フィリット
顔に「疲れた」と書いてある様に、学校からグッタリと帰ってくるとノートパソコンを起動させる。
そして、スカイプを開いてオンラインしている一人の親友と会話をする。
宿題なんか忘れて親友とネットを使い話しをする、それが最近、私の日常へと化して来ていた。
親友と呼べる彼女と会話をしていると、疲れなんて吹き飛ぶ気がする。
彼女はマイペースなのか、いつも威勢の良い返事をして来るので私はその勢いに勇気付けられているんだろう。
彼女は私にとって大切な友で、私の支えだった。
そして彼女も、私が彼女を思うのと同じ様な目で、私を見ていてくれていた。
――そんな私達が。
――こんな事に巻き込まれるなるなんて。
――夢にも思わなかった。
+ + +
いつもの様に、私は彼女と会話していた。
「あぁ痒い痒い……」
『うわぁぁまたマイク越しにボリボリって音が聞こえる!また掻いてるでしょ、治らないよ!?』
「痒いモンは痒いんだよー!」
『薬塗って包帯しなさいー!包帯の上からでも掻いちゃダメだよー!』
「あっ、包帯してるけど掻いてた。」
『コラーッ!!』
いつもこんな会話をウダウダしている。けど、楽しい。
私は喋りながらインターネットを開いて「ポケ書」という掲示板を見る。
これもいつもの日常。最近色々と仲良くなった人も増えた。ここに来るのも、楽しい。
けど、私はいつものポケ書の掲示板に変化があるのを読み取った。
「あれ、ポケ書が荒らされてるー……」
助けてください、という名のスレッドがいっぱい立っていたからだ。
『えー、どれどれ。あ、本当だ。誰だろうねぇ?』
親友は最近このポケ書に出入りする様になったばっかりだ。私が勧めて、チラホラ見る様になったらしい。
「荒らしかぁ……あれっ、なんかアドレス載ってる……怪しいな…」
『何なのか見てみる?』
親友はいつも怖いもの知らずだ。
変に押して何かに巻き込まれたら大変だから注意しとかないと。
私も気になるけども、一応忠告をしようとした。
「コラコラ、危ないかも知れないでしょ。荒らしは無視して…………」
『あっゴメン、押しちゃったー』
「ちょっおまぁぁぁぁぁ!?」
やっちまった、やっちまった。
まぁ、大丈夫だろう……変なサイトにアクセスしてしまったくらいで……
――そう、思っていた私が甘かったのかも知れない。
「おいー、どうだったー?」
『………い゛ッぴぎやぁッ、えっ、何コ…レ……ちょ……ッ…………』
ブツン
「は!?」
親友が訳の分からない悲鳴(?)をあげて、それから会話が途切れた。
え、何が、何があったんだ。
たまに親友がふざけてマイクを切る時があるけども、そんな感じではなかった。
どうしたんだ、おい、答えろよ。オイオイオイ。と私は内心焦る。
まさか、あのアドレスか?
「はは、そんな馬鹿な。あんな文字一列、クリックしたくらいで。」
そう思いつつ、私も親友と同じ様にアドレスをクリックした。何もない事を願って。
――残念な事に、その願いは叶わなかったのだが。
――願いとは別に、私はどんどん意識を失って………
+ + +
「はぁァァァァァッ!!??!?」
ポケモン世界に来ての第一声がこれだ。恥ずかしい。
でも、本当に驚いた。
だって、自分があのポケモンのコジョンドになっていたから。
一瞬、本当に自分なのかさえ疑った。けれど、顔に掛けてあるメガネや手に巻いてある包帯…うん、私だ。
しかも、身の回りには大きな遊園地やら地下鉄のステーションみたいな建物やら。
そう、ライモンシティ。イッシュ地方の真ん中辺りにある町。
さて、私はどうすればいい。意識を失う直前に聞こえた、随分と記憶に残るあの言葉を思い出してみる。
――ドリームメイカーズの暴走を止めて下さい……
こんな感じだった気がする。
ドリームメイカーズって何なんだろう。
ドリームは夢で……あれ、メイクってなんだったっけ。英語の勉強もっとして置くんだった。
自分でそうやってぶつくさ言ってた時だ。
「ここどこぉーー!?」
………あれ?
なーんか聞いた事のある声だなぁ。
………そうだった、我が親友のことを忘れていた。
彼女も、あのアドレスをクリックしたからにはこの世界に来ている筈だと思った。
そして、やっぱり彼女とは心につながりがあったのか、同じライモンシティに来れた様だ。
よし、ちょっくら驚かせてやろう。注意したのに聞かなかったし。
私は悪戯心を弾ませて、その声のした方向へと足を進めた。
2011/09/06 Tue 21:39 [No.652]