あさぎり羅一
既にラジオスタジオ内にスタッフの姿はなく、明かりも全て消えていた。
それでもスタジオの中が完全な暗闇と化していないのは、外の通路の明かりが僅かに入り込んでいるからである。
DJマグナは1人、電磁浮遊でふわふわと移動しながら機材等の最終確認を行っていた。
といっても手も足も無いマグナに出来る事といえば流し見する事くらいだが。
―――コンッ コンッ
放送が終わったスタジオのドアを叩く音。マグナは疑問を抱いたが、入ってきたポケモンの姿を見てすぐに納得した。
「あぁ、あなたでしたか」
逆光のせいでよく見えないが、そのシルエットがランターンのものである事は認識できる。
「―――――――――――――――」
「えぇ、この世界の物語は終わりました。先ほど放送も終了した所です。」
しかしランターンのシルエットの言葉は何故か聞き取る事ができない。
「―――――――――」
「いえ、人間界を始め他の世界から来た方達はもう皆帰っていきました。
残ってるのは多分僕だけじゃないですかね」
言いながらマグナはドアに向けて歩を進め(足は無いが)、ランターンが道を空ける。
通路に出た2人はドアを挟んで正面から向かい合った。それぞれの後方へ目をやると通路が真っ直ぐ伸びている。
「僕もそろそろ行かないと。“執筆者達”が待っていますしね。」
「―――――――――――――」
「らりるれろ! …ってそれは“愛国者達”でしょ!僕が言ってるのは“執筆者達ですってば!……って何やってるんでしょうね僕達」
「――」
相変わらずランターンの言葉は聞き取れない。
しかし口の動きから、笑っている事は見て取れる。
「じゃあ………僕はそろそろ行きますね。次'の'世'界'へ'。」
マグナは話を切り上げ、通路の奥へ進み始めた。
その先に何があるのかを確認する事はできない。
というのも、マグナが向かっている通路の先は光が強過ぎて真っ白にしか見えないのだ。
「――――――――――」
ランターンの言葉にマルマインは足を止め、振り返った。
「心配は無用ですよ!僕達は世界を渡り歩く存在。
いつかまた、同じ世界に辿り着けたる事もあるでしょう!」
言い終わるとマグナは再び歩を進め始めた。それを聞いたランターンはマグナとは反対側の通路へ向けて歩を進めていく。
こちら側も同じく、光が強過ぎて先に何があるのか確認する事はできない。
そんな光に怯む事もなく、ランターンはあっという間に見えなくなってしまった。
「………」
マグナはランターンの気配が消えた事を察知する。が、振り返りもしない。立ち止まりもしない。ただ真っ直ぐ通路を進むのみ。
そして、 DJマグナもまた、
光の中へ消えていった。
2011/05/04 Wed 01:47 [No.319]