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どうしてこうならなかった

ゆな

――この世界は、どう表現するべきなのだろうか。一体何が変わっているというのだろうか。
 学校から様々な生徒が自宅に向かって帰る時間、その中で仲が良さげな五人の女子生徒が門を通っていく。

「お前等、遅ぇーぞ! 早くしねぇとお菓子売り切れちまうぞ!」

 一番手は赤色の少女。短いスカートだというのも気にせず、ワクワクした表情で急かしている。確か彼女は学校でも昼食もお菓子も沢山食べた筈なのに、まだ食べるというのか。食い意地が張っている。

「ちょっと杏子、落ち着けってば! お菓子は逃げないわよ!」

 二番手は青色の少女。荒っぽい言い方で赤い女の子に言うけれど、その顔は何処か楽しそう。どうやらこの会話も慣れっこのようで、笑っている。青色の少女は後ろを振り返りながら、残りの三人に向かって早く行こうと急かしている。

「杏子ちゃん、さやかちゃん、待ってよー!」

 三番手は桃色の少女。とたとたと女の子っぽい走り方で追いかけるけど、とろい。前の二人が運動系だから仕方ない、彼女はそれほど走れる子ではないもん。だけど置いてかれないよう、危なっかしくも走る。

「まどか、走ると転ぶわ。……あ」

 四番手は黒色の少女。前に走る桃色の子の足がもつれそうなのを見て、声をかけようとするが時既に遅し。彼女はすってんころりと転んでしまった。黒色の少女は慌てて桃色の少女に駆け寄り、大丈夫かと必死に声をかける。二番手が慌てて戻り、一番手がそれに続いて彼女に近づく。

「みんな、慌てすぎよ。鹿目さん、怪我は無い?」

 五番手は黄色の少女。慌てる三人とこけた一人をあらあらまぁまぁと微笑みながらも宥め、桃色の少女に声をかける。彼女に怪我が無いのを確かめると、四人を纏めてお菓子屋に行こうと仕切りなおした。彼女は寂しがりだけど頼れるお姉さん、だからこんな時は彼女がリーダーになるのだ。

「もー、まどかったらびっくりさせないでよ」
「そーそー。びっくりしちゃったじゃねぇか」
「……原因は誰にあると思ってるのかしら」
「うっ! すいませんしたー!」
「そんなに怒るなよ、ほむら」
「ほむらちゃん、あたしは気にしてないからそんなに怒らないで?」
「……元々怒ってないわ。ただ反省してないようだったから、ちょっとね」
「もうっ、ほむらちゃんったら」
「ふふ、それにしても明美さん……すっかりかっこよくなっちゃったわね」
「いや、かっこよくなりすぎだってば」
「眼鏡と三つ網が何をどうすれば、こんなクールになるんだ?」
「文句ある?」
「「そーゆーわけじゃない!」」
「二人とも息ピッタリね。初めて会った時が嘘みたい」
「ホントですね。あー、仁美ちゃんも来ればよかったのに」
「確か習い事?」
「はい。でも次は仁美ちゃんも一緒に誘います。さやかちゃん、良いかな?」
「もっちろん! 恋と友情は別問題だからね!」
「それでこそ、あたしのさやかだ! でもさ、のんびりしてると恭介とられちまうぞ?」
「わ、わかってるってば!」
「……それより早く行かないの?」

 五人は歩きながらも、楽しく好き勝手に会話する。赤と青が楽しげに、黒が冷静にツッコミを入れて、桃が黒を抑えて、黄はそんな四人を眺めて。そんな感じの下校模様。これが五人の日常。
 それはどこにでもありそうな学校風景の一部。壊れることが無いような日常そのもの。

 そんな光景を電柱の上から眺めるのは、白い生き物。

「学園だとそういう形になるのがまどかの望みなんだね」

 白い生き物、キュゥべえは自分が見えないだろう五人を見下ろしながら呟く。寂しいわけじゃない、悲しいわけじゃない、ただただそれを出来事として眺めてた。
 彼はここに来るまでに五人の様子を見てきた。そして最後にここにやってきた。理由は契約じゃない、一つの答えを知りたかったからなのだ。
 そして今、キュゥべぇはこの“結界”の答えを知る。

