ジャグラー
「正義の反対は何か、分かりますか?」
メガネを付けたルカリオが、目の前のマニューラに問いかける。
「正義の反対・・・悪、でしょうか?」
マニューラがルカリオの問いに答える。
マニューラの答えを聞いたルカリオは、机の上に置いてある紅茶を飲み、再びティーカップを机に置く。
「違いますよ、アイシス。正義の反対はまた正義。悪なんて存在しないのですよ」
ルカリオの言葉に、アイシスというマニューラは首を傾げる。
「しかし・・・それはおかしいのではありませんか?正義と悪があってこそ、世界は成り立ってるのに・・・」
「それはいつの間にかこの世の中に埋め込まれてしまっている、間違った事実です。本当の悪なんて物は存在しません。悪と呼ばれる物だって、その悪に関わる人たちからすれば正義じゃないですか」
「・・・では、セクト様は悪とは一体何なのですか?」
アイシスが目の前のルカリオ、セクトに問いかける。
セクトはティーカップの中にあった紅茶を飲み干し、再び机に置く。
「架空の存在です。それぞれが抱いている事全てが、正義なんですよ。私が持ってる本・・・まあ、ファンタジー物の小説なんですがね。これに乗っている、この悪役も最後の敵も。彼らも、その部下も己の正義を信じて野望を叶えようとしたんです。」
セクトは手元にあった本を開き、アイシスに見せる。
そのページには、主人公と悪役の親玉が載っており、それぞれがやった事が細かく書かれていた。
なるほど、とアイシスが呟いたと同時に彼は本を閉じて机に置く。
「だから私が実行しようとしてる事だって、正義の一つ。この本に載っている彼らのやったことも正義。・・・分かりましたか?」
「はい、セクト様」
よし、と彼がつぶやくとお互いにイスから立ち上がる。
そして、互いのベッドに置いてあった物、―――セクトはマント、アイシスはクローとボウガン―――を付けて互いに顔を合わせる。
「では、談義はここまでにして行きましょうアイシス。私達の理想郷を、築き上げるために。」
「はい、セクト様。・・・私は、あなたのためにこの命を捧げます」
アイシスの言葉を聞いたセクトは、メガネを指で上げてドアを開け、そのまま外に出る。
―――彼らの目的はただ一つ。理想郷を作り上げること。―――
哲学者と暗殺者が、己の正義のために今動き出す。
2011/09/12 Mon 01:07 [No.668]