No.175へ返信

記事投稿フォーム
題名
名前
補助
本文
他の入力項目
編集キー
  
送信

猫旅堂のエピローグ(前編)

ゆな

草むら茂る道路の途中、布の上に商品を置いただけの小さな露店から小さなポケモンのグループが走り去っていく。
 その後姿に向かって店員であるヨマワルがぶんぶん手を振って、見送っていった。

「毎度ありー! ジョウト地方のいろんなとこ見に行ってなー!!」
「はーい! ありがとうございまーす!」
「早く行こっ。あたし、コガネ行きたいコガネ!」
「ちょ、置いてかないでよ! 僕、遅いポケモンなんだから!!」

 元気のある少年少女の声はヨマワルに礼を言った後、そのまま真っ直ぐ次の町へと向かっていった。その途中で通り過ぎるポケモン達に一々騒ぎながらであり、中々滑稽ではある。
 しかしヨマワルは知っている。あのポケモン達はこの世界の住民ではなく、人間世界と繋がってからやってきた人間であるという事を。実際それを知った上で、地図などを売ったのだから。
 見えなくなったところでヨマワルは店の方に振り返り、腕を組んで店番をしているニャースに声をかける。先ほどとは一転して不機嫌そうな顔でだ。

「ったくレオード、ちょっとはお前もやれ。わいに押し付けんな」
「俺のキャラじゃないんでね。それに無愛想なニャースより、愛想の良いヨマワルの方が良いだろ?」
「あの子等はニャースのキャラ違うーって騒いどったで?」
「知るか。それに商売はちゃんとやったし、特に問題は無いだろ」
「……微妙に高い値段でな」
「向こうが分からなければ、それで良いだろ?」
「そやな」

 そんな小さな会話をしながら、ヨマワルはニャースの隣に座り込む。
 この二体は行商『猫旅堂』のレオードとマヨだ。ドリームメイカーズとデパートコンクエスタが大きく争っていた時期、目立たない形であったといえども元人間側に接触し、影でサポートをしてきた。もちろん有料で。
 あの戦いが終わった後、彼等の残した借金を返してもらう為に翻弄していたのだが逃げられる+色々とゴタゴタしてる+その他諸々の事情により、すぐに金は戻ってこなかった。
 その為、軽い商売を続けながら機会を図ることにした。要するにこちらもほぼ何時もどおりに戻ったわけだ。
 マヨは軽くため息をつき、客がいない事を良い事に軽く愚痴る。

「カモ増えたのは嬉しいけど、おおっぴらに出来んのが痛いなー」
「それを考えると、デパートコンクエスタとやりあっていた時期でいたかったか?」
「アホ抜かせ。儲けられるけど、こっちの神経が持たんわ!」
「だろう? これで肯定していたら、お前との縁を切っていたな」
「縁起でもない事抜かすな!」

 何時もどおり冷静な態度で物騒な事を口にするレオードに、マヨは手でツッコミ入れながら返す。
 普段ならばこのまま何時もの商売の体勢に戻るのだが、戦争の終わった後での平和が響いているのかマヨはニヤリと笑みを浮かべて、レオードに変な事を訪ねてきた。

「もしかしてお前、平和になったからって女捜そうって口か〜?」
「……は?」
「お前にも漸く春が来るのか、そりゃえぇわ! あの子等も恋愛しとったし、感化されても不思議じゃないもんな〜♪」
「おい、いきなりどうした?」
「あ、でもレオードが恋愛なんて始めたら天変地異の前触れやな……」

 一人勝手に盛り上がり、自分を見ながらニヤニヤと恋の話をしているマヨ。そんな相棒に対し、レオードは静かに立ち上がると何も言わずに『ツバメがえし』をぶちこんだ。
 マヨは浮ついていたせいでか、モノの見事に直撃して少し吹っ飛んでしまった。その後、頭に石をぶつけながらも浮かび上がると涙目でレオードに反論する。

「いったいやないか、ボケェ!? いきなりなにすんねん!?」
「人の話も聞かずに勝手に盛り上がった挙句、馬鹿な事を口にするからだ。他人で変な妄想するな、コイバナ好きが」
「えぇやん。他人の恋愛ほどおもろいもんはあらへんし。お前やてそやろ?」
「馬鹿を抜かすな。俺が他人に興味を持つ時は、そいつをどう利用できるか考える時ぐらいだ」
「相変わらずの悪魔っぷりやな、お前」

 にやつきながら言ってくるマヨの言葉をバッサリと切り裂き、再び座り込むレオード。そんな変わらない態度のニャースに、マヨは軽くため息をついてつまらなそうにする。
 己の相棒が何処までも冷静で、自分の事にしか興味が無いのはとっくに把握済みだ。あの戦いの時だって、一度もぶれた事は無かった。マヨ自身もそれに乗っかっていた為、今更何かしら言うつもりは無い。
 だが平和になった事とおおっぴらに動けない事で退屈しているのもまた事実。それ故にからかって遊ぼうと思ったのだが、やはりレオードは良い反応は示してくれなかった。自分で言っておいてなんだが、彼が恋愛をするというイメージは無かったし、頭に浮かび上げようと思ったら背筋がゾッとする程の違和感が迫ってきた。甘い恋の言葉を囁くレオードなんて、鳥肌でしかない。
 自分も的外れな事を言ったもんやなー……。
 どこか遠い目をしながら、マヨが心の中で呟いていたその時だった。

「なぁ、そこのニャースにヨマワル」

 不意にレオードとマヨに向かって、誰かが話しかけてきた。
 二人はすぐさま露店の前に体を向け、商売の体勢に入る。何時の間にか客が来ていたと気づかなかったが、買い物に来たのならばすぐに対応するべきである。
 そんな商売人コンビの前に現れた客人は、

「うち、人探してんのやけど知ってたら教えてくれへん?」

 訛りのある喋り方をする眼鏡をかけたモウカザル。

2011/03/09 Wed 00:46 [No.175]