ゆな
だけど、スイレンはその答えを口にしようとしなかった。
「……かない。……いくもんか……」
恐怖でがくがく震える体に鞭を打ち、弱々しくも声を出す。それは生まれたての赤子のように頼りないものであるが、それでもゆなの耳には聞こえていた。
スイレンは感覚と知識で目の前の炎の化身に「負ける」と理解している。でも、だからって命惜しさに何もせずに従えるほど己の心は安くないし、弱くもない。
――それにこんな『脅迫』を仕掛けてくる女がいる時点で、ドリームメイカーズを放っておくわけにはいかないと強く思えた。
だからこそスイレンはゆなの誘いを、キッパリと断った。
「アナタたちが、何者かはわからないけど……少なくとも、アナタのような人にはついて行かない! 絶対に!!」
己を頑張って奮い立たせ、相性的にも立場的にも圧倒的に不利な状況の中、小さなシキジカは断言する。目の前に存在する夢の創り手が差し伸べた手を、果敢にも振りほどいた。
その答えを聞き、怨念を表す禍々しい炎を持った亡霊は軽くため息をつくと、すぐさま好戦的な笑みを浮かべた。
「OK、交渉不成立か。……そんじゃ心置きなく殺すといたしますかっ!!」
直後、ゆなの五つの炎が勢いを増して巨大化し、大きな火炎球となって五つ一斉にスイレン目掛けて襲い掛かる。
スイレンは慌てて回避しようとしたがいきなり飛んできた五つの炎を狭い裏路地で避けられるわけもなく、全てまともに食らってしまう。その勢いのままに彼女の体は裏路地から表通りへと弾き飛ばされ、強く大地に叩きつけられる。
五つの炎はスイレンに直撃した事により、弾け飛んで左右の建物に燃え移る。当然ミュージカルにもその炎は宿り、どんどんと燃え盛っていく。
「あ、やばっ。……まぁ、いっか。請求書はどうせボスのとこだろうし」
己の出した五つの『はじけるほのお』によって起きた事に、ゆなは大して危機感を覚えずどうでもいいと言わんばかりにぼやく。
そのまま己も裏路地から外に出る。その際、空に存在する太陽が余計に眩しく輝く。『にほんばれ』だ。
地面に叩きつけられ、効果抜群の技を食らったスイレンはどうにか立ち上がっていると、ゆながこっちに向かって来ているのに気づいて急いでその場から離れていく。
だがゆなはそれを無理して追おうとせず、表通りに出ると燃え盛る建物をバックに酷く興奮した状態で高笑いする。
「ハハ! 逃げろ逃げろ無様に逃げろ、仲間に助けを求めてみろ! 全部燃やして殺して灰にして、地獄に変えてやるさ!! 反逆したいなら存分にしてきな! 誰が相手だろうと、原型の無い塵にしてあげるからよぉ!! あーっはっはっはっはっは!!」
さんさんと照る太陽の下、高笑いする怨霊の禍々しい姿は惨劇の化身そのもの。彼女のモノクルについたドリームメイカーズのシンボルがチリンと揺れる。
――スイレンは知らない、気づいていない。
己が逃げ切る事は出来ない事に、気づいていない。
シャンデラの夢特性が「かげふみ」である事を、知らない。
故に彼女達を、ライモンシティを舞台とした亡霊による炎の惨劇が、襲い掛かる。
■ □ ■
ドリームメイカーズ幹部ゆな、ライモンシティ降臨! 同時にライモンシティ全体でのイベント戦開幕です。
ちょいとした会議により、このライモンシティでの戦闘は味方の分担及びにゆなの実力を示す為に強制敗北イベントに近い代物となっております。なのであっさりと倒さないでくださいませ。もしそういう展開になった場合、問答無用で燃やしにかかります。
現時点ではシャンデラゆなの実力は来たばかりの元人間である皆様の実力を軽く上回っており、質より量で攻めても倒せる可能性は非常に低いです。
なのでライモンシティから逃げ出す事が重要となります。ゆなはある程度のタイミングで撤退させます。その為、如何にゆなの猛攻から生存・回避できるかが重要となってきます。
尚、このイベントで元人間の死亡者が出る可能性はあります。
2011/09/15 Thu 18:23 [No.688]