フリッカー
『3(スリー)、2(ツー)、1(ワン)、戦闘開始(ファイツ・オン)!!』
ヒートの合図で、私達は同時に散開した。
私は右へ、アクアとヒートは左へ。
ある程度距離を取ってから、反転して互いに向かい合うように操縦する。
正面に2人の機体が見えた。
まずい。高度が自分より上だ。高い位置にいるという事は、それだけ有利な位置にいるという事。ただ、こっちが探知しやすくなるというメリットはある。
2人の機体が、真上を通り過ぎた。これでいよいよ戦闘開始だ。
すぐさま左旋回。体がGでシートに押し付けられる感覚。
そんな状態の中で、私は2人の機影を探す。
いた。真上だ。
幸い、後ろにはいなかったけど、だからと言って油断はできない。
それを証明するかのように、ロックオン警報音が鳴り響く。
『エリアル1、ミサイル発射(フォックス・ツー)!!』
アクアの声が響く。
ヘッドマウントディスプレイとそれに対応するミサイルのおかげで、正面180度以内の視界に入っていれば、敵を見るだけでロックオンする事ができる。後ろにつかなければ撃てないなんて常識は、少なくともミサイルにはもう通用しない。
そんな事は私もわかってる。だからこそ、私は反射的に右旋回しながらフレアを発射した。
機体の下からばらまかれる赤い火の玉。このおかげで、模擬発射されたミサイルをかわす事ができた。
「ふん、アクアの早とちり」
私は得意げに言ってやった。
『何やってるのバカアクア!!』
『くそ、もう1回だ!』
向こうのコックピットではそんなやり取りが交わされていた。
振り向くと、2人の機体が完全に私の後ろについている。向こうの攻撃はまだ終わっていない。
向こうの動きは気になるけど、いつまでも後ろを向いて飛んでいたらわき見運転になって危ないから、私は前を向かざる得ない。こうやっててもちゃんと後ろを見てくれる人がいる複座型が、一瞬だけうらやましくなった。
でも慌てちゃいけない。フレアを連続で撒きながら、私は反撃のチャンスを待つ。
アクアはさっきフレアでかわされた事にびびっているのか、なかなか撃ってこない。
『何やってるの!! もっと近づいてガンを撃つの!!』
『言われなくてもわかってるって!! 黙ってないと舌噛むぞ!!』
そうしている間にも、2人は相変わらずのやり取り。
焦っているのは見え見えだけど、こっちにもそれを聞いて楽しむほど余裕はない。
フレアの弾数は当然限られている。切れてしまっても状況が変わらなかったら、私はもう撃たれるしかなくなる。
落ち着いて振り向き、2人の機体の動きを確認する。距離は、さっきよりも縮まっている。
私はわざと、機体を水平にした。
『動きが鈍った!!』
当然、その隙にアクアが食らいついてくる。
その一瞬の油断を信じて、私はスロットルを押し込んで、操縦桿を思い切り引いた。
私の機体は一気に急上昇。そして機首を青空の真ん中で輝く太陽に向けた。
『うっ……!?』
『いけない!!』
2人の声で確かな手応えを感じた。太陽に向けて飛んだ事でうまく2人の目をくらませた。
そのまま私は宙返り。真上に地上が見えてくる。さらに引き起こすと、私を見失って立ち往生状態になっている2人の機体が見えた。
その隙、逃さない!
「ミサイル発射(フォックス・ツー)!!」
そのままロックオンして、ミサイルを発射。
でも、2人の機体もすぐにフレアを撒いた。そして少し遅れてから右旋回。さすがヒート、気付くのが早い。
でも、私はすぐに2人の後ろについた。今度は私が追いかけ回す番だ。これでもう私のターンだ。
『どこ!? どこにいる!?』
『後ろ後ろ!! 早くかわして!!』
ヒートの言葉でようやく位置に気付いたのか、2人の機体が急旋回。それに、私もしっかりついていく。
その間に、私は機関砲に切り替える。
正面にあるヘッドアップディスプレイに映るのは、漏斗型の照準器ファンネル。風になびく旗のように伸びているファンネルの両端に合わせるように、私は狙いを定める。
『何やってるの!! 減速してバカアクア!!』
『こんな時に無茶言うな!!』
こんな時にもそんな事を……
それでも私は容赦なくトリガーを引いた。
バルカン砲の模擬発射。弾数は見る見るうちに減っていく。これが現実なら、2人の機体がハチの巣になっていくのが見えただろう。
2011/11/17 Thu 22:59 [No.725]