サクラノキ
「お願い」
お願い。目を開けて。
貴方がその目を開けなければ、
俺は確かめることができない。
貴方の生と、その貴方自身を。
柔らかに瞑られたその目は、
もう開くことはないのか。
答えて下さい。答えを下さい。
俺を置いて逝かないで下さい。
助けを求められたその瞬間から、
頭のどこかでは思っていた。
こんな日が来てしまうのではないかと思っていた。
思っていた。けど、
それに対して喜びを抱くほど俺は薄情な奴じゃない。
死、という無が、
自分に何かを与えてくれるとは思っていない。
生、という有が、
自分を殺していくとは思っていない。
俺なら、
助け出せると思った。
やらなければいけないと思った。
そう、思っていたんだ。
お願い。目を開けて。
貴方がその目を開けなければ、
俺は確かめることが出来ない。
貴方のその瞳に、
映ることが出来ない。
映った自分を、
見ることが出来ない。
確かめることが出来ない。
貴方の生も、貴方自身も、
お願い。
2010/06/13 Sun 20:10 [No.31]