「魔法少女と魔女と僕がいない。ただ、まどかの知る限りの日常が平和的な形で延々とリピートする世界。それがこの結界というわけなんだね」

 ここは現実であって、現実ではない。現実と呼ばれてた世界は何処にも無い。
 ならばここは何処なのか? 答えは一つ、救済の魔女が生み出した楽園の結界である。

 ■

「巴マミはまどか達だけではない友達もいる。定期的にくる親戚もいる。彼女の“孤独”は魔法少女だった時よりも、ずっと解消されているね」

 とってもベテランで、まどかとさやかを魔法少女の世界に招待するのに一役買った黄色の魔法少女。
 孤独を恐れ、精神的な脆さを持っていた彼女を支えるのはまどか達だけじゃない。彼女達じゃない、孤独の身となった彼女に手を差し伸べてくれる優しい親戚もいる。
 交通事故で「助けて」と願った巴マミは家族と永遠の別れを告げてしまったけれど、それでも色んな人に囲まれて幸せに過ごしてる。

「美樹さやかは杏子の後押しもあって、志筑仁美と上条恭介を巡る恋のライバルとして認識。それを受け入れた上での友人関係を行っている。まどかが危惧していた佐倉杏子、明美ほむらとの対立も目立ったものではない」

 誰かの幸せを願いながらも、心の奥底では自らの幸せを望み続けてた人魚姫のような青色の魔法少女。
 大切な人と結ばれたい、だけど友人も彼を思ってる。中々出ない後一歩の勇気、それを後押ししたのはちょっと態度は悪いけど誰よりも他人思いの赤い親友。
 恋心から「上条恭介の腕を治して」と願った美樹さやかは恋敵の出現に心が揺らぐけれど、新しい友達に支えられて己の恋にひたむきになる。

「佐倉杏子が一番不思議な形になってるや。あの彼女は魔法少女時代の杏子の面が強い、僕の知ってる彼女とは違う。……まどかがその一面しか知らないのなら、それも当然かな」

 最初は利己主義で敵だと思ってた、だけど本当は誰よりも魔法少女の心を持っていた赤色の魔法少女。
 とてもやんちゃで食いしん坊、天邪鬼のように見える聖女。家が教会の彼女は大切なものを良く知っていて、だから暴走しやすいさやかを放っておけなくて背中を押した。
 辛さから「皆が父を話を聞いてくれるようになってほしい」と願った佐倉杏子は家族が壊れかけたけど、彼女の優しさを誰よりも知ってる新しい友達が代わりに思いをぶつけて救ってみせた。

「そして明美ほむら。まどか、君が彼女に会ったのは確か僕よりも前だった筈だ。そして僕の知る限り、彼女は眼鏡をかけていなかった。なのにどうして君は、巴マミ以上に明美ほむらの事を良く知っているんだい?」

 クールでミステリアスで謎に満ちていた、本当は何度も時を繰り返して友達を救おうとした黒色の魔法少女。
 最初は体が弱くて引っ込み思案、自分に自信がもてなかった。だけど転校して巡り合えた親友のおかげで、眼鏡をやめて、三つ網もほどいて、かっこよくなりました。
 悲しみから「まどかを守れる私になりたい」と願った明美ほむらは迷路を彷徨いかけたけれど、親友が大慌てで駆けつけて彼女を自分の方へと引っ張り込んだ。

 そう、本来ならば絶望に陥る筈なのに、彼女達は希望に満ち溢れてた。幸せに満ち溢れてた。日常と言う幸運をめいいっぱい楽しんでいた。
 現実の悪夢は、この楽園ではなかった事になっていた。

