海の神竜ラプラス
―2011年 某所
「ごちそうさまっ!」
とある家庭のとある食卓……ショートヘアの女の子が、兄、父親と一緒に食卓を囲んでいた。女の子は早々と夕食を食べ終えて食器を片づけている。
「なんだ、もう食い終わったのか?」
「最近、夕食の後にパソコンに向かってるね。何か楽しみな事でもできたのかい?」
いそいそと食器を片づける女の子に、父親がたずねる。
「うんっ、とっても楽しい掲示板見つけたの。ポケモンのお話いーっぱいできるんだ。」
「そうか、お前あいつの影響ですっかりポケモン好きになっちまったもんな。」
「あまり夜更かししないようにするんだよ。」
「はーい。」
兄と父親に見送られて、女の子は駆け足で2階にある自分の部屋へと入っていく。机の上には、この前誕生日に買ってもらったノートパソコンが1台。うきうきしながらパソコンの電源を入れる。パソコンが立ちあがると、デスクトップのブラウザのアイコンをクリックし、お気に入りの中から「ポケボード」と書かれたリンクをクリックする。
「……ふぇ? 何これ……。」
ポケボードは、「部屋」と呼ばれる8つの掲示板で構成されている。女の子が開いているページは、ポケモン関係の話をするための「ピカチュウ部屋」だ。そのピカチュウ部屋のトピック一覧の一番上に妙なスレッドが立っていた。『助けてください』とタイトルが付けられたそのスレッドは、開いてみても本文にはURLが一行だけ書かれているだけだった。
「……他の部屋にも同じスレッドが立ってる……。」
念のために他の部屋にも行ってみる。ポケモン以外の話をするための「ライチュウ部屋」、アンケートを取るための「ソーナノ部屋」、言葉遊びをするための「ペラップ部屋」、小説を書くための「ラティアス部屋」、小説の運営や感想を書く「ラティオス部屋」、ワイファイ通信をするための「ポリゴン部屋」……。どの部屋にも同じスレッドが立っている。プクリン部屋には記事の削除要請のスレッドに何件か書き込みがあった。
「これを"荒らし"っていうのかな……。」
ネット上には、掲示板に不愉快な書き込みや意味不明な書き込みなどを繰り返し行う人たちがいて、そういう人たちを"荒らし"と呼ぶらしいという事は聞いていた。こういう場合、相手にしない方がいいという事も聞いていたが……。
「なんか……気になる……。」
そのスレッドに書かれた1つのURL……次第に興味をひかれていった女の子は、少し考えたあとでマウスを動かし、ポインタをURLの上に合わせた。
「……大丈夫……絶対、大丈夫だよ……。」
何か挑戦したりするときにいつもおまじないのように言っている言葉をつぶやいた女の子は、マウスのボタンを押した。「カチッ」というマウスの音が部屋に響く。次の瞬間、目の前が急に暗くなる。
「ふえっ……。」
驚きの声を上げる女の子だったが、その声も暗闇の中に飲み込まれるようにかき消され、意識が遠のいていった。
2011/07/21 Thu 21:33 [No.481]