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最後の…

あきはばら博士

「見事だ」

DM本拠地、最後の部屋、そこにヨノワールのヤグルマはたった独りで静かに佇んでいた。

「よくぞここまで来たものだ。ここまでの道筋は艱難辛苦の道だっただろう、ゲームの中でしか無かったポケモンバトルもお前達にとっては未だに慣れないものだと思う。ゲームみたいにたった4つのワザから1つだけ選んで指示を出すという甘いものじゃない、一秒一秒を争う剥き出しのポケモンバトルというものを君はその肌でしっかりと感じたものだろう、それをいくつも乗り越えた上でお前達はこの場に立っている。その事実に私は祝福しよう、その頑張りを私は誉めよう。見事だ。
 だがここまでだ。君たちは私の全てを奪ってしまった、これは許されざる反逆行為といえよう。安心したまえお前はもう勝つ必要は無いのだ、あとはこの場で敗北し、ただただ死ぬのみ。無慈悲で無為な無残に散ってそっと静かにクロニクルに刻まれる。この冥界の導き手と言われるヨノワールの手によって君たちの罪に私自らが処罰を与える。その魂を名誉に死立てあげてみせようか」

濃含なプレッシャーを以って彼は――ずい と一歩踏み出して、スイレンに――

「しぬがよい」

――言い放った。

「……なんて」
態度を一変しておどけてわらう。
「冗談だ。仮にも敵の組織のボスだそうだから、一度くらいはこういうクサい台詞を言ってみたかっただけだよ、もっとも最近では悪の組織のボスってこんな感じの台詞は言うものじゃなくて、もっと強大な黒幕がいたり戦わずして終わっていることが多いそうだがな。
 事情はもう全部聞いているだろう? そう、ならば私から新しく伝えることなど無い。決着をつけよう」
「ヤグルマ、さん。私は貴方と――」
スイレンは言いかける、貴方とお話がしたい、だが。
「最後の戦いというものを始めようか。すべてが分かった今この戦いには意味は無くなっているかもしれないが。これは私なりのけじめだよ、すべてを巻き込んだ戦いの最後は戦いで終わるのが相応しい、すべてを賭けてかかって来たまえ」
ヤグルマは戦闘の構えを取る。
「ドリームメイカーズ総統、ヤグルマです。よろしくおねがいします」
彼はゆっくりと頭を下げて決闘の挨拶をした。ここでこちらが名乗らなければ、この戦いはしないで済むかもしれない、だが
「スイレンです。よろしくおねがいします」
スイレンも頭を下げて挨拶をして、すばやく後ろに下がり、補助ワザの射程範囲から離脱する。
そして、今の状況を冷静に分析する。
(ヨノワールがどのくらい強いのかはよく知らないけど、防御がすごく堅いことは分かってる。至近距離から殴り合いになったならば私が明らかに不利…、だから勝つためには高い素早さを武器に攻める、もしくはやどりぎのたねを使って持久戦に持ち込むか…)
サントアンヌ号はヨノワールを重戦車と喩えていたことを思い出す、スイレンは自分を奮い立てて戦闘の準備をする、ヤグルマは漆黒の眼差しを向けてじーっとスイレンの出方を観察している。
(…いや、お互いに決定打の技を持ってないのだから長期戦は覚悟している。ならば私がすることは一つ…!)
スイレンは目の前に黒い塊を作り出しヤグルマに向けて発射する、シャドーボール。
遠距離から特殊技を撃ちつつ、隙を見て速攻を仕掛けてやどりぎのたねを相手に仕掛ける、特別な方法をいまさら考えても仕方が無い、いつもの戦法こそが一番!
ヤグルマがシャドーボールをシャドーパンチで弾いたところで、距離を置きつつ横に走りながら次のシャドーボールを角度を変えて放つ、そうやって攻撃を与えるうちヤグルマに隙が見えてくる。
(いまだっ!)
切り返して騙まし討ちを発動させ相手の視界から自分を消して速攻を仕掛ける、その死角からの攻撃はうまくヒットして、ヤグルマとスイレンの影と影がお互いに交錯し合う。
立て続けにやどりぎのたねをヤグルマに命中させる。

2011/09/03 Sat 23:19 [No.628]