No.235へ返信

記事投稿フォーム
題名
名前
補助
本文
他の入力項目
編集キー
  
送信

Re^3: 決意

あきはばら博士

アイビスは“インファイト”で殴りかかる。
「は、ああああああ!!!」
 この状況下で守りに入ると削り落とされることは、ジャグラーがカール戦で身をもって知っている。
 ここはジャグラーも“インファイト”で応酬せざるを得なかった。
「――二段突き!」
「ゲホっ」
「下段払い!」
「ぐっ」
「三段返し斬り!」
「うごごっ」
「巧み追拳っ!!」
「ぐあぁ」
 ……とは言え、やや一方的である。
「ややや、やるなクール…お前が誰であろうとも、あの人の為にお前を倒して生きて帰る!!」
 負けるわけにはいかないと、声を震わせて、さっきよりも強い“インファイト”を繰り出す。
「私を倒すだと?  その傷だらけの体で、勝てると、思っているのかっ!」
「舐めるなあ!!」
 アイビスの顔面をぶん殴るが
「ふんっ」
 そのまま“しねんのずつき”で迎えうたれる。
 そのインファイトの隙をジャグラーは見逃さなかった。

「甘いぜ……倍返しだぁ!!」

 ここぞというタイミングでジャグラーは“カウンター”を打ち込もうとする。
 避けることができない絶好のタイミング!
 ただ、問題は『相手の両腕が空いている』ことだった。
「……読んでいましたよ」
 ジャグラーの腕を逆手に捉えて、攻撃を流しつつ、足払いと共にジャグラーを投げ払う。
(……読まれていた!?)
 投げられた後、ゴロゴロと転がって受け身をとるが、そこに複数の“サイコカッター”が、ジャグリオに向けて飛ぶ。
「!?冗談じゃねえ、あんなのに当たったら真っ二つじゃねえか!」
 “かげぶんしん”で回避して、分身をサイコカッターに突っ込ませて相殺させる。 アイビスは少し離れたところから“サイコカッター

”を撃ち続ける。
 アイビスはメタモンだ、体力が常人の半分くらいしかないため、接近戦を続けるのにも限界がある。このまま行けばジャグラーよりも先に削り負けてしまう。自然とアイビスに冷や汗が浮かんでくる。
 だが、そこで勝負は意外な形で決着が付くことになった。
「……くっ!」
 と、ジャグラーがサイコカッターから避けるために“あなをほって”地中に逃げたのだった。
「……墓穴を掘ったか?」
 アイビスは“じしん”を撃ち込む。
 地中にいる限りジャグラーは絶対に避けることができない、それまでの戦いで受けたダメージでそれがとどめの一撃となった。

 こうかはばつぐんだ!

――あれ、ここはどこだろう?確か、朱鷺さんにやられて……そのあとに誰かがラプラスさんが死んだなんてことを言ってきて……
――大きな衝撃があった、地面が揺れた? 地震かな?
――あれ……?何か、見える……?ルカリオと、エルレイド……?あれ、でもあのルカリオは……
――いけない。ここで見るだけなんて……助けなきゃ!

「……ふう  ……か、勝った。でしょうか?」
 アイビスは地面に潜ったジャグリオを引っ張り上げて、ため息をつく。
「これが、もしも……  クール様だったら、きっと簡単に勝てたのでしょうか……?」
 そして満身創痍の自分を見る。
「やだ……まだ死にたくはない……」
「……ああ、私にはまだまだ、 クール様には、到底敵わないです」
 自分を軽く自嘲するように、そっと微笑みを浮かべる。
「く・・・そが・・・」
 ジャグラーはアイビスの顔を殴ろうとするが、腕に力が入らない。
「有言実行ほど難しいことはないな。私の勝ちだ。さて」
 そこで腕の刃を振り上げた。

「ッ!!」
 彼女の体はいつの間にか動いていた。 部屋から出て、ルカリオの前に出る。そして、ルカリオを守るように“リフレクター”を展開す

る…!

「!?」
 突然展開されたリフレクターにに驚き、ハッとしてアイビスは部屋の入り口の影を振り返る。
「あ……う……?」
 半ば覚悟を決めたジャグラーも驚く。

――この時、どうしてボロボロだったのに動けたのかわからなかった。
――不思議に思った。普通なら動くことすらままならないのに。激痛を感じるのに。
――ただ助けたい、その気持ちだけで動いた。痛みは感じなかった。
――そして、ドアを思い切り開け、今まさに刃が振り下ろされようとしているエルレイドの前に立ち――

