池田
「すげーな……ホントにポケモンになってんのか」
自分の両手を見ながら、ミュウツーが呟いた。
彼は、バトーというHNを名乗る人間。他の元人間と同じように、プログラムを用いてこの世界にやってきたのだ。
「さて、どうするかな……」
ポケモンの世界に行って、ポケモンになれる方法がある。そんな噂を聞き、ネット上に拡散していたurlを踏んで来てみたのはいいものの、バトーはポケモンに関する知識をほとんど有していなかった。彼のポケモン知識は、幼稚園児の頃に遊んだ赤バージョンの時で止まっている。だから彼は、この先どうしたものかは分からない。
しかし、彼には自身があった。
バトーは、格ゲーではだれにも負けたことがない。故に、ポケモンになって戦っても、誰にも負けるはずがない。そう考えていたのだ。さらに、自分が変化したものが、自分の知る中で最強のポケモンなのだから、尚更である。
「しゃーねぇ、とりあえず……狩るか」
結局、バトーがとったのは、『適当に歩いてモンスターを狩り、飽きたら帰る』という
単純なものだった。
だが、単純とは言え方針が決まった以上、彼は動き出す。ここから、バトーの快進撃は始まるのだ。
まずは、最初の相手を探すため、街からでなければならない。野生のポケモンが草むらにいることくらいは、バトーも知っていた。
「っしゃ、行くぜ!!」
勢い込んで叫びながら振り向いたその瞬間……目の前に、見慣れぬものが現れた。
「う……うわっ!?」
さっきまでは居なかったのに、いきなり現れたそれに、バトーは驚き、尻餅をつく。
「な……何だ、お前!ブッ殺すぞ!!」
無様な姿で、それでもバトーはその何かに対して虚勢を張る。
それは、白い鎧を着た騎士の姿であった。しかし、右手は青、左手は金色の獣の頭の形をしていた。明らかにポケモンではない、異様な形態である。
「誰だ……名乗りやがれ!!」
バトーは、その騎士を、新しいポケモンだと思った。赤緑にはいなかったが、後のシリーズで出てきたポケモンなのだろう、と考えたのだ。
ただ、それがどんなポケモンであるかなど、重要ではない。それが野生のポケモンなのか、自分と同じようにこの世界に来た人間なのか。その点を知る必要が有った。それによって、彼の取るべき行動が変わってくるのである。
「おい!!無視すんじゃねーよ!!」
再びバトーが叫ぶ。が、彼は既に、それは野生のポケモンであろう、と見当を付けていた。自分が呼びかけても答えないのは、人間の言葉が分からないからだろう、と判断したのだ。彼は、この世界のポケモンたちが人語を話すことを知らない。
だから、何も考えずに目の前の白騎士を狩り、己の覇道の第一歩にすればいい。
そう思っているが、バトーは最後の質問をする。
「糞が!!テメーはいったい何モンだ!?」
この時、予想外のことが起きた。
「私は……」
バトーの言葉のあと、白騎士は、確かにそう呟いた。
「あ!?」
突然のことに驚いた瞬間、バトーの視界が目まぐるしく変化し始め、そしてしばらくすると、目の前の景色が上下反転した。
「え!?」
さらに次の瞬間、眼下から雨が降ってきた。正確には、天に登るかの如く、紅い雨が、上がってきた。
「お!?」
一体何が起こったのか分からぬまま、あたりを見回すと、逆さになった白騎士と、ミュウツーが居た。ただ、変わっているのは、白騎士の左手の獣の口から剣が伸びていること。
そして、ミュウツーには首がなく、代わりに血の噴水が上がっていることだった。
「う!!」
そしてこの瞬間、遂に何が起こったのか分からぬままで、バトーは絶命した。
その、目にも留まらぬ一撃を放った騎士は、左手の剣を濡らす血を拭かぬまま、律儀にもバトーの質問に答える。
「私は……オメガモン」
そう言って、白い騎士は、消えた。忽然と、その場から、跡形もなく消滅したのだ。
後には、首を失ったミュウツーの屍だけが残った。
果たして、バトーは如何にしてアドレスを知ったのか。
なにゆえ、ポケモンの世界にデジモンが居るのか。
全ては謎のまま……物語は、スイレンの知らぬところで、着実に地獄へと向かっている。
2011/09/04 Sun 00:06 [No.634]