低火力ポケモンに変わってしまう。それを一番手っ取り早く、且つ有効に行う事の出来る状態異常、火傷は、まさにこの状況にうってつけの技。
     これで  ・・・・ >> 続き
    囮チーム 最終章
    フィッターR 2011/03/27 23:15
    1. [210] 「き……貴様……!」
       いつの間にそんな技を、とふと考えた瞬間、フリッカーは現実に引き戻される。
       パライバの声。あいつ、まだ動けるってのか。
      「人間ごときが……小賢しい真似を……ッ!」
       振り返る。
       そこには、大地を踏みしめ、再び立ち上がろうとするパライバの姿。
       そうだ。奴は回復技を持っている。
       あの鉄塊で奴が受けたダメ  ・・・・ >> 続き
      Re: 囮チーム 最終章
      フィッターR 2011/03/27 23:17

[ 編集 ][ 返信 ]囮チーム 最終章

フィッターR

人間だった頃、フリッカーは『竜の舞』を愛用していた。
 素早さと攻撃を上げ、その火力と速度を活かし、相手を畳みかける技。使い手であるが故に、その欠点も彼は熟知していた。
 上がった攻撃を無力化してしまえば、竜の舞使いは無駄に素早い低火力ポケモンに変わってしまう。それを一番手っ取り早く、且つ有効に行う事の出来る状態異常、火傷は、まさにこの状況にうってつけの技。
 これで、僕達の勝ちだ。彼はそう思っていた。

「甘いな、刃ポケモン!!」

 渾身の力を込めた刃がパライバに届く寸前。
 今まで彼が受けたどんな衝撃よりも強い衝撃が、フリッカーの体に襲いかかった。
 ふわり。
 宙を舞う身体。
 そして、再び強い衝撃。
 背骨がきしむ。
 い、今のは一体。
 上体を起こして、再びパライバを見つめる。
「火傷を浴びせて攻撃力を下げる。成程、セオリー通りの素晴らしい判断だ。だが……」
 嘘だろ。
 フリッカーは目を見開く。
「世間には、セオリーの通じないイレギュラーも存在する事を忘れていたようだな」
 パライバの体から、火傷は一つ残らず消えていた。
 一部の選ばれしボーマンダのみが会得する事の出来る技――あらゆる状態異常を完治させる技『リフレッシュ』。
 その存在を、フリッカーは完全に失念していたのだ。

「それを知らずに挑んだ己の愚かさを、あの世で後悔しろ!!」
 パライバが舞い上がる。
 月を背に浮かび上がる黒い陰は、全てを飲み込む闇のようで。
 フリッカーは絶望した。嵌めたつもりが、逆に嵌められていたなんて。
 これでもう一度羽休めでも使われようものなら、相手の状態は完全に振り出しに戻される。既に1人を失い、まともに戦えるのは自分と弟、そして―――否、地面に叩き付けられ、この後すぐにパライバの爪の餌食にされるであろう自分を除けば、もはや戦えるのはアッシマーとサジタリウスの2人だけになってしまう。
 4人がかりでも倒せなかった相手を、たった2人で倒せるだろうか。否。そんな事が出来るはずがない。
 ―――だけど。
 この戦いは、元々勝つ必要など無い戦いなのだ。囮としての役目は充分に果たせただろう。これでマルク達が本丸を落としてくれれば、作戦は大成功だ。
 僕は、人間の世界を救った英雄として死ねるんだ。歴史の教科書に載ったり、後世に名前が語り継がれる事は多分無いだろうけど、世界を救った事実は変わらないんだから、それで充分だよね。
 随分とあっさり出来た覚悟を胸に、フリッカーは振り下ろされるパライバの爪を、ただぼんやりと見つめていた。

「でえああああああああああああああああッ!!」
 凄まじい声量の怒号が響く。それと共に、フリッカーの眼前に大きな陰が立ち塞がった。
 フリッカーに重なるように倒れ込む陰。そして自分の頭のすぐ脇に突き刺さる爪。その爪が引き抜かれたその時、折り重なっていた陰が言った。
「ったく……相変わらず諦めが良すぎるんだよ……最後の足掻きくらいしろってんだよ。あんたの命掛かってんだぞ?」
 自分の性格を熟知しているかのような言葉。こんな言葉を言えるヤツは、このチームの中でもただ1人しかいない。
「……アッシマーなのか?」
「他に誰がいるってんだ?」
 彼以外に誰もいない訳でも無いくせに、そういう事をさらりと言ってしまうあたり、やっぱりツーカーな仲なんだな、と思って笑ってしまう。
 戦いに赴く前は、あんなに険悪な顔を自分に向けていたのに。当たり前か。一番身近な場所にいる、家族なんだから。
「ボヤッとしてないで立てよ、また来るぞ!」
 先に立ち上がったアッシマーが差し出した右手を握って、フリッカーも立ち上がる。右腕に付いている葉に、深い切り傷が出来ているのが見えた。
「……ふん、何度立ち上がろうと同じ事!」
 再び舞い上がったパライバが吠える。
 そうだ。立ち上がった所までは良い。だが、パライバという障害はまだ消えていない。
 状態異常、体力共に回復可能な相手に、一体どう立ち向かえば良いのか。
 考えあぐねる。だが猶予は無い。どうすればいい?
 その時。

