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[ 編集 ][ 返信 ]探偵事務所へようこそ その3

Sgt.LUKE

それは、『幽霊』と呼ぶにはあまりに歪(いびつ)だった。
 奇妙な目、機械のように光沢のある体。人間というより『亜人』といった感じだ。
 探偵・ジキルはそんなおかしな『幽霊』に少しずつ近づいていく。
「おい、お前よぉ」
 と、ジキルはだるそうな声で、
「ここで何してんだ?」
「…………………………」
 返事は無い。ジキルは『幽霊』が何か喋るのを促すように
「なぁ、黙ってないで何か言ってくれよ」
「…………………………」
 それでも返事はない。ジキルはこのほとんど沈黙の空間に疲れたように一度溜息をつき、

「――――いい加減喋れ。この野郎」

 瞬間、乾いた炸裂音とともにジキルから何か高速の物体が飛び出し、幽霊の体を貫く。沈黙を徹していた幽霊はたまらずグッ、という呻(うめ)き声をあげた。
「おやおやぁ」ジキルは口の端を少し歪め、「ようやく喋る気になったか、幽霊さん?」
「くっ……」
 幽霊が初めて自ら声を出す。
「貴様、何をした……?」
「…………」
「答えろッ!」
 探偵はそんな幽霊の様子を眺め、歌うように
「弾丸」
 ……。幽霊は訝(いぶか)しげに眉を顰(ひそ)める。と、ジキルは幽霊の心情を察したのか、幽霊に自分の手を見せ、
「弾丸だよ」
 手には拳銃が握られていた。拳銃は黒塗りの鉄のように黒く、光沢があり、銀で獣を象(かたど)った装飾が施されてある。六発装填のリボルバー型(タイプ)だ。
 なかなかクールなその外見は鑑賞用にもってこいだが、奇妙なことに何故か銃口と弾倉が三つもある。
「正確には『銃弾』」ジキルは拳銃を指しながら、「この銃、三つも銃口があるだろ? 見ておわかりの通り一回引き金(トリガー)を引くだけで三発同時に発射されるんだ」
 探偵はくるくると手の中の拳銃を回しながら、
「俺はコイツを『666(ザ・ナンバー・オブ・ザ・ビースト)』と呼んでいる」

(何なんだよ……コイツぁ……)
 スピードワゴンは目の前の光景に思わず身震いした。ぞくぞく、と背筋に氷の塊を詰められたような感覚。今、スピードワゴンは恐怖しているッ。
 自分には見えない幽霊が恐ろしい訳ではない。
 自分には見えないはずの幽霊と平然とやりとりしている、あの探偵が恐ろしいのだ。
 そしてすでにその探偵は幽霊に対して銃弾を浴びせている。何か――
(――何か、特殊なモノなのかなぁ?)
 幽霊は見えないが、ジキルのあの奇妙な拳銃を見ることはできた。だが――
 だが、それだけだ。
 自分では『見ること』は可能でも、この状況で何もできない。スピードワゴンは己の直感でそう気づいていた。
 クソッ! と奥歯を噛み締める。
 何か役に立ちたい。
 何か手助けをしたい。
 けれども、何もできない。
「スピードワゴンッ!」
 不意に声が砲弾の如く飛んできた。それは探偵の声。
(何だッ!?)
 探偵がこちらを凝視している。まるで何か合図しているかのように。何か伝えたいかのように。
「……………………ッ!」
 スピードワゴンはハッ、として、思わず駆け出す。足の向く方向は食屍鬼街(オウガー・ストリート)のさらに奥。ジキルたちがいる場所のさらに奥。凍りつくように冷たい道を全力疾走する。
「…………ッ!」
 幽霊は自分の横を通り抜けようとするスピードワゴンを排除しようと、目の前の探偵に構わず、スピードワゴンに接近する。だが、単に見えないだけなのかスピードワゴンは何も気にしていない様子。
「ククククク」
 幽霊はそんなスピードワゴンを憐(あわ)れむように笑い、手を振りかざして、
「闘いにおいて『よそ見』って行為はッ――――」
 その手を振り下ろす。
「『死』を意味するんだぜェェェェェェェッ!!」
 グシャァッ! という音とともに、スピードワゴンは血を噴き出し、地面に転がる。