 一体、何が起こったのかジャグラーには自分でも理解ができなかった。
 突然ドアが開いて、一匹のエーフィが彼の目の前に現れ、リフレクターで庇ってくれた。
 だが、このエーフィは……もしかして。
「シャドーボールっ!!」
「ぬぅ……!」
(間違いない。この人は、俺が絶対に守り抜くと決めた――)
「フィリット……さん……!」
 今まで何度か、歴史の資料でジャンヌ・ダルクなどの戦う女性をジャグラーは見たことがある。
 その時キレイだな、と何度か思ったことがある。
 しかし、そんなのとは比べ物にはならないくらい、今の彼女は美しかった。

「おとなしく寝てると思ってましたが動けたのですか……」
 アイビスには焦っていた、これ以上は戦えそうもないのに連戦は辛い。
「電光石火…!!」
 フィリットはアイビスに向かって“電光石火”を放ち、突き飛ばすことでアイビスとジャグリオとの距離を取らせる。
「まったくもって予想外だ」
 とフィリットから少し距離を取り、アイビスは苦々しく呟く。
「……フィリット、さん。……だめだ…逃げ…ろ」
「ううん逃げない……ここで、逃げられないっ!」
「フィリットさんが、敵う相手じゃないんだ…」
「で、でも」
「あ」
 アイビスはそこで彼の言っていた『大切な者』が誰かを悟った。
 ならば、これ以上は無粋だろう。その痛みは与えるものじゃない。クールではなくアイビスの考えとして、ここは身を引くべきだと思っ

た。
「……指令にない戦いをする気はない」
 なるほど確かに、守れる力はあったようだ。彼自身は負けたが、このまま戦った場合は確実にアイビスは彼女に負けるだろう。
 自分が死んではいけない。これはクール様からの命令だ。
「悔しいがここで身を引こう。止めはさせなかったがもうその状態では邪魔はできまい、目標は達した離脱する」
 アイビスは“テレポート”を使い、姿をくらませた。

「ッ……逃げた………っと…!!」
 アイビスがテレポートで離脱したことを見送ったあと、フィリットはすぐにルカリオ――ジャグラーの元へ駆け寄る。
「ジャグラーさん……ジャグラーさんだよね!?」
「フィリットさん……フィリットさん!……わああああああぁぁぁぁぁ!!」
「え、ちょ・・・じゃ、ジャグラーさん!?」
 ジャグラーは、フィリットに抱きついて泣いてしまった。
 正直、泣きたいほど怖かった。……せっかく最愛の人と出会えたのに、ここで死ぬのが怖かった。死にたくない。生きたい。
 普段は泣かないのだから、ここで思い切り泣いておこう。そうジャグラーは思った。
「大丈夫だよ、ジャグラーさん。大丈夫……もう何も怖いものはないから……」
 よしよし、とフィリットはジャグラーの頭を撫ぜていた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 あれから何分か経っただろうか。
 俺の涙も止まり、フィリットさんはさっきからずっと笑顔でこちらを見つめている。
「ねえ、ジャグラーさん。」
「ん?何だい、フィリットさん。」
「一つ聞きたいことがあるんだけど・・・」
「?」
「なんでGTSで治療してたジャグラーさんが、ここにいるの!?」
 ・・・え、今まで気づいてなかったの!?いや、それともあえて突っ込むのを待ってた!?
 まあ・・・どっちにしろ、驚いても仕方ないよな。だってあの時はすでにフィリットさんはいなかったし。
「実は、GTSに突然押し掛けてきたヨマワルとニャースの行商が来てな。そいつらに、アイテムをもらったんだ。それを使ってここまで

元気になったんだ。」
「そうなの・・・よかった・・・本当に、無茶ばかりして・・・あの時、私がいなかったらどうなってたかわかるでしょ・・・?」
 フィリットさんの目から、涙が出てくる。
 ・・・やっぱり、無茶したのがまずかったのかな。
「ラプラスさんも死んで・・・ひっく・・・ジャグラーさんまで死んじゃったら・・・私、どうすればいいのかわからないよ・・・!」
「え・・・?ラプラスさんが・・・!?」
 あのラプラスさんが死んだ・・・?ウソだろ・・・?
 いや・・・でも、あの時のクールはわずかだが、波動が違っていた。ということは、ラプラスさんと戦って・・・。
 でも・・・あのラプラスさんが死ぬはずが・・・。
「フィリットさん」
「・・・!」
 俺はフィリットさんを引き寄せて抱きしめる。
 ポケモンとは言え、温かい。人と同じくらいだろうか。
「フィリットさん。俺は、あなたが俺に思いを告げてくれた時、俺は嬉しかった。あなたがそんな風に思ってくれることがうれしかった。
俺も、あなたのことが好きだ。」
「・・・!」
「だから、フィリットさん。俺はあなたを守り続ける。あなたを残して、死んだりはしないよ。」
「ジャグラーさん・・・」
 俺はフィリットさんを強く抱きしめた。
 俺はもう彼女を悲しませない、心の中でそう誓った。

2011/04/13 Wed 01:08 [No.235]