「―――フリッカーさん!」
 背後から響く女性の声。
 まさか。
 振り返る。
 そこにいたのは、こちらを見据える、棒っ切れを大顎にくわえたクチート。そして。
 彼と同じように、決意に満ちた眼差しをこちらに向ける、パチリスの姿だった。

「あげはさん!?」
 フリッカーの心に、驚きと共に希望が沸き上がった。
 彼女が戦えるのならば。
 勝機は、こちらにある!

「あげはさんッ!!」
 声の限りに叫ぶ。
「あれを使うんだ!!」

 あげはは頷いた。
 大地の力を宿す木の実、リュガの実。
 フリッカーが渡したそれを手にして、あげはは両腕を前に突き出す。
 突き出した小さな腕が、電気を帯びる。
 いいぞ、そのまま。

「やらせん!!」

 パライバの声。
 振り返るフリッカー。
 急降下するパライバが視界に入った。
 狙いは自分では無い。
 あげはだ。
 速い。
 あげはが木の実レールガンを撃つ前に、懐に潜り込むつもりか。
 あげはさんをやらせる訳にはいかない。牽制の攻撃をパライバに叩きこもうとした、その時。

 目の前に巨大な影が躍り出る。
 いや、巨大な影、ではない。
 小さな影が巨大な鉄塊を携え、フリッカーの前に躍り出たのだ。
「これ以上、やらせるかよおッ!!」
 小さな影は、パライバ目掛けて鉄塊を振り下ろした。
 至近距離。最早パライバに、振り下ろされる巨大な鉄塊を避ける術は無い。

 大きな音がした。
 鉄塊がパライバに当たった音か。パライバが地に叩きつけられた音か。それはフリッカーには分からなかった。
 只、一つ言える事。
 それは、目の前でパライバが地に伏しているという状況が、現実の物であるという事だった。

「へへ……上手くいった……ウェポン・アタック!」
 フリッカーの右手から、得意げな声がする。
 サジタリウスさん?
 フリッカーは、声のした方を見る。
 そこには、巨大な鉄塊を大顎に携え、微笑むクチートの姿があった。

2011/03/27 Sun 23:15 [No.209]

[ 編集 ][ 返信 ]Re: 囮チーム 最終章

フィッターR

「き……貴様……!」
 いつの間にそんな技を、とふと考えた瞬間、フリッカーは現実に引き戻される。
 パライバの声。あいつ、まだ動けるってのか。
「人間ごときが……小賢しい真似を……ッ!」
 振り返る。
 そこには、大地を踏みしめ、再び立ち上がろうとするパライバの姿。
 そうだ。奴は回復技を持っている。
 あの鉄塊で奴が受けたダメージは、如何見繕ってもかなりの物だ。
 しかし、その『かなりの物』でさえ、奴を沈黙させるには僅かに力が及ばなかった。完全に沈黙させない限り、奴は羽休めを使い、いくらでも傷を癒す事が出来る。
 傷を舐めてじわじわと体力を削ぐ事も出来ない。火傷させたり麻痺させたりする絡め手も使えない。
 やはり、奴を倒す方法はただ1つしかない。
 一撃で行動不能に出来る程のダメージを与え、一撃の下に沈黙させる他には……

 フリッカーは振り返る。
「あげはさんッ!!」
 そして叫ぶ。
 突っ込んでくるパライバに臆してしまったのか、あげはは構えを解いてしまっていた。
「早くッ!!」
 今、パライバを一撃で倒せる技を有しているのはあげはのみ。
 年齢的には大人の男が、年端もいかない女の子に頼らなければならないと言うのも、情けない話だ。
 しかし、今はそんな事を考えている場合では無い。
 玉砕しても使命は果たせる。とは言え、やっぱり自分が死ぬのは嫌だ。それに、仲間が死ぬのも。
 だから……!
「あげはさんを……やらせるかッ!!」

 念の力を、最大限に引き出す。
 乾坤一擲のサイコキネシスを、フリッカーはパライバに浴びせた。
「ぐっ……!」
 念動力の壁に阻まれ、歩みを止めるパライバ。
 パライバの脚に、翼に、身体に、込められる限りの力を込める。
 しかし、やはりボーマンダを抑え込むには特攻が足りないのか。精一杯の力を込めても、パライバはじりじりと歩みを進めている。
 諦めの悪い奴め。心の中で悪態を吐く。
 しかし、それを実際に口にする余裕は無い。力尽くで無理矢理押さえつけても、パライバは抵抗をやめない。それどころか、抑えきれずに振りほどかれてしまいそうだ。
 動くな、動くなったら!

