Makoto
「う… うーん…。寝てたのか、ボクたち……」
しばらくして、もぞもぞとリュカが起き出した。
何で、涙なんか流してたんだろう。こんなの、兄としてみっともないじゃないか。リュカはしきりに顔を拭って涙を振り払った。
「やっぱり…… 無いか、きのみバッグ……。きっと雨の中でどこかに落としちゃったんだ……」
先ほどの雨で気が動転していて急いでたとはいえ、なぜもっと早く気にしようとしなかったんだろう。きのみバッグの中身は無事だろうか……リュカの心に深々と突き刺さる。
何よりもそれ以前に…… ボクたちは、本当に森から脱出して家に帰り着くことができるのだろうか?
「ダメだなぁ、ボクは。こんなんじゃ、パパとママの約束果たせてないじゃな―― あれ、シフォン?」
ふと物思いに耽っていたリュカは、即座に現実に引き戻された。先ほどまで胸元で一緒に寝ていたシフォンが、いつの間にかいなくなっているではないか!
いつもなら自分のもとに離れることのない妹を何度も世話しているだけに、この不安は計り知れない。
「どこにいっちゃったんだ!? シフォン、シフォンー!!」
洞穴の外で、慌てて帰ってくるシフォンの姿を見つけて、急いで飛び出したリュカ。
「シフォン、どこにいってたの!? 心配したんだよ?」
「外で泣き声が聞こえたの。助けなきゃって思って…… その…… ご、ごめんねリュカ兄ちゃん!」
「ハァー、ともかくキミが無事でよかったよ……」
息を切らしながら事情を説明するシフォンに、ホッと胸をなでおろすリュカ。と、ここでシフォンの左手側に目を向けた。後ろからポケモンの気配がするようだ。
「あれ? そのポケモンって……」
「この子、一人でずっと森をさまよってたの……。もう大丈夫だよー、お兄ちゃんたちも一緒だからね」
「ぐすっ…ぐすっ…… ひとり、とっても怖かったよぉ……!」
シフォンに呼ばれて、一匹のみずたまポケモン――ルリリが泣きながら洞穴に入ってきた。どうやらリュカたちと同じ迷子組、ということで間違いはなさそうだ。
とりあえず生き残りが僕たちの他にもいた。その事実はリュカたちに安心の表情を与えるきっかけとなった。
しかし、今さら一人増えたからといって状況が変わる訳ではない。一歩間違えれば、このまま倒れてしまうって可能性も考えられる。まさに万事休す、といった状態である。
「大丈夫かい? こんなビショビショになって……」
「えっ…えっ……。ねがいぼし、探してたの…… でも、おかーさんとはぐれちゃって……」
「! それ、ボクたちもほぼ同じだ…… 森から出ようとしたときに急に雨が降っちゃって、この有り様で……」
「何か、悲しいよね。帰り道もわかんなくなってて……」
「わたちたち、これからどうなるの? ううぅ…… もう、家に帰れないのかなぁ……」
「パパ…… ママ…… きっと、心配してるんだろうな……」
きゅるるるる〜〜〜。
どこかでかわいらしい音が聞こえた。どうやら誰かの腹の虫らしい。
タイミングを読まない空腹を知らせる音に、一時吹き出しそうになった3匹。
「今の、わたちのお腹の……。うぅ……お腹すいたよぉ……」
「先に……ご飯食べようか? 実は、まだ何も食べてないんだよねボクたち…… 話はその途中からでいいでしょ?」
「そうしようよ。あの、とりあえず何か食べよう? お腹ペコペコだよー」
その後、ルリリの腹の虫に続いてリュカとシフォンもお腹も鳴り出して、半ば恥ずかしそうにしながらリンゴやきのみの数々を取り出したのは言うまでもない。
2011/07/15 Fri 00:34 [No.439]