No.181へ返信

記事投稿フォーム
題名
名前
補助
本文
他の入力項目
編集キー
  
送信

猫旅堂のエピローグ(後編)

ゆな

いきなりの展開に暫くの間、モウカザルとマヨは固まっていた。が、次の瞬間揃って驚愕の雄叫びを上げた。

「う、うえ、うえええええええええええええ!?」
「はああああああああああ!? ちょ、おま、マジかああああ!?」
「大マジだ。あぁ、そうだ。マルク探しをするついでに、二つ条件を出していいか?」
「え、え、え!?」
「行商『猫旅堂』に加われ。俺の傍に居続けろ。これが、条件だ」

 顔を赤くして困惑するモウカザルを他所に、レオードはすっかりペースを取り戻したのか立ち上がって彼女と目線を合わせると、プロポーズともとれる条件を告白してみせた。
 さすがに告白された直後でその条件の真意を察する事なんて簡単で、だからこそ余計にモウカザルは顔を赤くしてぶつぶつと呟くしか鳴った。

「……初対面なのに、何でここまで言われなきゃあかんの……」
「モウカザル、答えは?」
「へ!? えと、えと、えーと……!!」

 レオードがすっかり何時もの調子で急かす中、モウカザルはあたふたと慌てて言葉を選ぶしかなかった。もちろん顔を真っ赤にしながらだ。
 一気に形勢逆転したなー、と最早蚊帳の外のマヨが半分現実逃避する形でぼやいているが、生憎どっちの耳にも届かなかった。
 落ち着いた態度のレオードと傍観者に徹する事にしたマヨを見比べ、モウカザルは耐え切れなくなったのか真っ赤な顔のままレオードを指差し、どもりながらも勢い任せで言ってきた。

「う、うちの名前はゆな! あんたの名前は!? 隣に居続けなあかんなら、種族名で呼べんやろ!?」
「あぁ、そうだったな。すまない、俺の名前はレオード」
「わいはマヨって名前や。よろしゅう、マドンナちゃん!」
「マドンナ?」
「この金馬鹿を惚れさせた女の子やからな。それぐらい魅力あるのは天使かマドンナぐらいやろ?」
「えぇ!? ちょ、そこまで言う!? あ、あの、あのねぇ!?」
「それにあのレオードが惚れたって事は嫁決まりっちゅーこっちゃ! ってわわわわ、火炎技出そうとせんといてぇ!?」
「うっせええええ!! う、うちはそこまで言うほど魅力は無いっちゅーねん! これ以上パニックにすんなーっ!!」

 今にも全身から火が出てきそうなほど真っ赤になったモウカザルことゆなは半ば八つ当たり気味に、マヨに向かって怒鳴りつける。マヨはあたふた慌てながら、レオードの背後に隠れた。
 あまりに分かりやすい隠れ方にレオードがマヨを軽く睨みつけたものの、ゆなが攻撃できずに止まったので細かく言うのは後回しにしてやった。
 現状にあうあう言って困惑する彼女に顔を向け、レオードは軽く微笑んで彼女の頬に手を伸ばして撫でながら言う。

「名前を教え合ったんだ。これで一緒に来るだろ、ゆな」

 ゆっくりと流れるように、だけどしっかり聞き取れるように口に出されたその言葉はゆなの耳にしっかりと残った。
 会ったばかりだというのに自分だけを見つめ、心を落ち着かせながらも逃す気の無い男の姿は口説き文句だけで顔を赤くさせる少女を捕まえるには、十分すぎた。
 自分の中では落とされたと自覚しながらも、それを認めるのが癪でゆなはテンプレ的ツンデレ台詞を吐きながら告白を受け入れた。

「……勘違いしないでほしいけど、うちはマルク達を探したいから一緒に行くだけ! あ、あんたに口説かれたわけじゃないから!」
「あんたじゃなくて、レオードな。それと一緒に来る事を断言した以上、誰にも譲る気は無い。俺は気に入ったモノは手放さない主義なんでな」
「へ!? あ、会ったばかりなのに何で!?」
「俺が惚れた女を、俺に惚れさせて一生傍に居させる為だ。そのぐらい察せられると思ったんだがな」
「ば……馬鹿っ!! う、うちは恋愛初めてやから、そんなん無理に決まってんじゃん!!」
「なら好都合だ。一から最期まで、キッチリ教え込んでやる」

 慣れない口説き文句に顔を赤くして反論する娘と、そんな様子を可愛らしいと思ってるのかからかいながらも受け入れる男。
 ちょこっと前ではありえないと思っていた光景がここに生まれた。人間の世界とポケモンの世界が安定した状態で繋がる事ができたからこそ、生まれた小さく大きな出会いが。
 これだけ聞けば、微笑ましいワンシーンである。だがそれをマジマジと見せ付けられたマヨは半目のまま、低いテンションで呟いた。

「桜満開の春が来るのは構わんが、色々と忘れんといてくれよ?」

 主にわいの存在とか、な。
 少女漫画のようなラブコメから軽く目を反らしながら、ため息をつくマヨ。多分聞こえていない+あえて聞き流しているだろうが、今後の猫旅堂の為にも言っておくべきだとは思ったのだった。

2011/03/10 Thu 00:03 [No.181]