Makoto
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周囲が少しずつ暗くなって、明かりの欲しい位に森は静けさに包まれた。遠くではヨルノズクの鳴く声がこだましているようだ。
「あれ、ここってさっきも通らなかった? 何か同じところをぐるぐる回ってるような……」
「そんなはずないと思うけど…… ねぇ、止まってないでとにかく帰ろうよ。ここ、何か気味が悪いもん」
しばらく歩いているうち、二匹はこの森の異常に気がついた。自分たちは森の出口に向かって歩いてるはずなのに、家への道が見つからない。
いや、森から抜け出すどころか、むしろ反対にどんどん森の奥深くに入って行っているみたいだ……
――もしかして、ボクたち“迷子”になっちゃった……!?――
一瞬いやな走馬灯が流れたリュカたちは、すごい勢いでその妄想を頭を横に振って打ち消す。しかし、その行為は徒労に終わるばかりだった。
先立つ焦りが、彼らを更に追い立てていく。
「どうしよう…… シフォンたち、このままお家に…帰れないの……?」
「大丈夫だよ。きっと帰る道は見つかる。それに、まだ帰れないって決まった訳じゃないさ。前を向いて、元気出していこ!」
「う、うん……」
不安で胸を詰まらせるシフォン。リュカはそんな妹をなだめすかして、元気よく歩き出そうとした……と、その時。
ピカッ―― ゴロゴロ……ピッシャーンッッ!!
「キャッ、カミナリ!?」
「……ちょっと待って…… み、水!?」
稲光が迸り、どこかで耳をつんざく雷が落ちたと思いきや、人よりも一丈大きい木々や草達がそよそよと風でなびいて、突如激しい雨が降り出してきた。
上を見てみると、先ほど晴れていた青空はどこへやら、いつの間にか白く分厚い雨雲に覆われていた。あぁ、何て場の悪い!
「ウソ!? さっきまで、あんなに晴れてたのに……?」
「確か……こっちの道から森を出れたはず……。シフォン、早く! このままだとボクたち、帰れなくなる!」
「あ、待ってよリュカ兄ちゃん! ホントにこの道で合ってるのー?」
先ほどまでの余裕と自信も、突如襲った大雨のせいで打ち消されたリュカたちは我先にと駆けだした。走っている途中、後ろの方でバシャッという音がしたが、二匹はそんな事お構いなしだった。
ポワルン天気予報ではそんな事全く言ってなかったから、傘も合羽も持ってきていないのだ。更に彼らは森の奥底に初めて踏み込んだせいもあり、本来分かるはずの方位が全く分からなくなってしまっている。
「あぁっ!」
「! シフォン!!」
走っている最中、ふと叫び声がしたかと思うと、シフォンが勢いあまって転んでいた。その際に水しぶきが上がって更に体をぬらしていく。
「痛ッ……! うぅっ、水で滑って転んじゃった……」
「しっかりして! 大丈夫?」
「リュ、リュカ兄ちゃん…… 痛いよー!!」
とうとう痛さに耐えかねて泣き出してしまったシフォン。
シフォンの足には擦り傷が…… どうやら転んだ拍子に固い石かなんかでケガをしてしまったみたいだ。
「今は悩んでる場合じゃないな……。シフォン、ボクの背中に乗って!」
「ぐすっ…… う、うん……」
降りしきる雨に身をぬらしながら、それぞれのポケモンたちは森の中を当てもなく、しかし無我夢中で走っていく。どうして急に雨なんか降ってきちゃったんだろう。前まであんなに青空がきれいに映っていたのに。お天道様はイジワルだ。
気まぐれな天気に恨みつつ、彼らはみちなる道をひたすら走り続けていった。どこでもいい、何でもいいから雨宿りできる場所を探さなければ。
そんな姿を、遠巻きに見つめながら静かにほくそ笑んでいるポケモンがいた。グネッとしている体を持つそれは、ウミウシポケモン――トリトドン。
普段は図体が大きくてノロノロとしているが、雨の影響でその動きが活発化しているのだ。
――おぉ、慌ててる慌ててる。これで我らの目的に、また一歩近づいたな。後でこの事を親分様に教えてやるか。――
トリトドンはクルッと後ろを振り向いて、這いずるように歩きながらその場を去っていった。
2011/07/15 Fri 00:27 [No.436]