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赤ずきんは嗤う、

いぬ

雪の塊の上に眠りこけているのは、一匹のユキメノコ。
周りは巨大な氷柱に囲まれているが、その中に閉じ込められているのは――

 「……ふが」

――と、不意に彼女から寝息混じりの寝言がこぼれる。
そんな彼女が眠っている雪の塊……と言っても新雪であり、ふかふかの布団と似た感触。
そう、この眠っているユキメノコは感想を述べていたようだが、普通生身の人間がそこで眠ったら間違いなく凍傷以上の怪我をするに違いはなく。
しかし、こおりタイプをもつユキメノコにとって、この雪のベッドはちょうど良いのであろう。
それも、やはりこのユキメノコが言っていた訳で――

 「いぬさん、起きて下さい」

そんなユキメノコの眠りを覚ます一声が、広く寒々しい部屋――若しくは冷凍庫か――に木霊する。
じゃり、と床の氷雪を踏みながら一匹のポケモンが彼女のもとへと歩みを進めて行く。
起こしに来たポケモンの種族はミルタンク。だが、通常のそれとは身体の色が違っている。
そのミルタンクには白いナースキャップを被っており、白い布地に赤十字の刺繍が際立っていた。
ターコイズ、と言えるであろう水色の珠をしたロザリオを揺らし、彼女の雪塊(ベッド)の前――を覆う氷柱の塊まで足を運ぶ。
……と、その氷柱の群れから、先程まで眠っていたユキメノコがすり抜けて出てきた。

 「……あーー、…はよー」
 「もう朝の刻はとっくに過ぎております。」
 「んなもん知らねえよ乳牛ナースさんよぉ。あたしの感覚で行くともっと遅く起きても何ともねーんだっての」
 「幾ら“元人間”とは言え、」
 「定刻通りを弁えて貰わなければ迷惑ですので、ってかァ?分かってるっつのくそが」

彼女(ユキメノコ)の名前はいぬ。
この世界からやってきた元人間である。

 「で。何か用かよ乳牛ナース」
 「“貴方達”以外の元人間の大量出没が確認されました。」

と、いぬの未だ眠たそうだった視線が急激に鋭く変わる。
それを確認したかは否かは分からないが、色違いのミルタンクは説明を加える。

 「詳細はセバスチャンさんから伺っておりますが、元人間は各地に居るとのこと。私達のことは恐らく何の把握もされてはいないでしょう。」
 「……どこら辺に集りそうかね」
 「ライモンシティですね。現場にはゆなさんが向かっていきました。」

いぬが仲間として加わっている組織――ドリームメイカーズの同じ元人間のゆな。
種族はシャンデラ。自他共に認めるサディスティックっぷりが印象的である。
彼女の性格も種族としての攻撃火力も、来たばかりの元人間の己の把握し切れていない状況も、その双方があるが故に“元人間”の犠牲者なしとは先ず有り得ないだろう。
……だが。

 「へえ、面白そうじゃねーかよ。あたしも見に行くわ」
 「高みの見物と言ったところでしょうか。」
 「まァな」

いぬは自身の被っていた赤頭巾を翻し、やけに無邪気な笑顔で、こう言った。

 「可愛い女の子でも見つけてきたいしな」

******
というわけで、いぬのプロローグもどきです。
ヘンリエッタは元からだけど、マロースもお留守番です。

2011/09/05 Mon 23:05 [No.643]