 ――――転がる、はずだった。
「なッ……………」
 幽霊は思わず絶句する。何故なら、
 血を噴き出しているのは振り下ろした自分の手だったからだ。
「なんだとォォォォォォォォッ!」
 絶叫。そのトマトをぶちまけたように紅(あか)い手は正三角形を思わせる三つの穴が空き、硝煙がプスプス、と出ている。
「知らないのか?」
 幽霊の前方の探偵は歌うように、「闘いにおいて『よそ見』って行為は『死』を意味するんだぜ」
 ジキルは再び手の中の銃をくるくると回し、そして幽霊の頭部のあたりへ銃口を向けると、刃物のような声で

「次は当てるぞ」

2010/02/10 Wed 19:45 [No.66]


残り1件

  1. [34] この小説は本家「ジョジョの奇妙な冒険」、および荒木飛呂彦先生とはいっさい関係のない二次創作です。
    故に、本家「ジョジョの奇妙な冒険」とはかけ離れた部分もあるかもしれませんがご了承ください。
    なお、ここは小説専用とさせていただきますので、書き込みはご遠慮ください。
    ジョジョの奇妙な冒険 PartX ブリザードオブアイス 第一話 探偵事務所へようこそ
    Sgt.LUKE 2009/10/29 15:42
    1. [50] 探偵とは実にうさんくさい職業である。
      もし、あなたが見知らぬ人から「私は探偵ですが……」と怪しげに話しかけられたらどう思うだろうか? 大抵の人は不審がるとおもう。テレビのドラマなんかで見るとかっこいいが、実際のところ「どんな人間」が「どんなところ」で「どんなこと」をしているのかさえわからない。ましてや著名な探偵など聞いたことがない。酷い話、警察からのけもの扱いされる。しかし、探偵がとても  ・・・・ >> 続き
      探偵事務所へようこそ その1
      Sgt.LUKE 2009/12/04 02:24
      1. [60] 食屍鬼街(オウガー・ストリート)
        それはロンドンで最も恐れられる場所。肌を切るような風、鼻をつんざく血の匂い――そして、常に立ちこめる悪気。一般人がここへ足を踏み入れるとまず無事でいられないというのは身体的に危険というのがもちろんであるが、この空間に精神をやられ、まいってしまうというのもあるだろう。まぁ「この二人」にはそんなこと一切ないが……

        「よし!」
          ・・・・ >> 続き
        探偵事務所へようこそ その2
        Sgt.LUKE 2009/12/23 04:04
        1. [66] それは、『幽霊』と呼ぶにはあまりに歪(いびつ)だった。
           奇妙な目、機械のように光沢のある体。人間というより『亜人』といった感じだ。
           探偵・ジキルはそんなおかしな『幽霊』に少しずつ近づいていく。
          「おい、お前よぉ」
           と、ジキルはだるそうな声で、
          「ここで何してんだ?」
          「…………………………」
           返事は無い。ジキルは『幽霊』  ・・・・ >> 続き
          探偵事務所へようこそ その3
          Sgt.LUKE 2010/02/10 19:45
          1. [67] 「くっ……貴様ァッ!」
             探偵を睨みつけながらドブのように濁った声で幽霊は吼える。
             その顔は苦痛に歪んでいた。
            「許さんッ! ぜぇぇぇぇぇぇぇったいに許さんッ!」
            「別にいいよ。許されなくたって」
            「許さん許さん許さんッ!」
            「………………………………」
             ハァ、とジキルは幽霊の様子に心底呆れたように溜息をつき「そろそろいいか  ・・・・ >> 続き
            探偵事務所へようこそ その4
            Sgt.LUKE 2010/02/12 21:28