 みしり。
 何かがきしむ音。
 それと共に、パライバの力が途端に弱まった。

「あげはさんに気ィ取られてたのか? だからって俺の事忘れんな、兄貴!」
 アッシマーの声。
 あいつ、何をしたんだ?
 もう一度、パライバを見据える。
「貴様……ッ!!」
 歯ぎしりをするパライバ。
 躍起になって首を振りまわすパライバ。
 しかし、彼の体は全く前進しない。
 自分のサイコキネシスとは、別の何かに拘束されている……?
 フリッカーは、パライバの足下に目をやった。
 パライバの脚に、地面から突き出た鋭利な岩がいくつも刺さっている。
 岩はパライバの脚をしっかりと咥えこんで離さない。まるで、彼を捕えるために地中から姿を現したかのように。
「岩石封じ……か?」
「ご明答」
 フリッカーの呟きに、アッシマーは誇らしげに答えた。

 完全に動きを封じられたパライバ。
 これで、あげはの射撃を邪魔する者は何人たりと存在しない。
「さあ、あげはさん!」
 アッシマーが叫ぶ。
「あげはさん!」
 続けて、サジタリウスも。
 フリッカーももう一度、振り返った。
「今だ! あげはさん!!」
 絞れる力を全て搾り取って、フリッカーは声を張り上げた。

 再び、あげはが両腕を突き出す。
 帯電した腕の間で、リュガの実が輝きだす。
 木の実が宿す力が、エネルギーへと変換されていく。
 光り輝き始めるリュガの実。そしてリュガの実は、木の実の形を失い、1発の光弾へと姿を変える。

「いけええええええええええええええええええええええッ!!」
 3人の声に答えるかのように、あげはは叫んだ。
 撃ち出される自然の力。それに、あげはが作りだした電流の渦がもたらす電磁誘導が生み出した、運動エネルギーが加算される。
 木の実が生み出した熱エネルギーと、電磁誘導が生み出した運動エネルギーの集合体。
 完全に動きを封じられたパライバに、そのエネルギー集合体を避ける術は既に無かった。

 戦場だった道路が、一瞬にして静寂に包まれた。
 サジタリウスの一撃で地に落とされ、フリッカーの念動力で歩みを阻まれ、アッシマーの繰り出した岩石によって拘束されたパライバは、完全に無防備な姿を変わらず晒し続けていた。
 自然の力着弾した胸部には、びっしりと霜が張り付いている。
 最後まで動かし続けていた首でさえ、すでにだらりと垂れ下がり、ほんの少しも動かない。
 青ざめた顔の上では、焦点の定まっていない瞳孔が、明後日の方向を向いていた。
 あげはの放った一撃が、遂にパライバを完全に沈黙させたのだ。

「やった……」
 喜びは沸いてこなかった。
 フリッカーの中にあったのは、これだけの強敵を倒せたという現実を、受け入れる事が出来ない自分。
 非力な人間として生きてきた自分が、世界の在り方を描き変えようとしていた存在を、討ち倒せた。
 ただ、その事実に対する驚愕と不信が、彼の心の中を支配していた。

「さて……まだぼーっとなんてしてられないよ、皆!」
 フリッカーの隣に居た、アッシマーが声を張り上げる。
「パライバを倒して終わりじゃないぞ。逃げて本部に戻ろうとしている連中だってまだいるかもしれない。
 僕らの役目は、まだ終わって無いですよ!」
 そう言ってアッシマーは、動かないパライバを尻目に駆け出す。
 そうだ。
 まだ戦いは終わっていない。
 マルク達が本部を叩くまでは、この戦いは終わらないのだ。
 だから自分達も、今出来る事を続けなければ。
 先に進んだアッシマーの後に続いて、フリッカーもまた、力強く駆け出した。

キェェェェェェアァァァァァァカケタァァァァァァァ!!!
最近絵ばっかり描いてたせいで文章が全然書けなくなったり、大震災で被害も無かったくせに精神やられたりで遅れに遅れましたが、遂に完成です!
まだ暫定なので、突っ込みどころ等ありましたらなんなりと。

2011/03/27 Sun 23:17 [No.210]