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Re: 囮チーム 最終章

フィッターR

「き……貴様……!」
 いつの間にそんな技を、とふと考えた瞬間、フリッカーは現実に引き戻される。
 パライバの声。あいつ、まだ動けるってのか。
「人間ごときが……小賢しい真似を……ッ!」
 振り返る。
 そこには、大地を踏みしめ、再び立ち上がろうとするパライバの姿。
 そうだ。奴は回復技を持っている。
 あの鉄塊で奴が受けたダメージは、如何見繕ってもかなりの物だ。
 しかし、その『かなりの物』でさえ、奴を沈黙させるには僅かに力が及ばなかった。完全に沈黙させない限り、奴は羽休めを使い、いくらでも傷を癒す事が出来る。
 傷を舐めてじわじわと体力を削ぐ事も出来ない。火傷させたり麻痺させたりする絡め手も使えない。
 やはり、奴を倒す方法はただ1つしかない。
 一撃で行動不能に出来る程のダメージを与え、一撃の下に沈黙させる他には……

 フリッカーは振り返る。
「あげはさんッ!!」
 そして叫ぶ。
 突っ込んでくるパライバに臆してしまったのか、あげはは構えを解いてしまっていた。
「早くッ!!」
 今、パライバを一撃で倒せる技を有しているのはあげはのみ。
 年齢的には大人の男が、年端もいかない女の子に頼らなければならないと言うのも、情けない話だ。
 しかし、今はそんな事を考えている場合では無い。
 玉砕しても使命は果たせる。とは言え、やっぱり自分が死ぬのは嫌だ。それに、仲間が死ぬのも。
 だから……!
「あげはさんを……やらせるかッ!!」

 念の力を、最大限に引き出す。
 乾坤一擲のサイコキネシスを、フリッカーはパライバに浴びせた。
「ぐっ……!」
 念動力の壁に阻まれ、歩みを止めるパライバ。
 パライバの脚に、翼に、身体に、込められる限りの力を込める。
 しかし、やはりボーマンダを抑え込むには特攻が足りないのか。精一杯の力を込めても、パライバはじりじりと歩みを進めている。
 諦めの悪い奴め。心の中で悪態を吐く。
 しかし、それを実際に口にする余裕は無い。力尽くで無理矢理押さえつけても、パライバは抵抗をやめない。それどころか、抑えきれずに振りほどかれてしまいそうだ。
 動くな、動くなったら!

 みしり。
 何かがきしむ音。
 それと共に、パライバの力が途端に弱まった。

「あげはさんに気ィ取られてたのか? だからって俺の事忘れんな、兄貴!」
 アッシマーの声。
 あいつ、何をしたんだ?
 もう一度、パライバを見据える。
「貴様……ッ!!」
 歯ぎしりをするパライバ。
 躍起になって首を振りまわすパライバ。
 しかし、彼の体は全く前進しない。
 自分のサイコキネシスとは、別の何かに拘束されている……?
 フリッカーは、パライバの足下に目をやった。
 パライバの脚に、地面から突き出た鋭利な岩がいくつも刺さっている。
 岩はパライバの脚をしっかりと咥えこんで離さない。まるで、彼を捕えるために地中から姿を現したかのように。
「岩石封じ……か?」
「ご明答」
 フリッカーの呟きに、アッシマーは誇らしげに答えた。

 完全に動きを封じられたパライバ。
 これで、あげはの射撃を邪魔する者は何人たりと存在しない。
「さあ、あげはさん!」
 アッシマーが叫ぶ。
「あげはさん!」
 続けて、サジタリウスも。
 フリッカーももう一度、振り返った。
「今だ! あげはさん!!」
 絞れる力を全て搾り取って、フリッカーは声を張り上げた。

 再び、あげはが両腕を突き出す。
 帯電した腕の間で、リュガの実が輝きだす。
 木の実が宿す力が、エネルギーへと変換されていく。
 光り輝き始めるリュガの実。そしてリュガの実は、木の実の形を失い、1発の光弾へと姿を変える。

「いけええええええええええええええええええええええッ!!」
 3人の声に答えるかのように、あげはは叫んだ。
 撃ち出される自然の力。それに、あげはが作りだした電流の渦がもたらす電磁誘導が生み出した、運動エネルギーが加算される。
 木の実が生み出した熱エネルギーと、電磁誘導が生み出した運動エネルギーの集合体。
 完全に動きを封じられたパライバに、そのエネルギー集合体を避ける術は既に無かった。

 戦場だった道路が、一瞬にして静寂に包まれた。
 サジタリウスの一撃で地に落とされ、フリッカーの念動力で歩みを阻まれ、アッシマーの繰り出した岩石によって拘束されたパライバは、完全に無防備な姿を変わらず晒し続けていた。
 自然の力着弾した胸部には、びっしりと霜が張り付いている。
 最後まで動かし続けていた首でさえ、すでにだらりと垂れ下がり、ほんの少しも動かない。
 青ざめた顔の上では、焦点の定まっていない瞳孔が、明後日の方向を向いていた。
 あげはの放った一撃が、遂にパライバを完全に沈黙させたのだ。

「やった……」
 喜びは沸いてこなかった。
 フリッカーの中にあったのは、これだけの強敵を倒せたという現実を、受け入れる事が出来ない自分。
 非力な人間として生きてきた自分が、世界の在り方を描き変えようとしていた存在を、討ち倒せた。
 ただ、その事実に対する驚愕と不信が、彼の心の中を支配していた。

「さて……まだぼーっとなんてしてられないよ、皆!」
 フリッカーの隣に居た、アッシマーが声を張り上げる。
「パライバを倒して終わりじゃないぞ。逃げて本部に戻ろうとしている連中だってまだいるかもしれない。
 僕らの役目は、まだ終わって無いですよ!」
 そう言ってアッシマーは、動かないパライバを尻目に駆け出す。
 そうだ。
 まだ戦いは終わっていない。
 マルク達が本部を叩くまでは、この戦いは終わらないのだ。
 だから自分達も、今出来る事を続けなければ。
 先に進んだアッシマーの後に続いて、フリッカーもまた、力強く駆け出した。

キェェェェェェアァァァァァァカケタァァァァァァァ!!!
最近絵ばっかり描いてたせいで文章が全然書けなくなったり、大震災で被害も無かったくせに精神やられたりで遅れに遅れましたが、遂に完成です!
まだ暫定なので、突っ込みどころ等ありましたらなんなりと。

2011/03/27 Sun 23:17 [No.210]