Makoto
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しばらく眠っている時、洞穴の中でぽつりと水滴が落ちる音がした。
その音に、むくっとシフォンが起き出し、ふわぁーと大きくあくびをした。事前に足の傷を治してもらった際に体力を回復したおかげもあってか、体が自然に軽くなっているのを感じた。
リュカは横になって寝息を立ててまだグッスリだ。そっと近付いて顔を見てみると… 目から一筋の涙が流れているのが見えた。
涙を浮かべながら眠っているリュカの目を、シフォンはそっと拭い、優しく声をかける。
「どうしたの? お兄ちゃん……?」
「ごめんよ……シフォン。つらい思いをさせて……」
呟くように寝言を言いながら、リュカは静かに体を震わせている。
これまで不安が溜まっていた気持ちが爆発したのだろうか、最後がやや涙声になっていた。
「ボクが、森の奥まで行こうって言ったばかりに……。パパ、ママ…… 心配…掛けて…… ほんと…に…」
「リュカ兄ちゃん……」
いつもは感情的になることなく、にっこりして幼き妹を思いやっていたリュカ。
心細さや不安に気が挫けそうになりながらも、決して誰かに八つ当たりすることなく、必死に自分たちを励ましながら今日まで何とか頑張ってきた。
そんな気丈な兄ちゃんが、一人で寝てる時には我慢を解いて静かに涙している…… シフォンはきゅんと胸が痛くなる思いを感じた。
(兄ちゃんはずっとボクのことを励ましてくれたんだ…… 今度は… ボクが助けなくちゃ!)
ふと、シフォンは周りの様子を探ろうとキョロキョロと見渡してみる。この洞穴は、何ヶ月か前にできていたものらしく、風化しているものはほとんど見られない。試しにコツコツと叩いてみる。コンコンっと反響する音が返ってきた。今度は洞穴の壁を押してみる。思ったより丈夫でそう簡単に崩れなさそうだ。
これ以上調べても何もなかったため、先ほど寝ていた場所に戻ってみた。外を見てみると、空は夜になっていて森一面が黒くなっているようだ。雨は相も変わらず激しく降り続いている。この分では当分止みそうにないだろう。
(そういえば…… あのぎゅうぎゅうに押し込まれてた、きのみバッグはどうしたのだろうか? 走っている時、リュカ兄ちゃん肩にかけて持っていったはずなのに)
シフォンはゆっくりと辺りを回りながらもう一度確かめてみた。しかし結局見つからなかった。
先ほどの雨で気が動転していたせいか、きのみバッグをどこかに落としてきてしまったみたいだ。後でリュカ兄ちゃんと一緒に探しに行かなくては。
でも、雨が降っていることには動くことができない。またうっかり水で滑ってけがしても格好がつかないからだ。
>(ここら辺は、時間がある時に地の文を入れる予定…)
誰かが、外で泣いてる声がするようだ。ひょっとしたらボクたちと同じ迷子なのかな?
――ひっく… エッエッ…… おかあさーん…… どこにいるのー……――
「誰? どこにいるのー?」
注意深く耳を澄ましながら、シフォンは遠くから聞こえる“コエ”に呼びかける。周りには誰もいない。
――空が… 星空も… ねがいぼしも全然見えないよお…… おかあさーん…… エーン、エーン……――
「待ってて! 今シフォンが行くから!」
ひょっとしたら同じく迷子になった他のポケモンもいるかもしれない。そう思ったシフォンは、寝ているリュカを起こさないようにそっと洞穴を抜け出した。
雨は、ひと時も止むことなく降り続けていた。
2011/07/15 Fri 00:31 [No.438]