ゆな
とある一室。ゆらりゆらりと頭と手の炎を燃やし、部下が持ってきた情報に彼女は半目気味に尋ねる。
「……各地に元人間が多数出没、ねぇ。それってマジ?」
「はい。彼らの行動を観察していった結果、まず間違いなくあなた様方とは異なる元人間でしょう」
「うち等に関する情報は?」
「いえ、ほとんど知らない状況のようです。……どうします?」
部下の言葉を聞き、彼女はふむと一言呟いてから考え込む。“自分達”の前例を考えてみれば、今回の事態は異例である。何故各地に何も知らない元人間が現れたのか。何故今日唐突に始まったのか。
これは間違いなく“自分達”とは異なる手段で、こっちに来てしまったと考えるべきだろう。どんな目的で呼び出したのか、何をする為に彼等が来たのかは分からない。ならばそれを調べるのも一興。
深い考察部分は仲間の専門家に任せるとして、その前の下調べはこちらの仕事。最近出ていなかったし、彼らの実力も測りたい。そして表面上でもいいから粗方分かったところで、一気に行動に移すのみ。
だとすれば、彼女がこれから動く事はたった一つ。誰よりも早く先手を取る事だ。
「……一回正面激突だ、そしてちょっと脅しをかける」
「脅し……と言いますと?」
「簡単だよ。“うちに殺されたくなかったら、ドリームメイカーズに入れ”って言うだけ。これで相手の反応を見る、その反応次第じゃドリームメイカーズの敵対勢力と判断。他の部隊にも潰せって連絡する」
「それはあまりにも急速では……?」
「相手が何者か分からないからこそ、先手を仕掛けるだけさ。雑魚の軍団だったら、うち一人で十分だ」
慎重になりすぎると相手に先手を許し続けるという事になる。それでは本末転倒、意味が無い。
だからこそトラウマを植えつけるが勢いで、最初をつかみとってこちらのペースに持ってくるだけだ。それでも尚、ドリームメイカーズに反抗する敵であるとするならば……容赦は一切しない。してあげる義理も無い。
単純ながらも分かりやすい作戦ではあるが、自分は細かい事を考えるのが得意ではない。だからこそとっとと動くまでだ。
「連中は何処にいる」
「この様子ならばライモンシティに集合すると思います」
「オーケー、都合が良い」
「……部下は?」
「一応潜ませるけど、最初はうちだけでいくさ。……蹂躙っていうのはね、一人でやる方が効果抜群なんだよ」
後頭部にくくったオレンジ色のリボンを揺らしながら、右目につけたモノクルのずれを器用に直す。モノクルについた紐飾りにはDと書かれた歯車のストラップがついてあった。
頭に大きな青色の炎、両手には四つの炎を宿したシャンデリア――シャンデラと呼ばれるゴーストポケモンの姿をした女は笑う。
これから己が相手をすると決めた獲物達に対する期待か、それとも蹂躙できるという獣のような闘争心か、それともドリームメイカーズという組織に所属する者としての強さから来るものか、それとも全てか。様々な意味を含めた笑みを彼女は浮かべていた。
「さぁて、うちをどんな気分にさせてくれる子達か……楽しみだよ」
「出動要請確かめなくていいんですか?」
「アホ。お前が止めないって事は出てるってことだろ。違う?」
「いいえ、ボスからしっかり出てますよ。……しかし相変わらずあなたは好戦的ですね。無駄な争いで無駄な傷だけは無駄に作らないでほしいのですが」
「そこは努力するよ、セバスチャン。でもうちの強さは良く知ってるだろ?」
「えぇ、とても」
不敵な笑みを浮かべながらセバスチャンと呼ばれるポケモンへと振り返り、シャンデラは幼さを残した声で言う。けれども見せ付ける空気は少女のものではなく、ドリームメイカーズ幹部としての強さを誇るもの。
数字にすると短く、けれども確かに長い時をこの地で生きてきたから得た強さ。それを誇りとし、己とする彼女はセバスチャンの肯定に満足そうに笑った。
「なら何も気にする事は無いさ。お前は最悪の事態に備えて動けばいい」
「承知いたしました、ゆな様」
さぁ、思い知らせてあげようじゃないか。ドリームメイカーズ幹部の強さを。
さて、教えてもらおうじゃないか。お前達がどんな目的をもって、この世界に現れたのかを。
2011/09/01 Thu 23:01 [No.610]