氷河期の賢者
どなんエピローグポケモン世界編がとりあえず書き終わりましたので投下します。まだ推敲してませんのでご了承を。
気がついたのは全てが終わってからずいぶん後だったらしい。おそらく二日ほどの間、僕は死んだように寝ていたそうだ。ただ、そろそろ元の世界に戻らなきゃいけない時が来て、椎名さんが起こしてくれたそうだ。『めざましビンタ』で。それならもっと早く起こしてくれてもいいのにな、と思い少し憂鬱になったが、朱鷺さんに負けてから外の空気というものを吸っていないので、まだヒリヒリする頬にそっと手を添えながら、起き上がり歩き出した。
外に出ると、数人の戦士がいた。フィッターさん、フリッカーさんの兄弟の姿を見つけた。僕はフィッターさんに『リーフストーム』を教えてもらっている。礼くらい言わなければ。
「フィッターさん、あの、ありがとうございました!その、技を教えていただいて」
「いやいや。結果役に立ったのならそれでいいと思うし、嬉しいよ。どなんさんはどうするのかい?ここに残るの?」
「いえ、僕は帰ります。帰って、なすべきことがあるんです。この世界は楽しいし、これからの復興も見たい。しかも、自分を強く持てる。でも、僕は帰らなきゃ。帰って、僕自身の人生をもう一度歩みなおすんです」
「そうか、頑張って!行き来は自由になるはずだから、またいつでも戻ってられる!」
「はい!ありがとうございます!」
僕はフリッカー兄弟に別れを告げ、この世界での最後の目的地へと向かう。GTSだ。わが師、レッドバーンさんの死没地であり、最後に僕が弔うべき場所。行かなければ。行って報告しなければ。心を揺さぶるものを僕は到底理解できなかった。まだ僕の心は成長していない。その証なのかもしれない。
大都市であるコガネシティ。しかし僕がこの世界に来る前、ここでもものすごく大きな戦いがあったらしい。その爪痕は未だに残っている。大きなビルは悲痛な倒れ方で崩れ、ごちゃごちゃになって眠るように崩壊していた。
「酷いなあ……確かここでPQRさんが死んだ、いや元の世界に戻ったんだっけか。僕は戦いを知らないんだよな」
ついつい呟くが、恥ずかしさも何もない。人間は元の世界に帰っただけだが、ポケモンは違う。ここで幾匹が亡くなったか、僕は想像するだけで恐ろしかった。僕は持ってきていた花を少し出し、ジムの前に手向けた。今僕たちができること。それは故人を弔うことではないか。
僕はGTSにたどり着いた。その殺風景な雰囲気は依然と変わらず、僕がアッシマーさんと練習した時の壁の損傷もそのまま残っていた。まだ修繕が追いついていないのか、そこにいて不安になってしまうような場所だった。僕はよくこんなところで寝ていたな、と思い過去の自分を称賛する。
そしてレッドバーンさんの墓にたどり着く。墓石に刻まれた文字、『情熱の戦士ここに眠る』に染み込んだ汚れを僕は水できれいにして、呼吸を整え、手を合わせる。そして感謝の意を伝える。否、今までさんざん伝えてきたが。同じことを言うわけにもいかず、今日は感謝よりも決意を伝える。
「レッドバーンさん。僕は人間です。ポケモンではないんです。だから僕は戻らなければならない。そして、行き来自由でも僕は多分戻らない。現実から逃げたくないんです。
僕は確かにひきこもりで、今まで逃げてきた。でも、この世界で出会った皆さんは逃げなかった。そして、僕もこの世界では逃げなかった。僕はこの世界では強い――
けど、僕はジュプトルじゃない。何があっても結局人間なんです。また逃げたら、この世界で学んだことを全て捨てることになる。レッドバーンさんの命も。
世界は違うかもしれない。けれどレッドバーンさんには応援してほしいんです。大丈夫。僕強いですから」
僕はそれっきり、言葉を発せなかった。
――泣いてしまった。
瞳から零れる雫をぬぐうこともなく、僕は泣きやむことはなかった。そして、泣きながらその場を去る。何か分からない、こみあげてくるこの気持ち。結局僕は割りきれていなかったのかもしれないけれど、いつかこのことを冷静に見ることができる日が来る、そんな気がしたんです。
2011/03/08 Tue 23:19 [No.169]