あきはばら博士
ジェノサイドクルセイダーズの根城である施設にある私室のベランダにて、トゲチックのツバサが連絡役らしきペラップの報告を聞いて小さく笑って要約する。
「……へぇ、それってつまり失敗したってわけ?」
「はい。レベル差から考えて当然の結果で、依頼前後の事もあっさり話していました。その事でレオードもあなたが関わっている事に気づいたようです」
「それでいいんだよ。僕のディナーは彼なんだから」
元々あんな弱い二人組に期待はしていない。ただ、自分にとっては己から唯一逃げ出す事が出来たレオードに大きな不幸の前触れを気づかせる事が出来たのならばそれでいいのだ。
今の自分の優先目的は己の望んだ不幸から逃げ出したレオードに史上最高の不幸を与える事。
もちろん元人間達の不幸を与えて、絶望の悲鳴を聞くのも大好きだ。
だからこそ両立させて芸術的な史上最高の不幸を与えてやりたいのだ。
そう考えると楽しくて楽しくて笑みが止まらなくてしょうがない!
突然クスクスと笑い出したツバサに対し、ペラップは若干引きそうになりながらも尋ねる。
「……と、ところでツバサさん、あなたはどうするのですか?」
「出るに決まってるじゃないか。他の連中にレオード、そして彼の相棒を傷つけられるのはイヤだからね。もしもやっちゃったなら、そいつに不幸を与えるだけさ。 ふふ、ふふふふふ……」
殺意が篭った笑い声を聞き、自分の体にとても冷たい悪寒が走ったのをペラップは感じた。
ここに集った者達の多く(特に部隊を率いる幹部クラス)に見られる共通点は自分と自分の気に入ったモノ以外に対して、本当に容赦が無いというところ。一歩間違えたら、己自身だって殺される可能性が高い。
絶対に誰も敵に回したくないな、とペラップが考えていると不意にツバサが話しかけてきた。
「僕はもうちょっとのんびりしたいから、一人にさせてくれないかな?」
「へ?」
「ほら、僕だって人の子だよ? 何かを考えたいなーって思うことはあるよ。善は急げっていうけど、気持ちの整理はしないとね」
「あ、はい……」
要するにこのトゲチック、考え事をしたいから出て行けと言いたいらしい。
ペラップはその命令を理解すると、さっさと飛び去ってその場から離れていく。
それを見送ったツバサは右手を口に当てて、再びクスリ……またクスリと小さく笑い出す。
「ふふふ、ついにかぁ。ついに、ついに、世界にとって最大の不幸の日が来たかぁ……」
笑いをこらえ切れないツバサが思い出すのは、先ほど行われたジェノサイドクルセイダーズの首領であるボスの演説。
2011/09/06 Tue 00:19 [No.648]