ジャグラー
「さて、ここが奴隷達が暮らしている部屋ですね。
・・・ずいぶんとカビ臭い・・・ただ壁に穴を開けてそこを部屋としてるだけの粗末な部屋みたいですね」
「奴隷の皆さん!どうか、私の話を聞いてください。
私は、貴方達を助けに来ました。どうか、私についてきてくれませんか?
私は皆さんに毎日温かい食事を出しますし、きちんとした部屋を用意します。必ず、皆さんに幸せな生活を提供します!」
ルカリオが部屋の入り口で叫ぶ。
彼の叫びが部屋に響き渡る。それを聞いたポケモン達がルカリオに集まってくる。
「ほ、本当に助けてくれるのか?」
「はい。外で私の仲間がいます。彼らの指示に従ってください。
私は動けない方々の救助に当たりますので。」
「あ、ありがたい!この奥にニューラの女の子がいるんだ。
酷い怪我をしていてまともに動くことが難しい。助けてやってくれ!」
ルカリオの質問に一匹のエビワラーが答える。
「分かりました、ではまた後で会いましょう。」
彼がそう言うとポケモン達は一斉に外に出てルカリオが言った場所に向かった。
一方のルカリオは、ニューラを助けるために奥へと向かった。
足音がやってくる。
またあのゴーリキー達が憂さ晴らしにやってきたのだろうか。
でも、足音がどこか違う。軽やかな足取り。
だけど、誰が来ても結局やることは一緒・・・。
期待するだけ無駄なら、少しでも眠ってる方がいい。
「君、大丈夫ですか?」
声をかけられる。あの声からして、ゴーリキー達ではない。
一体、誰?
そう思い、私は目を開ける。一匹のルカリオが、そこにいた。
「私の言葉が聞こえますか?今貴方を助けます。動けますか?」
「あ・・・」
足が痛い、そう言おうとしても口がうまく開かない。
体がぼろぼろになって、そのせいで話す事すらできない。
だけど、ルカリオは何を言おうとしてたのか分かってたのかも知れない。
「足を怪我してるんですか?大丈夫です、私が担いであげます」
「あぁ・・・う・・・」
「大丈夫ですよ。怖がる事はありません。必ず、私があなたを助けてあげますから」
何、この気持ち・・・?
今まで、ここでは感じることのなかった気持ち。
これは・・・?
「さあ、行きますよ。しっかりつかまっててください」
ルカリオは私を担いで外へと向かう。
正直、この時は何も感じることはできなかったが、そのあとでこれはここから出られると言う「感動」という気持ちが湧いていたらしい。
「僕は、セクト。君のようなポケモン達を幸せにさせるために戦ってる哲学者だよ。君の、名前は?」
「あ・・・」
「ア?・・・うーん、アイシスかい?」
「う・・・」
「そうか、アイシスか。よろしくね、アイシス」
これが、私の名前がアイシスになった瞬間だった。
それから1年たっただろうか。
体がすっかり回復してまともに話せるようになった私は、あのルカリオと共に行動を共にしていた。
だけど、最近思うようになった。
これは、『成り行き』でやっているのではなく、『自分の意志』で決めてやっている[恩返し]なのだと。
なら、私はあのルカリオ・・・いえ、あの方のために戦う事を誓おう。
助けてくれた恩を、あの方のために戦うこと返そう。
「・・・セクト様」
「ん?・・・様は余計だよ、アイシス」
セクト様は私の言葉に違和感を感じたのか、少し苦笑いをする。
しかし、私は構わず続ける。
「セクト様。私は、決めました」
「決めた・・・?何をだい?」
「私は、貴方のためにこの命を捧げます。私は・・・あなたの武器となります。」
後悔などない。これが私の心から思っていたこと。
セクト様のためなら、例え体が砕け散ろうとも戦い続ける。
「・・・アイシス。君がしようとしていることは、死ぬこともあるかも知れない。それでもいいのかい?」
「構いません。私はセクト様に助けられて今もこの命があります。
・・・私は、恩返しがしたいのです。どうか・・・」
「・・・分かった。アイシスが、そこまで言うのならいいよ。
・・・アイシス。君は今日をもって僕の部下だ。命令には従ってもらうよ」
「ハッ、セクト様の仰せのとおりに!」
私は何があってもあなたをお守りします。
あなたは、私のマスターですから。
2011/07/29 Fri 15:01 [No.534]