Sgt.LUKE
その男は今日も事務所にいた。
身長一八〇センチくらいで銀色の髪に緑目。全身真っ黒い服に室内でも赤い外套(マント)を羽織るその男――――探偵・ジキルである。
「…………………………」
探偵・ジキルはちょうど先週くらい前に友人のスピードワゴンから頼まれた幽霊事件(ジキルが二秒で命名)を終えたばかり。結局あの事件の詳細はどうだったかと言うと、ジキルはスピードワゴンに『幽霊を発見した』と言ったときから既に『本体』を発見しており、敵を挑発気味にあしらっていたのもアイコンタクトで本体探しに出動させたスピードワゴンの時間を稼ぎ、敵『本体』気付かせないためだった。
その後スピードワゴンに殴り飛ばされた敵本体は自分の『幽霊』を使って盗みをはたらき続けていた事が発覚したため『貧民街の住人から物を取るとは何事だッ』とスピードワゴンによって牢屋にブチ込まれたのである。
もちろん『事件』から今に至るまで何もしてないわけじゃあない。ちゃんと他の依頼もやっていて――現在。黒尽くめゴシック探偵は紅茶片手に今日の新聞を読んでいた。
新聞の見出しにはこんなことが書かれている。
『謎の獣人(じゅうじん)またもや出現』
(……………………………………ハァ)
現代社会なら考えられないことだろうが、この時代は一九世紀である。身も蓋もない噂(うわさ)レベルのことが平気で載ってたりする。
けれども、もう一九世紀だ。特にこの国イギリスはいち早く産業革命が起こり、世界的にもトップに座している。そんな最先端の国がこんな都市伝説じみた情報を世間に流しているということは――――
まさか、本当に…………?
本文はこう書いてある。
『一昨日(おととい)ロンドン市内の某教会付近にて全長ニメートル程の黒い毛を生やした二足の足で立つ奇怪な生物が目撃された。
その生物はここ最近に市内のいくつかの教会付近で目撃されており、その生物の風貌がイヌ科のようなことから生物学者達は早急に調査……』
(……なーんだこりゃ?)
ジキルは紅茶をすすりながら考える。謎の生物?
実を言うと先ほど述べた『他の依頼』というのはこの謎の生物が目撃された教会で請け負っていた仕事だった。だが、自分にはそんな生物見た覚えがない。ジキルはうーん、と頭をよじらせ、
不意に合点がいった。
どうやら自分にはわかってしまったみたいだ。
謎の生物の正体が。
(なーるほど)
ジキルの表情が少し満足げになる。
では一体、その生物の正体は何なのかというと――
ガチャリッ
事務所のドアが開く音がした。
「………………ッ!」
ジキルはその音を聞くとほんの少し真面目な顔つきになって、
「いらっしゃいませ」
2010/02/13 Sat 18:15 [No.69]