「わけが分からないや。一部の人間が変わっている以外、世界そのものは全然変わっていないじゃないか」

 けれども元凶のキュゥべえはその違いが分からない。希望と絶望の有無、日常の有無、幸せの有無、これがどんなに人の心を大きく救っているのか、理解できない。
 ただ分かるのは、まどかの理想郷とキュゥべぇの知ってる現実はほとんど大差が無いという事。

 ■

『惑星『Magia』は救済の魔女『Kriemhild・Gretchen』によって宇宙暦XXXX年XX月XX日に壊滅。
 これによって人類が生息する惑星としての機能は消滅し、実質『Magia』は『Kriemhild・Gretchen』のみが生息する危険惑星となった。
 ただし過度な攻撃を外部から行う・『Magia』の大地に降り立つ・一定種族が絡む、などといった特定の条件を満たさない限りは近づいても害は無い。
 一定種族に当てはまるのは『インキュベーター』及びその外見が近い種族。原因は『魔法少女システム』が関係していると推測される。
 既にエネルギーノルマは達成できているので『インキュベーター』が『Magia』に近づきさえしなければ、宇宙はこれからもずっと平和でいられるだろう。
 一惑星の犠牲により、全宇宙は救われた。惑星『Magia』に住まう人類よ、魔法少女になってくれて感謝する』

 ぺらりと落ちた紙。それに書かれているのは、一つの報告書に見える手紙。
 高い高い展望台の中、キュゥべえはこれを銜えると目の前にいる魔法少女に向かって話しかける。

「高確率でこの手紙が原因だね。でも彼は事実を述べた上で感謝の言葉を綴っただけなのに、どうしてまどかに殺されたのかな。聞いてもいいかな、鹿目まどかを模した使い魔。いや、Kriemhild・Gretchenの分身・鹿目まどか」

 まどかと呼ばれた桃色の魔法少女の形をした使い魔は、使い魔とは思えない人間の表情を見せながら反論する。

「皆殺しになった結果を喜ばれて嬉しいって、誰も思わないよ。それにあなたのせいでこうなったんじゃない」
「そうだね。でも僕にはもうどうすることもできないし、僕を何度殺しても無駄な行為でしかない」
「知ってるよ。だけど、私達『魔法少女』は『敵』を倒すためにいるの。だから『敵』であるキュゥべぇを何度でも殺す。そうしないと、苦しむ子がまた出てきちゃうからさ」
「随分と酷い言い草だね、この星の現状は僕よりも君の方が知ってる癖に」

 使い魔の論理に、キュゥべえは悪いとも思わずにただ事実を述べる。
 だけど使い魔は何も言わない。使い魔は弓矢を構えて、何時でも射れる体勢に入るばかり。敵=キュゥべえにしっかり狙いを定めて。
 それを見つめたキュゥべえは何処か納得したように頷いた。

「そういう事か。まどか、君は君の知る五人が仲の良い魔法少女である上で平和である事が望みだったんだね。それで契約してもよかったのに」
「契約しても、結果は同じでしょ? さやかちゃんの時がそうだったじゃない」
「そして明美ほむらが繰り返している時の流れも記憶している。それはどこで知ったんだい?」
「それは内緒」
「そう。ところでまどか、君は僕を殺さないのかい? 君の力なら、僕を滅ぼす事ぐらい余裕だろ?」
「うん、余裕だね。でもあなたがいたから、私達は出会えたの。それに……『敵』がいなくなったら『魔法少女』じゃないでしょ?」

 そう言った使い魔の言葉は酷く矛盾していた。だけどその目はとても無機質にキュゥべえを見つめていた。
 何時殺されてもおかしくない状況下、キュゥべえは無表情のままに思ったことを口にする。

「やっぱり君はまどかであって、まどかじゃないね」

 次の瞬間、キュゥべえは顔面を射抜かれた。

 ■
突発的に書いた魔法少女まどか☆マギカ。書けている部分はここまで。
本当は皆が望んだ全員揃ってのハッピーエンドもしくはアナザーワールドを書こうと思ったのに、何故かこうなった。

2011/04/19 Tue 00:04 [No.250]