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『大集合! 愉快なヒコーキ野郎ども!』テスト用短編『前は大水、後ろは大火事』

フリッカー

※この小説は、新作のテスト用に書いたものです。

 どこまでも広がる、青い空と白い雲。
 体のほとんどがキャノピーに覆われるこのコックピットからの眺めは最高。まるで、私の体そのものが空に浮かんでいる感覚が気持ちいい。
 もっとも、最初のころはコックピットから落ちそうな気がして、怖かったけど。

 私の名前は、フリーダ・ベルツ。
 ボルドニア空軍第1飛行隊に所属する、ファイターパイロットです。
 ファイターパイロットのコードネームとも言える愛称、TAC(タック)ネームは『ストーン』。この呼び名は『かなめ石(キーストーン)』にちなんで付けられたもの。
 どうして私が、かなめ石なのかと言うと――

『おーいヒート、生きてますかー?』
 すぐ左隣を飛ぶリーダー機の声が無線で入る。
 その戦闘機は複座型――つまり2人乗りで、タンデム式コックピットの前の席に座るパイロットが、後ろの席に振り向いて呼びかけている。
『くー、くー……』
 後ろの席に座る、小柄すぎるパイロット――ヒートは、がっくりと顔をうつむけたまま動かない。酸素マスクとヘルメットのバイザーで顔が隠れて見えないけれど、聞こえてくる規則正しい息の音から、居眠りしている事がすぐにわかった。
『……はあ、やっぱり寝てたのか。道理で静かだと思ったよ』
「ヒートがおとなしくしてる時はいつも寝てる時か本読んでる時かのどっちかでしょ、アクア」
 呆れてため息をつく前の席のパイロット――アクアに私はそう言ってやる。
 さて、問題はこれからどうやってヒートを起こすか。
 手を伸ばして肩を軽く叩く――なんて事はできない。そんな事したらアクアがわき見運転する事になるし、そもそも計器盤に阻まれて手が届かない。
 となると、方法は間接的なものに限られてくるわけで――
『仕方ない。ちょっと荒っぽくなるけど――』
 こほん、と軽く咳払いをしてから、大きく息を吸うアクア。
 何をするか予想がついた私は、すぐにスピーカーのボリュームを下げた。

『ヒートッ!! こら起きろっ!!』

 アクアの怒鳴り声は、それこそ耳元に大きく響いたに違いない。
『ひゃあっ!?』
 それに驚いたヒートは、甲高い悲鳴を上げてがばっ、と顔を起こした。マスクとバイザーがなければ、さぞかし面白い顔が見られたに違いない。
『い、いきなり何するの!! びっくりしたじゃない!!』
 子供のものとしか思えない高い声を上げながら、ヒートはバイザーを上げてアクアに反論する。かーっ、っていう擬態語が聞こえてきそうなほどに。
 露になったその大きな瞳は、比喩ではなく、本当に子供のものだった。
『……っ、居眠りしてたから起こしただけだよ。リーダーさんが大事な時に居眠りしてたら大問題だぞ?』
『だからって、さっきみたいな起こし方はないじゃない!! 安眠妨害はんたーい!!』
『じゃあどうしろって言うんだ!! そもそも堂々と安眠なんて問題発言じゃないか!!』
『安眠に問題も何も関係ない!!』
 あーあ、また始まった。2人の口喧嘩。
 これが、リーダー機の日常的な光景だ。
 前の席に座るのは、操縦担当のベンノ・ホフシュナイダー、TACネーム『アクア』。実力はまだ発展途上中のヒヨッコだけどがんばり屋さん。
 後ろの席に座るのが、ナビゲート担当のエーファ・コリント、TACネーム『ヒート』。一応私達のリーダーという事になっているんだけれど、問題があるのは見ての通り。
 この2人は、何かある度にこうやって口喧嘩してばっかりだ。陸でも空でも関係なく。
「やれやれ……」
 このままだと果てしなく続くかもしれない口喧嘩を止めるべく、私は行動を開始した。
 もちろん、別の機体のコックピットにいる以上、直接的に止めるなんて不可能だ。だから止める方法は自然と間接的なものになる。
 左側のスロットルレバーを引いて、減速。私の機体はゆっくりとリーダー機から離れていく。
 その間に、マスターアームスイッチを入れて、ヘルメットのバイザーを下ろす。
 視界に重なって映る円の中に、リーダー機を入れる形で顔を向ける。
 途端に、高いトーン音が鳴る。
 同時に、リーダー機のコックピットでロックオン警報音が鳴り響く。
『あ!?』
『え!?』
 それで、2人はようやく静かになった。この時だけ声を揃える辺り、2人は仲がいいのか悪いのかよくわからない。
「はいはい、2人共そこまで! そのままだと気が付いたら燃料切れになって何もせずに帰還するハメになって上官さんに燃料を無駄使いするなー、ってこっぴどく怒られる事になっちゃうでしょ!」
 ロックオンを解除してバイザーを上げながら、私は言う。

2011/11/17 Thu 22:54 [No.723]